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また襲われた

 

 焚き火の前には、イレブンさんと話し込んでいる地味な身なりの領主の部下の方がいた。


「男爵様、今回はこのような形で大変申し訳ありませんでした」


「いえ、お気になさらないでください。何より、領主様のご配慮、こちらとしては大変助かりました」


「そう言っていただければ……」


 そこから、領主が遣わした事務官と事務的な話が始まった。

 俺たちの会話を横で聞いていたイレブンさんは徐々に硬直し、そこに奥さんのセブンさんも加わって、イレブンさんを慰めているようだった。


 事務官との話し合いが終わり、今度はイレブンさんたちのフォローだ。

 イレブンさんは完全に固まっている。

 ここでフォローを失敗すれば、二度と口をきいてくれない危険性があった。


 俺は急ぎ、暁のメンバーが屯する焚き火の前まで向かった。

 俺が近づくと、暁のメンバーはイレブンさんだけでなく、全員が顔をこわばらせていた。

 あまり良くない兆候だ。


「イレブンさん、それにセブンさん。私の話を聞いてください」


「いえ、男爵様、何を……」


「まずは、その『男爵様』というのはやめましょうか」


「いえ、貴族様に対しては……」


 本当に埒が明かない。この状態をどう言えばいいのか。

 押し問答とも違うが、とにかく会話が成立しない。


 俺は困り、ダーナを呼んで暁の皆さんに話してもらうよう頼んだ。

 ダーナも最初は少し困った様子で話し始めたので、俺はこの場を一旦離れ、任せることにした。

 その様子を眺めていたサーシャが何か思いついたのか、ダーナに加わり、何やら始めている。


「ありゃ〜、かえってまずかったかな」と一瞬思ったが、サーシャが加わって場をかき乱しているようにしか見えないものの、それでもどんどん暁さんたちの周りの空気が和らいでいくように見えた。


 しばらくすると、サーシャが俺を呼びに来た。


「ご主人様、セブンさんたちがお話したいと」


 どうにか、俺の話を聞いてもらえそうだ。俺はもう一度、暁さんたちが集まっている焚き火の前まで向かい、セブンさんと話を始めた。


「いや〜、とんでもないことになりましてね〜」


 俺がそう切り出してから、簡単に叙爵から領地拝領までの経緯を伝えた。


「え、え、男爵……様……」


「その、『男爵様』というのはちょっと。

 今回、モリブデンに残してきたバッカスさんやドースンさんなんかは、俺からの頼みで以前のままレイさんとして扱ってくれていますから、ぜひ暁さんにも……」


「いやいや、それは無理」


 まあ、俺の方から歩み寄るしかないと、とりあえず話を続ける。

 一通り話し終えると、どうにか納得はしてくれたようだが、それでも……という感じだった。


「すると、男爵は病気の治療をして叙爵されたという訳ですか」


「ああ、モリブデンで奴隷の治療を始めたのをどこかで聞いた人がいて、それで伯爵のご子息の治療をして、無理やりだな」


「そんな。無理やりは無いでしょう」


「え?だって、俺は叙爵なんかに興味はなかったよ。

 それに、騎士爵で止めてくれればよかったのに、本当に面倒な領地を王宮から押し付けられて、今回の移動に繋がったようなものだ」


 俺は、今回30人の奴隷の移動についての裏話まで暁さんたちに伝えた。


「え?そんな〜」


 イレブンさんは王都の貴族が絡む案件と知り、またも絶望したような顔をしている。


「そんな話は聞いていませんよ」


 セブンさんは恨めしそうに俺のことを見てきた。そりゃそうだ。

 昔の知り合いが貴族になっただけで怯む人たちが、今受けている仕事が貴族同士の謀略絡みと知れば、嫌な顔をしても不思議ではない。俺でもそう思う。


 しかし、なぜ今回の護衛の話の時にその話を伝えなかったのだろうか。


 これは、下手をしなくても襲われるパターンではないか。俺は暁さんたちに状況を説明しながら、その危険性に気が付いた。


 唯一希望を持つならば、侯爵たち一派が、シーボーギウムからモリブデン経由で王都に向かう際の日程を知らないことだろうか。

 これは俺の予想だが、普通に王都からシーボーギウムまで一月の位置にあるので、いくら船を使うからと言って、これほど短縮されるとは思っていないだろう。


 もしこの事実を知れば、シーボーギウムをあそこまで放っておいて荒れさせなかったに違いない。

 だって、物流を握ればばそれこそ簡単に稼げるのに、それも、先代か先々代の領主様は知っていたはずだ。


 どういう経緯か知らないが、俺の前の領主はその事実を知らない。

 なので、侯爵一派が俺たちに気が付く前に王都に入らないと、それこそ本当に危ない。


 そんなことを考えていると、フラグが立つというか、急に暁さんたちの様子が変わる。


「男爵、どうやら……」


「え?え?ひょっとして」


「少し苦戦するかもしれませんね」


「人数が多そうですが」


 あれ、言った傍から襲ってきた連中がいるようだ。もしかして、俺が暁さんたちと初めて出会った状況に似ていないか?ならば、地形を確認して……あれ、似てないか?場所はあの時はモリブデンのそばだったけど……って、今回もそばじゃないか。


 地形が似るわけだ。


「襲ってきた。気をつけろ」


 俺たちの周りに無数の矢が飛んできた。


「危ない」


 俺の横でダーナが矢を落としながら言っている。

 連れてきた奴隷たちは、俺たちが盾になる位置なので、俺たちが倒れない限り大丈夫だろう。


 本当に危ないな。


「セブンさん、俺、あれやりましょうか」


 俺は暁さんたちと会った時のことを思い出し、本当に久しぶりというか、あれから二度目になり、あの時以来使ったことのない「土石流」と名付けた魔法……要はアイテムボックス内に溜めてある大量の水と岩石類。

 あれ、もう入れておく必要はないが、アイテムボックス内の整理をしていなかったので、あれ以来入れっぱなしのものだが、それをやろうかと護衛の責任者であるセブンさんに聞いてみた。



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