屋敷のお披露目
とりあえず、ギルドで困っていた暁さんたちの件は、ひとまず保留ということで片がついた。
捕まえている犯罪者は、そのまま規則通りに王宮に運ばれて、無事に犯罪奴隷と成ったようだが、それ以上の詮索はされなかったようだ。
だが、この件は保留扱いのままだ。
なにせ、エセ貴族だろうが俺が関わっているのだから、俺に対してきちんとした説明がなければ終わらない。
そんなこんなであっという間に10日が経ち、今日はお披露目の日となった。
俺はギルドの件も片付いていなかったこともあり、嫌がらせのつもりで、お披露目に宰相にも案内を出してもらった。
エセ貴族の俺の屋敷のお披露目程度に一国の宰相が参加することなど無いとわかっているのにもかかわらずだ。
この案内状には、領地で預かる借金奴隷の件や途中で襲ってきた連中の件について、王宮も一部関わっていると聞いているが、きちんとした説明がないというクレームまでつけての案内状だ。
というよりも、宰相の手元に確実に俺のクレームが届くように貴族の風習を利用させてもらった訳だが、周りからは呆れられた。
普通は、季節の挨拶から始まり近況などについて軽くと聞いたので、俺は季節の挨拶のところに、領地で預かる連中についての説明を入れて、近況のところでは王都に来る時に襲われた件や、王都に入る直前に待ち構えていた軍勢の件を入れていたのだが、それがツボにはまったのか、伯爵などは笑っておられたが、お姉さん方からは怒られた。
「ありえない」 の一言から始まり、お小言をしっかりと頂いたのだ。
当日、宰相は当然来るはずはないのだが、宰相府から一人の事務官が代理で出席するというハプニングに見舞われた。
宰相府に勤め、かつ、宰相の代理として来るのだから平民というはずはなく、だが、貴族と言っても騎士爵という最下級の貴族が代理で出席して、先の治安の不備などを詫びてきた。
宰相としても男爵邸の訪問に上級貴族を持ってくるような圧力ともとられないことは避けて、十分に俺に配慮した形での今回の代理の派遣になった。
そのあたりについては、俺は伯爵直々に聞かされたこともあり、先の案内の不躾を恥じて宰相にも、託に合わせてお土産を奮発して先の代理の方に持たせた。
屋敷のお披露目も、ほとんどうちわに近い形で行われたこともあり、宰相代理の訪問以外に大したトラブルもなく、終われた。
その後は、オークションでの借金奴隷の件だけになるが、これも伯爵にも話を通しているので、問題は無いそうだ。
既に、王都でいろいろとしてしまったこともあって、侯爵の派閥は今はほとんど動けないらしい。
それに俺からのチクリだけではないが、あのやらかしについて宰相府の方でも捜査を始めているらしい。
多分、侯爵逮捕まではいかないが、下級の貴族のお取り潰しを何件か受け入れて手打ちになるらしい。
伯爵の方でもすでに、宰相の方から手打ちの条件に付いての相談も来ていると、俺に教えてくれた。
俺としても、これ以上厄介事がこちらに来なければなんでもいいので、「お任せします」の一択だ。
お披露目の3日後に商業ギルドでオークションが行われたが、大した盛り上がりもなく、それも終了した。
その後、俺には驚くことが王宮から知らされた。
お隣の貴族さんの家がお取り潰しになったそうだ。
俺のお隣が潰されるのは別にかまわないけど、それによって難民が発生することが無ければいいが、何せ、俺との境にある関を長いこと閉鎖している関係で、街道と言えども安全に通れる保証など無い。
ある程度の冒険者ならば、冒険者に護衛されてならばどうにかなるかもしれないが、それなくしては今のあの街道は自殺行為にしかならない。
まあ、近くまでくれば、毎度のことなので拾って助けるけど、そこまで果たしてこれるのかな。
一応武器まで持たされた兵士でも簡単にやられているのだ。
尤も兵士の方は街道を通らずに直接森を抜けようとはしていたので、条件は異なるけど、それでも女子供では……まず無理だろうな。
だからと言って助けるのも違うし、何より貴族社会の掟と言えばいいのか、とにかく他領へのちょっかいは、そのまま攻撃とみなされるので俺には何もできない。
そのあたりについても宰相がどうにかするだろう。
王都での仕事は……いくらでもあるが、何も俺自身が率先してやらなければならないものでもない。
それに、そろそろキナ臭い話も聞こえてきそうなこともあり、俺は領地に戻ろうかとしていた矢先に宰相から呼び出された。
『しまった!
逃げ遅れた』
王都にいることがばれており、そこに呼び出しがあったとなれば素直に従うしかないので、俺はバトラーさんを連れて王宮に出向く。
すぐ宰相の執務室に呼ばれるが、当然呼ばれたのは俺一人……なので、バトラーさんは控えの間にて、情報収集に専念してもらった
控えの間には王宮に用のある貴族やその使いの者たちが集められる場所で、下級貴族や、その使いの者たちが集っているから、情報収集には最適の場所で、どこの貴族家も同じようなことをしているらしい。
そのような控えの間ではうちはかなりの人気があるようだ。
俺が呼ばれる少しの間でもひっきりなしに貴族たちからの接触が後を絶たない。
そんな俺だが、思いのほか早く宰相に呼ばれたので、王宮の事務官に付いて行く。
この人俺の屋敷のお披露目の時に宰相の代理としてきてくれた人だった。
既に面識があることあって、その人に呼び出された理由を聞いても「宰相閣下に直接お聞きください」だって。
まあ、口が堅くなければ宰相の元で仕事などできないだろうが、それにしてもヒント位教えてくれてもとは思う。
そうでなければなんちゃって貴族の俺の胃が持たない。
大きな扉の前まで来た。
ここは王宮で最初のパーティーの時に呼び出されたときに来た場所だ。
ひょっとして俺の隣の領地のことかな……どう考えてもそれくらいしか思いつかない。




