借金奴隷予備軍
玄関の車寄せで、俺は降ろされると、伯爵の執事が俺を案内してくれた。
伯爵の執務室の前で俺を案内してくれた執事は、中に声をかけてから俺を中に案内してくれた。
「度々ご面倒をおかけしているようで、申し訳ありません伯爵」
「お~、来たか。
しかし、なかなか落ち着かないな、男爵領は」
「はい、そもそも流行り病で領地そのものが立ち行かなくなった場所ですので、誰もが見向きもしなかったはずなんですがね」
「確かに、私達上級の貴族は内情を知らされているから誰もが引き受けなかったが、騎士爵などは目の色を変えて運動をしていたそうだぞ」
「ええ、その話は王宮で宰相閣下から聞かされました。
ですが、病気の蔓延を抑えたかった宰相閣下はことごとく無視されていたようですね」
「ああ、そうだ。
だが、現状の評価は貴殿のお陰で大きく変わったと言うことだな」
「評価といいますと?」
「流行り病持ちの殆ど廃領のようなシーボーギウムは、実は金のなる港のある領地だ。
しかも、一旦廃れていった港町もなぜだか勢いをましているとか」
「え、そんな事になっているのですか。
確かに食料品などを仕入れるために、頻繁に私や世話になっている商人たちが使ってはおりますが」
「それだな。
その噂が広まっている。
それに冒険者ギルドでも、素材取引の関係で出張所の検討を始めたとも聞いている。
王都にいる貴族からすれば、非常に魅力的に見えるようだ。
全てが貴殿の尽力だというのにな」
潰れかけたと言うか、実際に潰れた領地の評価が、現在では王都でバク上がりだということを伯爵から聞かされれば、いくら貴族の常識に疎い俺でも最近のシーボーギウムを賑やかす兵士たちの件は見えてくる。
政治的に無理ならば力押しで領地を抑えようとでもしているのだろう。
ただでさえ領民たちが奴隷として連れて行かれたり病気で亡くなったりして、そもそも貴族領としての存続が危ぶまれたのだ。
お隣ならば、そのあたりの状況は王都にいるよりも詳しく判っているだろうから、少ない兵力で簡単に武力制圧できるとでも思ったのだろう。
肝心の移動の際の魔物の脅威については何ら考慮すらしていなかったようで、現状に至るのだが、それにしてもその兵士たちの扱いについても色々と怪しくなってきている。
モリブデンの領主から聞かされた話では、俺がお隣にちょっかいを掛けて領民をさらっている話になっているとか。
そのあたりを伯爵に相談してみると伯爵はそれについても頭を悩ましていたらしい。
「ああ、その話は宰相から聞いている。
近々男爵を呼び出して相談することにしようとしていたところだ」
「ええ、私もモリブデンの領主様から聞かされました」
「で、本当のところはどういうことなのだ」
王都では侯爵一派の流している噂しか聞こえてこなかったようで、流石に宰相たちはその話を信じてはいないようだが、事実確認をしないと不味くなっているとか。
そのあたりを伯爵に依頼してきたと言うのだ。
それにしても、面倒しか無い領地を宰相はよくも俺に押し付けたものだ。
俺は、現状を包み隠さず伯爵に話した。
「やはりそういう事か」
「はい、ですが、治療中の連中は金を持っていないんですよね。
ですので、治療費回収のために法律に則り借金奴隷をするつもりなのですが」
「まあ、それもやむを得ないな。
で、自分で使うのではないのだろう」
「はい、その事なのですがモリブデンでもご領主様と話しました。
それで、相談の結果、その借金奴隷たちを王都で売るつもりです。
何せ、食料の買い出しでかなり手持ち資金を使っておりますから」
「援助が必要ならば、私もいくらかはできるが」
「そこまでご迷惑をおかけするわけにも。
それに、王都でオークションを使って売れば、そこそこの資金も回収できますから」
「しかし、最近話題になってきた連中をか……案外、良いかも知れないな。
なら、私の方からも伝を使って、協力しよう」
「ありがとうございます。
多分ですが、来月あたりに王都に連れてこれそうです」
「よし判った」
こんな感じで、伯爵との話し合いは終わった。
後は、やはり王都で奴隷取引になるので、筋を通す意味でもドースンさんの奴隷商を訪れた。
流石に俺がここまで乗ってきた馬車は王都の屋敷に返して、俺だけ歩いて向かった。
「やっと、来たか、レイさん」
「やっと?
なんですそれは」
「ああ、色々とシーボーギウムを賑合わせているようだな。
奴隷の要望でもあるかと待っていたが、違うのか」
「いえ、違いません。
うちは何時でも人手が足りていませんので。
ですが今日は違います」
「違うって?」
「ええ、最近噂を聞きませんか。
うちがお隣から領民をさらっているとか」
「ああ、その噂なら聞いている。
それほど領民に困っているのかと、ただの領民程度の奴隷ならばそれこそ借金奴隷を用意できるが」
「は~、やはり王都では噂は広められているようですね」
俺はため息を履いてから、事の経緯を丁寧に説明していった。
ドースンさんはそれこそ、その噂が出ていたために借金奴隷の仕入れに、噂の出どころであるシーボーギウムのお隣である男爵領に出向こうかどうかで悩んでいたようだ。
その際に、王都からだと優に一月はかかるので、船が使えるかも合わせて俺と相談したかったとか。
「そうなんですか。
でも、シーボーギウムからお隣には行けませんよ。
街道が封鎖されておりますから」
「は?
何だその馬鹿な政策は。
王都から陸路だと一月かかり、しかも整備が十分でない街道だ。
魔物だけでも十分な脅威なところに、盗賊の心配もある。
せっかくお隣に使える港があり、しかもモリブデンから定期便まで出ているのに、そこを使わないとは、馬鹿なの……オット、貴族相手にこれ不敬だったな。
レイさんも貴族の一人だったしな」
「その程度の軽口を咎めたりはしませんが、気をつけてください。
正直私もあまりのアホさ加減に呆れてはおりますが」
「それで、今抱えている領民はどうするのだ」
「治療費が払えるものは、そうですね可愛そうだから王都で解放しましょうか。
尤も、そんな人、一人もおりませんが」
「治療費の払えない者たちばかりだと」
「ええ、その件でも各方面に相談した結果、法律に則り彼らを借金奴隷とすることになりました」




