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モリブデン領主様との話し合い

 

 ご領主様との相談の結果、彼らのモリブデンの通過だけは認めてもらえた。

 ここを通過できなければ、それこそ外国にでも連れて行くしかなくなる。

 別に、俺達にとってそれはできなくもないが、いずれ解放される借金奴隷になるお隣の領民たちにとって外国は少々気の毒のような気がする。


 奴隷から解放されても、故郷に戻れそうに無さそうだからだ。

 もともとお金がないから奴隷になったのに、借金奴隷から解放されてもお金がないので帰れませんとは、さすがの俺でも気の毒には思う。

 同じ国内ならば、歩いて帰れなくもないのでと思っていたので、モリブデンにでもと考えたが、貴族のしがらみというか、そういう物があるのでモリブデンで奴隷としての案は消えた。


 ここモリブデンがダメならば、王都しか無い。

 王都で、ドースンさんにでも任せようかとも考えたが、ドースンさんに迷惑がかかりそうだとも思えるので、どうしようかと考えている。


「それで、男爵はいかがするつもりだ」


「はい、私は今でこそ貴族に取り立てていただきましたが、本質的には商人です。

 商人は損を嫌います。

 今回は人道的に彼らを治療しましたが、治療費を恵むつもりはありません。

 持ち出した分は絶対に取り返すつもりで、借金奴隷にでもと考えておりましたし、その考えは変わりません」


「だが、先の話合で決まったように通過は認めるが、流石にモリブデンでの取引は……」


「ええ、最悪外国にでも当たります。

 幸い、商業連合や食連合の有力商人に伝もありますし、船についても心当たりがありますから、どうにかなるでしょう。

 まあ、そのあたりも含め王都で伯爵様と話し合ってみます」


「う~む、そうなるか。

 それしか無いかな。

 まあ、私としては今回の件について積極的に関わるつもりはない。

 私も少々迷惑をしていることもあるが、男爵には盗賊退治などで借りもあることだし、この度は何も言わないでおこう」


「色々とご迷惑を私の知らないところでおかけしているようですが、私としても申し訳ありませんとしか言いようがありません。

 どちらにしても、王都に行って伯爵と相談してまいります」


「そうしてもらえるか」


 ご領主様の最後の一言で、この度の話し合いは終わった。

 後日、迷惑をかけていることもあるので、石鹸などの手土産を俺の屋敷から伯爵邸に届けることを俺を案内してくれた執事の方に伝えて俺は辺境伯邸を後にした。


 ご領主様は、帰りも馬車を出してくれるとのことだったので、俺は屋敷まで連れて行ってもらった。

 別に俺が攫われた港に戻されても歩いてもそれほどの距離はないが、とにかく今は屋敷に戻り皆と相談しないとまずそうだ。


 馬車が屋敷前に到着するやいなや、中から全員が出てきた。

 そう、現場にいるはずのガーナまで居たものだから驚いた。

 ガーナが言うには『今日は休みだと』言っていたが、俺の帰宅に合わせて現場を休ませたのではと俺は勘ぐってしまう。


 御者にお礼のチップを渡して俺は中に入る。


 中庭で作業中だったかのように色々と散らばって入るが、そのまま離れの食堂に入りここまでの経緯を説明していく。


 しかし、食堂は以前とは違い少し寂しく感じる。

 それもそのはずで、ここ以外に王都に店と屋敷を構えているし、何より領地のシーボーギウムにも人を回しているので、ここに拠点をおいた時に比べると半数以下にまで人は減っている。

 それ以外にジンク村から子どもたちを6人預かっているので、その子達はここにいるが、今回の集まりには関係ないので、ここには呼んでいない。


 その子達がいればもう少しここも賑やかになるとは思うが、まあ今は関係ないか。


「集まってもらったのはほかでもない。

 俺が貴族になったばかりに持ち上がった面倒ごとの件だ」


 シーボーギウムで今起こっているお隣との面倒事についてはスキルのアイテムボックス通信で、王都の他にここにも伝えてはいるが、はっきり言って、今までここはその件に関しては全く関係がなかった。

 そのせいか、ここにいる者たちは全く興味を持っていない様子で、俺からの説明を聞いても初めて聞いたかのような顔をしている。


「だから、今シーボーギウムで治療中の者たちだが、治療が済み次第王都に連れて行くことになる。

 なので、一度それらの者をここに連れては来るが、その時には面倒をかけるな」


「レイ様。

 その者たちですが、何日もここで滞在とはならないのですよね」


「ああ、ここまでは船で運ぶから何ら面倒にはならないが、ここから王都までは陸路だ。

 馬車を使うつもりではいるが、その準備に一日くらいは滞在することになるかな」


「ならば私達は何を」


「借金奴隷たちの食事くらいか。

 それ以外には別にないかな」


「逃げ出さないように見張りはしないのですか」


「ここから王都まででもそうだが、別に逃げられるようならば逃げても構わないとすら思ってはいる」


「え?」


「もし、借金奴隷が逃げればその後の扱いは酷いものだそうだ。

 奴隷の処理はシーボーギウムで済ませようかと考えているので、今日はそのあたりを含めフィットチーネさんとも相談しようかと考えていたのだが、殊の外領主様との話し合いに時間が取られたな」


「では、明日になさいますか」


「ああ、そのつもりだ」


「でしたら、これから私達がフィットチーネさん宅まで先触れに参りますので、レイ様はゆっくりしてください」


「ああ、そうするつもりだ……一度娼館にでも顔を出しておくか」


 別に今ここで言わなくても良いことを俺は口に出したら、周りの空気が変わった。

 何も到着早々娼館に行かなくても良いだろうと言う感じで、皆が俺のことを見てきた。


 そういえば、最近モリブデンの皆とはゆっくりしていなかったかな。

 今日、娼館に挨拶には行くが、今日は皆の心のケアに全力を示そう。


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― 新着の感想 ―
>祖霊以外にジンク村から子どもたちを6人預かって 祖霊が居るのか(スットボケ
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