工事中の王都の屋敷
無事に挨拶する必要のあるところには、挨拶を済ませたのでこれで王都での仕事は無い……いや、整備中の屋敷のことで、仕事はいくらでもあると聞いているから、できるだけ早急に王都を離れる必要はある。
そうでなければ、仕事が……何時までも王都から出られなくなる恐れがある。
でも、王都でも、モリブデン同様にしばらく相手をしてなかったことだし、数日は頑張らないとまずいか。
家庭内の平安のために頑張るのも家主としての努めだな。
王都でも、頑張りました。
今まで放置していたつもりはなかったが、それでも寂しさをこじらせた者も出始めていたくらいで、そろそろローテーションでも考えよう。
そういえばメイドたちにはローテーションで、モリブデンと王都で人員を入れ替えていたけど、俺が貴族になり屋敷を拝領した辺りからそれも途絶えがちになっていたな。
それ以外は、元騎士たちは便利使いで領地に連れて行ったこともあるので、彼女たちは問題無さそうなのだが、それ以外王都の店に残される者たちに問題が出てきそうだ。
お姉さん方が交代で巡回してくれているので、そのあたりについても相談していくが、俺はそれ以外にも屋敷の件もあるので、昼も結構忙しい。
夜頑張っているので、昼くらいはゆっくりとしていたかったが、それすら許されずに朝から起こされて、工事中の屋敷に連れて行かれる。
久しぶりに見た俺の屋敷は、外から見る限り立派になっていた。
貰ったときには、どうしようこのお化け屋敷とすら思えたのに、今では立派な貴族様の住まう屋敷としても問題無さそうだ。
尤もこれは俺の感想で、この王都では大した屋敷では無いらしい。
そりゃそうか、俺は男爵を拝命したとはいえ、どこの馬の骨かも知れないポットでの根無し草だ。
そんな者が拝領できる屋敷なんぞ限られてくる。
そのうちでも比較的大きな屋敷らしいが、それもしばらく放置されていたためにお化け屋敷と化していたための貴族たちの評価だった。
これも、今では頭の痛い問題になりかけている。
何でも、この屋敷の前の持ち主は子爵様だったようで、俺の男爵よりも一つ上の階級だ。
まあ、男爵も子爵も下級貴族ではあるが、それでも序列にうるさい連中から言わせると、なんで俺になんか立派な屋敷を与えるのだと言うことになっているらしい。
ここも俺が拝領した領地と同じ仕組みで、もともと長らく放置されていたために、あちこち痛みが激しくみすぼらしくて、誰にも見向きもされていなかったのに、俺が修理をしていくうちに欲しくなっているとかないとか。
本当に貴族連中の品性を疑いたくなる。
それでも、修理を引き受けてくれたガントさんを始めバトラーさんや、うちの連中には頭が上がらない。
そんな事を考えながら俺は初めて正面の玄関からこの屋敷に入った。
そういえば、今まででも何度か中には入ったが、皆勝手口からの出入りだったな。
そもそも、正面玄関の荒れようが勝手口よりも酷かったというのもあるが、一人で入るのに、大きな扉をいちいち開けては面倒だったこともある。
今日も、ここまで徒歩だったこともあるので、勝手口に向かおうとしたところをメイド長のタリアに、それこそ首根っこを押さえるかのようにされて止められて、正面に回された。
「御主人様。
良いですね、この屋敷に入るときにはこの玄関を必ずお使いください。
玄関だけでしたら、すでに修理は終わっておりますから」
昨日の夜は、あれほど可愛らしかったのに、タリアの奴、昼だと別人だな。
覚えておけよ、夜にはたっぷりといじめてやるから……俺は心のなかでそう誓ったが、タリアから睨まれた。
なぜ俺の考えがわかるのか。
だが、俺のくだらない考えなどすぐに中断させられてすぐに実務に入らされた。
バトラーさんがいつの間にか俺の前まで来ており、相談してきた。
そろそろ屋敷のお披露目の準備をしないと行けないらしい。
俺が、『なら準備を任せても』なんて言うものだから、周りから一斉に怒られた。
俺が状況を理解していないとばかりに説教された。
とにかく、この屋敷を運営するにしても人が足りないらしい。
ただでさえ、男爵にしては大きめな屋敷であるのに、俺のところにいる人たちは数が限られ、しかも全員が別の仕事を持っている。
「男爵。
私の部下としての執事は、少なくとも後数人、できれば5人以上は欲しくはありますが、一番の問題は、メイドです。
メイド長配下のメイドの数ですね。
メイドは、後最低でも10人、できれば20人は欲しくあります」
「領地から適当な人を連れてくるのは……」
「確かにご領地から住民を雇うというのも手段としてはありますが、今必要な人は揃いません」
「どういう意味かな?」
「メイドも専門職です。
教育されていない者が、すぐにできるような仕事ではありませんよ」
タリアが俺の質問に答えてくれた。
「シーボーギウムでは生きるだけで精一杯だったものな。
それに、メイドのできるような者たちはあの流行病のときにどこかに連れて行かれたし、いずれはあるかも知れないが、今は無理だということだな」
「はい、そういうことです。
ですが現状のままですと、屋敷を披露できません」
「屋敷の披露とは」
「王都で屋敷を構えた貴族は屋敷開きとして、交流のある貴族たちを屋敷にご招待する習わしがあります。
御主人様も男爵になられたことでもあるので、本来ならば急ぎ御主人様主催のパーティーを開かなければ行けないのですが、病の件もあり例外的に許されておりました」
「しかし、このままという訳には行かないと……」
「男爵、すでに屋敷の改装の方もかなりのところまで終わっております。
外観だけは完全に終わり、かなり周りの貴族たちから注目を得ているようです」
「はは、金回りの良さそうな新興貴族のおこぼれに預かれないかって感じかな」
「確かに、そういう面は無くはありますが……」
「俺の噂が問題だと」
「……」
どうも王都での俺の評判はあまりよろしくはないらしい。
そういう意味でも侯爵たちの企ては成功していると言えるが……しかし、どうするかな。
とにかくお披露目だけでも済まさないとまずいらしい。
しかし、マンパワーの問題で、それが難しくあると言う感じかな。
うん、これは伯爵様案件だ。
もう一度、伯爵邸を訪問して、相談しないとまずそうだ。




