バッカスさんたちを領地にご招待
「その奴隷たちをそのままシーボーギウムで使うのか」
「いえいえ、お隣から来た者たちばかりですし、逃げ出したくなるでしょうから、王都で売ることになりました」
「うちで扱えるか……いや、それはまずいか」
「ええ、もともと元凶の貴族が多くいる王都だとまともに商売にならないでしょう。
ですので、そのままオークションに出すことにしました」
「それしか無いか。
で、そいつらの奴隷化は王都でオークション前にするのか。
それくらいならば俺でも協力できるが」
「いえ、それだと王都まで来る途中で逃げ出す者が出ます。
借金を踏み倒して逃げ出すようなら、行き着く果ては盗賊あたりでしょうか。
流石に領民を預かる為政者として治安を悪化させそうな件はできるだけ避けますよ」
「ならどこで……モリブデンでフィットチーネにでもさせるつもりなのか」
「あいつらの奴隷化についてはフィットチーネさんにお願いしましたが、モリブデンではありません。
フィットチーネさんがシーボーギウムに来てくださることになりましたので、私の領地内で奴隷化してから運びます」
「それはいい考えだ。
流石に、奴隷に落とされてから逃げ出そうとする者はでないだろう」
そこから、俺の領地であるシーボーギウムについての話が続いた。
そういえば、俺が領地を拝領してから、そういう話はドースンさんとゆっくりしたことがなかった。
フィットチーネさんともあまり話す機会がなかったが、皆忙しすぎるのがいけない。
お二人の忙しさは、いつものルーチン化しているようで余裕すら俺に見えるが、俺のほうがとにかく違い、本当に次から次にとこれでもかという感じで別な案件が舞い込んでくる。
本当は世話になっているドースンさんやバッカスさんとも店に招待してゆっくり接待がてらお話がしたいのだが、それが許されない。
おかしい。
この世界では社畜を卒業するつもりでいたのに貴畜とでも表現すれば良いのか、貴族になったばかりに忙しさが半端ない。
「最近、俺も余裕が出てきたこともあるし、一度シーボーギウムを尋ねるのもありかな」
「え?
来てくださるのですか。
それならできる限りの歓迎はいたしますが。
いっそのこと、シーボーギウムにお引越しするというのは、いや、引っ越しが無理でも支店を出すというのならば屋敷を用意しますが」
「屋敷をだと。
それは魅力だが、流石にそれは無理だな。
だが、先の話ではないがお隣の男爵領に仕入れに行こうかと日程を調整していたのは事実だ。
お隣の男爵領に行けなくとも、レイさんのところを尋ねるのはありだな。
至宝のお姉さんも居るのだろう」
何だ、それが目的か。
そりゃそうだな。
商売でもないのに男の屋敷を尋ねるのに面白いはずはないか。
「バッカスでも誘って、小旅行というのもありか」
「小旅行ですか。
しかもバッカスさんとですか。
あ、でも、まだ領内には娼館はありませんよ」
「何だ、まだ作っていないのか。
冒険者も多く尋ねるようになったのだろう。
そろそろ作る予定とか無いのか」
何だよ、ただの助平爺か。
いつものごとく平常運転で、安心はしたが。
「そのうち、作る予定はありますが、何時になるかは全く見えておりませんので。
それに、商人すら私の贔屓筋くらいしかいませんしね」
「え?
そうなのか。
王都の大店でいくつか支店の検討に入ったと聞いているが」
「ええ、何度か来てくださり、興味を持って頂けた大店もありますが、準備中ですか。
それらが軌道に乗るようならば、そのうち娼館も作られるかも知れませんが、私の方は当分は無理そうですかね」
「何だ、少しがっかりだ。
レイさんのことだから、趣向を凝らした新たなサービスをしてくれる娼館を期待したのだが、残念だ。
でも、一度行くと言ったこともあるし、バッカスに声を掛けてみるか。
どちらにしてもモリブデンは経由しないと行けないしな」
何だ何だ、結局モリブデンの娼館が目当てなのか。
うちはついでだな。
まあ、それでも良いか。
来てくれるのならば、精一杯おもてなしをしてみるか。
話に出たついでもあるし何より個々王都では、店からバッカスさんの店までは目と鼻の先にある距離だ。
帰りに寄って、挨拶だけでもしてみるか。
俺はドースンさんの店を出るとそのまま自分の店の前を通り過ぎて、バッカスさんの店に向かった。
「こんにちわ、バッカスさんは居りますか」
「あ、男爵様……」
「男爵はよしてくださいよ、番頭さん」
「いえ、以前に店主に怒られましたので」
「いや、あのときは知らなくとも……ていうか、バッカスさんが知っている方がおかしいのですから」
「ええ、ですので怒られました。
商人たるもの、情報に疎くては商売に勝てないと」
あ、そういうことなの。
騎士爵になった俺に対しての礼儀がどうとか言っていたような。
で、それで怒れば角も立たないか。
「何だ、騒がしい……お、随分と久しぶりだな、レイさんや」
「ええ、色々とありまして、本当に体がいくつも欲しいくらいですよ」
「そりゃそうだな。
本当にレイさんは話題に事欠かない」
「ということは、バッカスさんの俺の噂というかシーボーギウムの噂を……」
「ああ、何でもお隣の男爵領から領民をさらうとかいうやつだろう」
「やはり、ご存知でしたか。
今回の王都も、その件で伺いましたので」
俺はそう言って、挨拶もそこそこにここまでの経緯を簡単に説明していった。
バッカスさんは、さもあらん、と言った感じで俺の話を聞いてくれた。
最後に、俺の領地にフィットチーネさんを連れて行く話になると、興味を持ったようなので、俺はドースンさんがバッカスさんを誘ってシーボーギウムまで小旅行を計画していることを話と、喜んでいた。
「モリブデン経由で、数日でつくのだろう。
なら、その誘い断る謂れはないわ」
やはり、バッカスさんはドースンさんと友達だけあって考えていることが一緒だ。
いそいそと俺との会話を切り上げて、早速シーボーギウム旅行の準備を始めてしまった。
殆どが日程の調整になるのだが、俺を置いて出かけてしまったので、俺は簡単に番頭さんに挨拶をしてから自分の店に戻った。




