OJTはハマると凄い
新たな仕事を始めるのにかなり慎重なお姉さん方も、これにはすぐに同意してくれた。
賛成してくれたわけではないが、『やむを得ないか』って感じのようだ。
で、俺としてはモリブデンに戻したキョウカをもう一度シーボーギウムに呼んで、こちらで主に怪我の治療をしてもらっている。
当然、治療費は有料にしているが、どこまで資金を回収できるかは不明だ。
払えなければ、そうだな……借金奴隷として領地開発にでも使うか。
それよりも問題なのが、最近森から拾ってくる連中に変化が出てきたことだ。
冒険者の方は、相変わらず一定の頻度で拾ってくるが、それよりも問題なのが、明らかに違う人種だ。
最初の頃は盗賊にでも誤魔化そうとしていたのか、それにしても着ている服から持っている武器類まで物が良い。
どこからの密偵なのかと疑っていたんだが、最近ではそれすら隠そうともしないで明らかに兵士の形をしている者たちを拾ってきている。
そのままシーボーギウムを攻めてきた訳でも無いので、こちらからも警戒のために周りに出ている冒険者に同行するつもりもないが、それでも兵士がシーボーギウム領に来ていることが問題だ。
まだどこの兵かは判明していないが、先の偽装盗賊たちも同じところからなのだろう。
今のところ全てが雑兵の類だから、こちらとしてもいかんともしがたい。
まあ、俺達の領地まで来るのならばお隣の領地以外にないから、間違いなくそいつらはそこから来ているので決まりではあるが、雑兵が越境しているとお隣に文句を言ってもとぼけられるのが落ちらしい。
できれば引き取ってほしいとも思っていたが、それは無理なようだ。
お姉さん方や王都の居るバトラーさん情報だが、貴族でも混じればそれこそ外交問題として賠償を求めることもできるそうだが、今のところは俺達に実害は無いので、拾ってくる冒険者と同じく扱っている。
そもそも攻めて来ようとしているのならば、お隣さんも途中の森の様子などを調べてからにしてほしい。
俺達が拾ってくる兵士?たちのほとんどが例外なくあの熊の魔物でやられたような傷が見られる。
まず間違いなくあれ(熊の魔物)にやられたのだろうが、アイツラは油断ができない。
かなり強力な魔物らしく、素材は高価で取引がされるので、高ランク冒険者にとってはいいお客様のようだが、それでも高ランク冒険者がパーティーを組んで討伐している。
今までも領地周りに出没していたようなのだが、街道筋は定期的に間引きをして一応の安全を確保していたようなのだが、前の領主の代替わりを機にかなり長い間領地周りの魔物を間引きしていなかったとバトラーさんはこぼしていた。
なので、今では街の近くまでちょくちょく出没していると聞いている。
その御蔭といえば良いのか、シーボーギウムに来る高ランク冒険者には受けが良い。
街から遠くに出ることなく高ランクの魔物が狩れるとあって、それ目当てでこの地にやってきるものが後を絶たない。
高ランク冒険者に魅力的な魔物だと言っても、素人を徴兵した兵士たちにとっては絶対に戦いたくないものらしく、俺達が拾ってきている雑兵のほとんどが熊の魔物にやられたような傷を追っていた。
俺達は単独でも討伐できそうな気がするが、それでも雑兵あたりが組織的に動かなければいくら人数が居ても簡単にやられると、俺のところによく来る冒険者が言っている。
『アイツラ何を考えて森に入ってくるのかわからない。
まさか集団での自殺とまでは思わないが、やっている行為そのものは自殺と何ら変わらない』
などと、酒場で口にしているのを俺は何度も聞いたことがある。
雑兵が絶対に戦いたくないはずの熊の魔物が居るとわかっていそうなのだが、彼らだって進んで俺達の領地に入ってきているはずもなく、お隣の貴族あたりが原因だろうが、いい加減そのあたりをどうにかしてほしいものだ。
俺達の領地防衛を熊さんたちが受け持ってもらっているようなものなので構わないけど、それでも瀕死の人を放って置けるはずもなく拾ってきているので、そっちの手間ばかりが増えていく。
まあ、その御蔭というわけではないが、こっちで作った病院に詰めている子どもたちの経験値が増えているようで、最近では意識のある怪我人などは子どもたちだけで応急手当ができるまでになっている。
うん、人材の教育だな。
OJTって本当にハマるとものすごい効果は出るな。
今この地で治療を受け持っている孤児たちは、まさにOJTのさなかにある。
初めはキョウカが魔法を使って治療をしていたのだが、あまりに怪我人が多くて手が回らなくなり、俺から聞いた応急措置を試すと、案外それだけでもどうにかなるとわかると、怪我の治療を応急措置に切り替え、高ランク冒険者からの希望に限り魔法を使うようになってきた。
しかし、それも雑兵が加わるようになったことで当然のようにキョウカだけでは手が足りずに、キョウカの手伝いに当てていた孤児たちにも治療をさせるようになって久しい。
その治療行為がまさにOJTだ。
日本ならば絶対にあり得ないが、医療行為を素人のOJTで済ませるなんて人殺しと後ろ指をさされても否定はできないが、この世界は別だ。
人の命がものすごく軽い。
それに何より、放っておけば間違いなく死が待っている連中で、お金もなければ治療をしてもらえるだけありがたいと思っているフシもある。
中堅以下の冒険者でもお金がないために子どもたちに治療を頼むケースも増えてきているが、子どもたちには主に雑兵を担当させている。
誤って怪我人が死んでも影響が少ないのが一番の理由だ。
でも、その子どもたちもそろそろ仕事量に限界が見えて来た。
OJTも無闇矢鱈とさせると、現場はとんでもなくなるので、あまりOJTばかりはやりたくはない。
なにせOJTって令和日本では下手をするとブラックの代名詞にすらなっているくらいだ。




