お国入り
船は予定通り3日で、シーボーギウムの港に入った。
「確かに聞いておりましたが、船を使えば便利なものですね」
「ああ、王都から優に一月はかかる領地との行き来が、モリブデンを経由して船を使うだけで、半分以下で来られるというのだから、なぜ今までそうしてこなかったのかが不思議でならない」
「海中に住む魔物を恐れてと聞いておりますが」
「え!
ひょっとして俺達は偶々無事だったのか」
「いえ、定期的に行き来して魔物を狩れば割と安全だそうですよ。
モリブデンと交易がある港町とはそれで安全を担保しているそうですから」
「そうなのか……」
「それに、この船にも乗せておりますが遠距離攻撃ができる冒険者を乗せておけばまず安心ですね。
ついでに定期的な魔物の駆除にもなりますし」
俺が、モリブデンに来る貿易船のことも合わせて説明していく。
俺の説明を聞いて、俺が連れてきた人たちは、驚き安心すると言った忙しい状態だった。
その後も何やら話し込んでいる。
「それなら、ここまで立派な港があるのにそれをしていなかったというのは……」
商人ならば誰でも抱く疑問を話している。
ならそれまでの領主は何をしていたのか……これだけで簡単に富が落ちるのにと俺でもそう思う。
だが、それができなかったからこそ寂れて、衛生状況を維持できずに、また、食糧問題を抱えれば簡単に疫病にでも罹るわ。
実際にそれでこの街が滅びそうになったのだし。
「そういえば聞いたことがあるな。
先代、先々代の領主がここに港を作ったときにはかなり栄えたと」
「ええ、代が変わり港の維持費をケチって使えなくなったとも聞きましたが」
「そんなことか」
港での立ち話も簡単に終えて、俺達は歩いて領主の館に向かった。
バッカスさんがここにいれば俺達が着く頃には馬車を寄越していたものだが、そういう人材がここには居ない。
いや、俺はそういう人材に限らず、全てにおいて人材が不足している。
辛うじて、街を魔物から守る冒険者や兵士などについては、俺が行ったパワーレベリングのおかげと、奴隷の騎士たちをここにつれてきたことで、その部分だけは問題は出ていない。
街の安全は最低限の仕事だしな。
館に着くて中の者たちが出迎えてくれた。
マリーさんが先頭で俺達を出迎えてくれたときにはバッカスさんとドースンさんは泣き出しそうになるくらい感激していた。
フィットチーネさんは懐かしそうに彼女に話しかけている。
「お久しぶりだね、マリー。
元気にしていたようだね、安心したよ」
「ええ、御主人様に大変良くしていただいておりますから……」
少し話し込んでいるようだが、久しぶりにあったことだしそうなるよね。
……ただ、今の会話が聞こえてきたのだけど、マリーさんの言葉に少し棘を感じたのは俺だけだろうか。
特に『大変良く……』のあたりに、強く棘を感じた。
あれって、絶対に俺が仕事ばかりを無軌道に増やしていることへの不満の現れだろうな。
俺も自覚しているからそろそろ許してはくれないだろうか。
……
うん、とりあえず俺の領地へのご案内という仕事は済んだと言えよう。
あとは、借金奴隷についてだ。
今回はドースンさんも協力してくれるというので、フィットチーネと二人で、治療の終わった奴隷候補たち30名を奴隷化していく。
この分ならな、明日にはモリブデンに帰れる。
まだ治療中のものもいるので、今回だけで問題が解決するとは思わないが、だいぶ楽になる……定期的にまだ、森からけが人を拾ってきているらしく、治療中の者が30名入ると聞いた。
え、それならコイツラを王都に連れて行っても、俺がここを立つ前と状況は変わらないのか。
「いえ、ひどくなる前に第一弾を送り出せますので、だいぶ助かりますが」
まだまだ前途多難だな。
状況を聞く限りでは、お隣さんは一切ここへのちょっかいを諦めては居ないようだ。
しかし、どう考えてもお隣の領民の数だって無尽蔵ではないはずだし、何より働き盛りの大人の男性ばかりが居なくなるのだ。
今年はまだいいが、来年以降ともなると農作業にだって支障が出ないか俺のほうが心配になってくる。
本当に大丈夫かな。
後で俺の方に厄介事が……考えるのを止めておこう。
どうなっても知らん。
とりあえず、当初考えていた計画通りに事が運び、俺は翌日には予定通り奴隷たちを連れてモリブデンに戻っていった。
モリブデンの港では、店から人が応援できていてくれたが、それ以上に驚いたのが領主様が護衛の兵士を出してくれた。
俺達は早速、領主様が用意してくれた馬車に奴隷たち30人を乗せたら、有無を言わさず王都に向け出発していた。
「あ、あれって……」
「レイ様。
あれは面倒はすぐにどこかにつれていけという領主様からのメッセージ以外にありませんね」
「すみませんでした、フィットチーネさん。
流石に俺はついていかないとまずそうなので」
「ええ、ドースンたちのことはお任せください。
こちらでしばらく接待したあと王都に戻しますから」
「そうしていただきますと助かります」
「ええ、向こうを立つ時に、マリーにお願いされたことですから」
「え?
そうなのですか」
「それより、レイ様。
馬車はそろそろ街を出ますよ」
「そうでした。
本当にご迷惑をおかけして申し訳ありません。
この借りはすぐにでもお返ししますので」
「気にせず、お仕事をがんばってください」
俺は何時もの護衛の二人を着けて、先行している馬車を追いかけた。
馬車は一応、領主様が依頼した冒険者たちが護衛しているはずだが……
「あれ、レイさん」
「あ、セブンさんですか。
お久しぶりです」
そう、俺が最初に助けられた冒険者の暁のイレブンでしたっけ。
あれ、ファミリー@―トだったかな。
まあ、どこぞのコンビニのような名前だったかと思ったのだが。
あ、そうだ、思い出した。
暁のリーダーの奥さんだったセブンさんだ。
「セブンさん。
お久しぶりです。
旦那さんは」
「イレブンね。
あっちでキャラバンを差配しているわよ。
それよりも聞いたわ。
何でも王都でも商売しているとか」
「ええ、順調に稼がせてもらっております」
俺が話し込んでいると、遠くから呼ばれた。
「男爵。
おいでですか」
「ああ、どうした」
「え? え?
男爵……様……なの。
……レイさんって」
「え?
話していませんでしたか。
後でゆっくりと説明しますが、今は呼ばれたので」
俺はそう言って、キャラバンの中央に向かって歩いていった。




