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王都の商人ギルド

 

「良いよい。

 それで、お披露目については」


「はい、はっきり言って私は使い物なりませんので本日は実務担当者を連れてきております。

 ですので伯爵邸からお借りできる執事やメイドたちとうちの実務担当者で直接話をさせたく……」


 流石に俺でもこれはかなり不躾な願いであることから、お願いしている最中に恥ずかしくなり語尾がだんだん小さな声に成っていった。

 だが、伯爵は俺のことなどお見通しとばかりにそんな些細なことを気にせずにすぐに屋敷の執事長とメイド長を部屋に呼んで、直接話をさせた。


 それで俺達はというと、あの噂についての話をしている。

 俺の計画はすでに伯爵に話しているので、伯爵の方でも早速噂を流しているとか。

 伯爵邸の出入り商人を使って商人ギルドにも話をしているようで、俺が王都を離れる前には一度商人ギルドを尋ねるようにも伯爵から言われたくらいだ。


 俺は伯爵の勧めもあって、一度商業ギルドに顔を出した。

 受付で話をと思い近づくと、受付の方が俺に気が付き慌てだした。

 カウンターの奥から偉そうな人が出てきて、俺を奥に案内していく。


 俺はその人についていくしかないので、なされるがままについていくといきなりギルド長の部屋に通された。

 ここのギルド長とは一度パーティーで顔を合わせているので、知らない訳でもないが、あの時以来話したことが無いくらいの知人とも呼べないくらいの間柄だ。


 これがモリブデンともなると、色々とあったのでかなり親しい間柄とも言えなくもない。

 尤も俺が被害者だったこともあり、職種柄親切にしてしてもらったというのもあるが、王都のギルド長とは、幸いというか、確かに王都の店でも貴族がらみで問題はあったが、お得意様の貴族家令嬢の方々のおかげもあり、問題が大きくなる前に勝手に解決していたので、ギルドとはあまり関わり合いも無かったということもある。


 ギルド長は俺のいきなりの訪問でも驚かずに、部屋の応接スペースに俺をいざなう。

 俺は素直に従い、いきなりの訪問を詫びた。


「すみません、いきなりの訪問で」


「いや、レイ男爵におかれましてはそのような些細なことをお気になさらずとも。 

 それよりも、今日の訪問は」


 いきなり核心を聞いてきた。

 俺のいきなりの訪問のことを相当気にしているようだ。


「ええ、すでに王都で噂になっているようですが、今度私のところで預かっている借金奴隷のことなのですが」


「やはり、そのことですか」


 ギルド長も街の噂を気にしていたようで、すぐに食いついてきた。

 まず、ギルド長が最初に俺に聞いてきたことは、噂が本当のことなのかということだ。

 そもそも俺のところから借金奴隷が、それもまとまってオークションに出されるのかを聞いてきた。


「まず、噂についてですが、私のところで預かっている借金奴隷はおりますし、それを近々王都に連れてまいります」


「やはり、噂は本当のことでしたか」


「本当のこと? 

 確かにギルド長ともなると噂をいちいち気にされては……」


「いや、私も商人の端くれなので、情報の大切さは理解しておりますが、男爵様の噂となると……」


 その後ギルド長が説明してくれたことでは、俺のことでかなり前からいろいろと言われていたようだ。

 最初は、やはり俺が王都で貴族ともめた件だ。

 その時も、いろんな噂が飛び交ったらしい。

 まあ、あの時は直接俺がどうとかではなく、悪徳貴族が王都の店の権利を無理やり如何こうしようとしていたことのようだが、それは本当のことだし、悪徳貴族が王都から逃げ出したら、自然と消えて行った。

 ギルドとしても、たいして問題にしてもいなかったが、その後の俺が貴族に成り上がったことでいろいろと調べられてもいたようだ。

 その時の、あの時の件ももう一度確認されたとか。


 それよりも、俺のうわさとしてはシーボーギウムの繁栄のことや、俺が隣接する領地から住民を攫ってくるとかの件で、少し警戒していたところで先の借金奴隷のことがあった。

 近々俺のところを訪問してその件の真意を調べる準備をしていたらしい。

 俺の寄り親の伯爵にも相談していたらしく、伯爵が俺にギルドの訪問を進めていたのもうなずける話だ。


「その件ですが、確かに隣接する領主や寄り親の伯爵と敵対している侯爵がらみで、いろいろと言われているそうですね」


「ええ、しかしシーボーギウムについては流石に私も長らく商人をしておりましたので、悪意を感じてはおりましたが、借金奴隷の話が伝わりますと男爵の隣接する領地への件では少々真意の判断ができてはおりませんでしたので」


 そこで俺はギルド長に借金奴隷の件を詳しく説明していく。 

 借金の根拠も、併せて説明すると、ギルド長は驚いていた。


「男爵のところでは病気だけでなく怪我までも治せるのですか」


「怪我の治療は、簡単なものだけだ。

 腕や足が無くなったものを元に戻すようなお伽話のようなことはできないよ」


「それは、とても残念ですね。 

 伯爵様の御子息様の病をいとも簡単に直された男爵なれば、怪我もものすごい治療があると想像しておりましたので」


 ギルド長はとんでもないことを言い始めた。

 俺にIPS細胞を使った人工臓器の治療法ができればいいのだが、そんなのは俺の元居た世界でもまだ実現していない技術だ。


 たとえ実現していたとしても俺は医者でもないし、そんな難しいことなどできるか。

 まあ、この世界の人間に話したところで理解されないだろうが。

 それに病気にしたって、家庭の医学以前の話で、この世界ではそれ以下のことしかできていない。


 流石に魔法があるので、何かありそうなものだが、今のところ少なくともこの国では病気は怖い。

 インフルエンザでも不治の病になりかねない。

 あのご嫡男だって多分だがインフルエンザだ。

 俺のしたことは対処療法でしかなく、良いものを食べている貴族だったからできたようなもので、貧しい一般庶民だったら、正直あそこまで悪化させては難しかっただろう。


 あのご嫡男だって肺炎でも起こしていたら分からなかったくらいだ。

 しかし、あの治療のせいで俺のこの国での評価はとんでもないことになっている。

 その後の王都に運ばれた奴隷たちの件でも大活躍にされての領地の拝領に繋がっているが、それですら、病気の治療あっての話だ。

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