返り討ち
「え?レイさん。あ、……男爵、あれをしてくださると」
「いちいち言い直さなくても。それ、やってしまっても良いですか」
「お願いします、男爵」
セブンさんの許可も出たことだし、俺は前に出ているサーシャとダーナに下がるように言う。
セブンさんも同様に仲間に注意を出している。
俺たちが下がりながら体勢を変えていると、襲ってきている連中はここぞとばかりに前に出て攻めてきた。
俺は、前の時と同じように、いや、あの時よりは余裕があるので、もう少し冷静にこれから放つものを考えながら準備している。
油や塩まで流すと後の片付けが大変そうなので、今回も出すのは、海水から塩を抜いた残りの水と、俺がこの世界に来た時にアイテムボックスの容量を調べるために取り込んだ木々や石などだ。
「では、行きますよ」
俺は一声かけてから、アイテムボックスから一斉に取り出した。
何度見ても……と言っても二度目だが、酷い絵面だ。
大量の水に交じって大木や大石などが流されていく。
水が引いた後、今度は暁さんたちも余裕があったのか、打ち漏らしというか、被害を免れた連中を狩りに前に出ていく。
それを見ていたサーシャまでもが嬉しそうに前に狩りに向かう。
あれ、完全に遊んでいるな。
そう言えば最近一緒に狩りに行ってなかったし、サーシャが楽しそうなら好きにさせるか。
それにしても、あの時と同じような状況なのに、結果は全く違う。
あの時には、本当に余裕などなく、生き残るのに必死だったのに、今回は、サーシャが嬉しそうに野盗たちを狩りに向かう。
さてさて、俺は奴隷たちを使って、そこら中に倒れている野盗たちを回収に向かう。
アイテムボックスの中には、本当に何でも入れていたな。
荒縄と取り出して、回収していく野盗たちを片っ端から縛り上げていく。
やはり、本物の土石流とは違うとはいえ、大量の水と流木だ。
大怪我ならばまだ良かったが、あまり見たくない状況の亡骸も出ている。
とりあえず、奴隷たちには亡骸には触れずに、怪我をしている野盗たちから回収に取りかかってもらう。
しばらくすると暁さんたちが戻ってきた。
ほとんど捕まえたようで、何人もの野盗を連れてきている。
「これって、どうしますか」
「ええ、野盗ですので、このまま王都まで運び、官憲に引き渡しますよ。犯罪奴隷として、賞金が出ますしね」
「亡骸は、それは私たちが……」
どうも遺体の一部を持っていくらしい。
俺はまだそこまでグロに耐性が付いていないので、任せることにした。
怪我人は簡単な治療を施して、無理やり馬車に乗せた。
乗せきれなかったのは、奴隷たちに希望を募り歩かせることで、捕まえた怪我人を全員馬車に乗せることができたので、歩くことを希望してくれた奴隷たちにはいくばくかの金を出すことにした。
暁さんたちが言うには、逃がしたのがいるかもしれないので、また襲われるかもしれないという。
そこで、ここで捨ててしまおうかと考えていた大木と大石をもう一度アイテムボックスにしまった。
一度に運ぶ人数が増えてしまったが、問題は無い。
普通食料などの問題もあり、途中の村に頼むかするが、俺たちはそのまま王都に向かうことにした。
途中で、何度か夜盗のようなものたちを見かけたが、さすがにどの夜盗もバカではない。
捨て石に使える連中を大量に抱えているので、攻めてきてもあいつらを盾にして戦えば簡単に制圧できるし、それが夜盗にもわかるようで、遠目で見かけてもそそくさといなくなり、5日かけて王都のそばまで来た。
あの、遠くから王都を見渡せる丘の上までくると、王都が一望できる。
そうすると、いるんだよな夜盗とも違う連中が。
どうも、俺たちを王都の中に入れたくはないようだ。
さてさてどうするかっていう感じでもないか。
俺はアイテムボックス通信を使い、伯爵と宰相にこのことを伝えて、指示を待つ。
そう、社会人ならば報連相は大事だ。
流石に王都の目と鼻の先であの土石流を使う訳にもいかないだろう。
俺たちが、あいつらと戦っても問題ないというのならば、ここでも遠慮なくあれをぶっ放すが、さすがに後処理が面倒になりそうだ。
しばらくすると、王都から返事が返って来た。
伯爵が、宰相のところの者と一緒に出迎えてくれるということになったらしい。
しばらくここで待てとの返事だった。
俺は暁さんにこのことを話して、ここで休憩することにした。
怪我した野盗連中も、少し治療もしてみる。
何せ、今にも死にそうなものだと、犯罪奴隷としても売れそうにない。
せっかく奴隷たちが向こうからやって来たのだ。
もう、俺には連中が金貨にしか見えない。
まあ、せいぜい銀貨程度でしか売れない者もいるが、それでも鴨葱な者たちだ。
そのままここで一晩明かすと、翌日にはあいつらは誰一人もいなくなった。
流石に王都に残る連中から話が言ったのだろう。
王都のそばで、国に対して喧嘩を売るところまでは馬鹿ではなかったようだ。
それにしても、返り討ちに会う可能性を全く考えてもいなかったのだろうか。
誰が武装を持つ連中を集めたのだ。
王都のそばで一定程度以上の武装勢力を集めれば、問題にされない訳はないだろう。
下手をしなくとも反乱を疑うレベルだ。
それをしても、問題にされないくらいに政治力を持つ者だろうが、それでも成功すればの話で、今回は明らかに失敗だ。
この先も……面倒ごとにしかならないな。
考えたら、頭が痛くなってきた。
そうこうするうちに、数人の宮使いと思しき者たち数名がやって来た。
「シーボーギウム卿はおられますか」
誰かを探しているようだ。
「レイさん。
あれって……」
暁のイレブンさんが俺に言ってきた。
流石に野宿生活を5日もすれば俺の希望通りとまではいかなくとも男爵呼びは無くなった。
だが、それにしてもここには俺たち以外居ないのだが……




