商人ギルド長
唐揚げは伯爵邸にて作られるが、俺の王都の店ではポテトフライにピザもどき、それにハンバーグとポテトチップスなども今回持ち込んでいる。
それらを一つづつ取り出して料理長に試食してもらい、料理を出す順番を決めてもらう。
だが、料理を取り出しているダーナを見て料理長がひらめいたようだ。
「男爵。
彼女はパーティー参加はされませんよね」
「ああ、バトラーといっしょにここを手伝わせようかと連れてきたのだが」
「それでしたら、彼女のそのスキルお貸し願えませんか」
「スキル……アイテムボックスか。
あ、そういうことか。
ダーナ、できそうかな」
「はい、バトラーさんの指示通りにすればよろしいのですね」
「ダーナさん、それで構いませんよ」
「大丈夫のようだ。
今日のパーティーは絶対に成功させないと私もまずい。
協力は惜しまないから使ってください。
あ、最後にデザートとしてこんなものを作ってきたのですが、これは少し冷やすとより美味しくなりますが、味見してください」
俺はそう言ってからプリンを一つ出して料理長の眼の前に置いた。
「これは……」
料理長は興味深そうにじっくり見た目を観察した後に香りを確かめてから一口スプーンで口に運んでいる。
……
しばしの無言が続いた後に大声で「美味しい!」と叫んでいた。
周りの料理人は一瞬自分の手を止めて料理長の方を見やる。
そんなことをしていると、一人の執事が俺を探して調理場までやってきた。
「男爵。
そろそろお時間ですので」
どうも俺が会場に入る時間になったようだ。
「男爵、こちらは私にお任せください」
バトラーさんがそう言うとダーナも無言で頷いている。
「ああ、では頼む」
俺はそう言い残して俺を呼びに来た執事について会場に入った。
会場ではすでに貴族たちが集まり、いくつかのグループに分かれて雑談をしている。
伯爵の派閥しかここにはいないはずなのだが、それでもその中にもいくつかのグループに分かれるらしい。
「男爵。
伯爵様は法衣貴族としては絶大なるお力をお持ちですが、それでも領地持ちの方も伯爵様にお力を頂いております。
男爵も御領地をお持ちですしね」
「ええ、伯爵様のお力で頂いたようなものです」
俺をここまで案内してくれた執事の方と少し話してから俺は一人広い会場の中に入っていった。
いつまでも伯爵家の執事の方を俺が引き止めていてもいいことなどありえない。
そんな事を考えていると後ろから声をかけられる。
「男爵様。
それともレイ様とお呼びしたほうがよろしいですかな」
俺に声をかけてきたのはモリブデンの商業ギルドのギルド長だった。
「え?
ギルド長。
お久しぶりです。
しかし……」
「男爵の疑問も尤もです。
私は、ご領主の辺境伯のお供として王都に参りました。
身分が違いすぎますから先に会場入りをさせていただきました。
辺境伯はホストの伯爵とご一緒に入場されます」
「そういうことですか。
ですが、知り合いにここで会えたのは私にとって幸いでした。
なにせ、にわか貴族の私ですから、ここでは一人きりになってしまいしますし」
そう、俺は貴族としての活動を王都ではしていない。
なので、こういう貴族の集まりは正直今回が初めてだ。
普通ならば過去の経緯などもあり、貴族に引き立ててくれるお仲間たちが一緒にいることになるが、俺の場合は誰もいない。
なにせ、領地持ちとなったのは王宮の意向のためなので、伯爵様の派閥に属することになってはいるが、俺の急な成り上がりに皆は良い思いはしていなさそうだ。
「そういうことですか。
私としては、男爵がモリブデンでのご活躍を知っておりますので、モリブデンでの貴族成りを期待しておりましたが、王都でしかもご領地を拝領するご身分となられましたことを少々複雑な思いで見ておりました」
「ええ、そのあたりを聞いております。
なにせ、モリブデンのご領主様との面会をしたことがなかったところで、急な話でしたから」
「そうでしょうね。
ギルドの方から何度か男爵にお使いを出しましたが、色々とありましたのでご警戒を解いてはくださいませんでしたから、ご領主との面会は実現できませんでしたね。
王都に来るときに私はご領主様から皮肉をいただきました」
俺とギルド長とが雑談していると、そこに王都のギルド長が現れた。
正直モリブデンのギルド長とは以前に問題に巻き込まれたこともあって面識はあるが王都のギルド長とは会ったことがない。
まあ、モリブデンの冒険者ギルドだって、お尋ね者の盗賊を退治したからギルド訪問時に会ってもらったが、それ以降会ったことがないからほとんど会っていないと言える。
同じようにというか、普通はギルド長のような大物とは会えない。
王都の商業ギルドでは問題など起こしていないこともあって、受付嬢以外には会っていないから正真正銘今回が初めての出会いになる。
俺は王都の貴族なのだが、商人でもあるのでモリブデンのギルド長からの紹介という形で王都のギルド長と挨拶を始める。
「こちらがこの度流行り病の拡散防止の功績によりシーボーギウム領のご領主となられましたレイ男爵です。
男爵。
こちらが王都の商業ギルドの長です」
「はじめまして、男爵……」
モリブデンのギルド長から紹介を受けた形で自己紹介を始めた王都のギルド長。
なんだか、面白くなさそうにしていたが、自己紹介を始めるとそんなことを感じさせないくらいにエネルギッシュに自己紹介をしている。
「ええ、王都のギルドでは何度もオークションを利用させてもらっておりましたしね」
「え、男爵は我らのオークションをご利用いただいておりましたか」
「ええ、尤も男爵になる前ですが。
主に仲間の奴隷たちをお願いしておりました」
「奴隷ですか……それよりも王都のお店も経営なさっているとか」
俺の情報はかなり正確に掴んでいるらしい。
やはりそのへんはさすが商人の元締めだけあるって感じだ。
しかも、王都のギルド長は俺の店で扱っている石鹸に興味があるらしい。
話の中で上手に仕入先を聞いていくる。
「ええ、石鹸は皆モリブデンで入手したものを王都で販売しております」
「え?
男爵。
石鹸も扱っておられるのですか。
モリブデンでは販売していなかったはずですが」
「いえ、ギルド長。
モリブデンでは直接持ち込んで娼館に卸しておりますよ」
「初めて聞きましたが」
「ええ、目立つことをするとろくなことになりませんので、できるだけ直接販売だけにしております」
「それを言われると、こちらとしては……」




