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裏口からの訪問

 


「レイ様。

 これ絶対に流行りますよ」


「マリアンヌさん。

 店のメニューに加えることは賛成ですが、確かにこれは流行りそうですね」


「ええ、絶対に貴族令嬢を虜にしますね」


「「となると」」


 店の責任を預かる立場の数人が難しそうな顔をしている。

 俺がその理由を聞いてみると、ただでさえ最近は王都でも拠点が増えたこともあり人手が足りていない。


 まあ、店にいる連中はかなり接客や料理にしても慣れてきたこともあり、手際が良いので今のところ問題にはなっていないが、それでも店長のカトリーヌか言うところでは、ギリギリだそうだ。

 ちょくちょく起こることらしいのだが、忙しくて休憩が取れないこともあるとか。

 従業員の補充を俺と相談したかったと、このあと聞かされた。


 俺は自分の領地や王都の屋敷での人手について心配があるので、補充を考えてはいた。

 先日もドースンの店まで行って、そのあたりについても相談はしているが、今までの奴隷たちが皆優れていた人たちばかりだったこともあり、なかなかお目当てになりそうな奴隷は借金奴隷を含めて出ていない。


 俺としては一般の奴隷が欲しかったのだが、そんな贅沢は許されるような状況ではないらしい。


「レイ様。

 どうしましょうか」


「このプリンの販売を延期しますか」


「これ、私達だけのものにしませんか」


「そんなことできるわけ無いでしょ、マリアンヌ」


「そうですよ、マリアンヌさん。

 レイ様が伯爵邸でのパーティーにお持ちするお話でしたので、隠すことなどできませんね」


「平民だけなら隠せたものを……」


「もし売れるようなら、数量限定で、しかも価格設定を思いっきり高価にしておくか」


「そうですね、レイ様。

 確かに使う材料も高価なものばかりですしね。

 それで如何ほどを考えておりますか」


「いっそのこと金貨一枚でどうかな」


「それくらいが妥当でしょうね」


「しかし、金貨一枚とは思い切りましたね。

 ですがそれくらいの価値はあるかと」


「価値についてはわからんが、そうしてくれ。

 俺は、パーティーに持って行く分を作るから」


 そう言って、この騒ぎはみんなが解散して収まった。

 しかし、本当に呪のようにいつまでもつきまとうな、『人手不足』は。

 いい加減どうにかならないものか。

 思い返せば、やっとの思い出どうにかするたびに拠点が増えている。

 はじめはモリブデンの店が軌道に乗り、人手の方も追加で奴隷たちが加わってくれたこともあり落ち着くかと思いきや、すぐに王都での店を持つ羽目になる。

 これも、付き合いというか、まあ、バッカスさんの口利きだったこともあり、断れ切れなかった。

 その王都の店も落ち着く前に、今度は病院の共同経営の話が持ち上がり、こっちは教会とのこともあり、あまり広めるようなことはしなかったので、それほど問題になることはなかったが、そのせいで、王都に呼び出されての騎士爵に叙爵だ。

 これは名誉職だと聞いていたから素直に受けたのだが、領地の拝領する羽目にまで本当にあっという間だった。


 そろそろ俺の領地からも人を活用しないと間に合わないな。

 すでに、一部では人を採用してはいるが、奴隷でもないので領地内にとどめている。

 俺達にはというか俺には秘密が多いために、どうしても一緒に仕事をする人には制限がある。


 俺が小心なこともあるので、奴隷という強制力を頼ってのことだが、そろそろその考えも改める必要があるか。

 そんな事を考えながら、プリンをせっせと作っていった。


 そんなこんなで時間はあっという間に過ぎてゆく。

 それでパーティーの日を迎えた。

 俺は、今日ばかりはおめかしして伯爵邸に歩いて向かおうとしたところをメイドたちにそれこそ羽交い締めにされるように止められた。


「レイ様。

 どういうおつもりですか」


「今日はレイ様にとって、非常に大切な日ですよ」


「ああ、だから数日前からプリンも相当数作って準備していた」


「そのことではありません。

 馬車の手配はどうしたのですか」


「そんなのしてないぞ」


「「「え!」」」


 事情をよく知るメイドと拝領した屋敷を任せるバトラーさんに呆れられたというか、非常に驚かれた。


「パーティーに向かうのに……」


 彼女たちが口々に言うには、歩いての訪問はありえないということらしい。

 今まで何度も伯爵邸に行ったことがあるが、それこそ初日こそ馬車を手配したけれど、伯爵様も『別に構わない』と言っておられたので、その後は歩いて訪問していた。

 ただ、彼女たちが言うのは今日はダメだと言うことらしい。

 だが流石に、今から馬車の手配などしていたら間に合わないことは必至だ。


 バトラーさんが苦肉の策ということで、裏口から料理の手配の関係という理由を作り伯爵邸の中に入る手筈を整いてくれた。


 俺はダーナと一緒に裏口から伯爵邸に入り、そのまま厨房に向かう。

 厨房では、まさに戦場のような忙しさで料理を準備していく。

 俺が伯爵に提供したからあげのレシピを今目の前で実践している。


 唐揚げは冷えても美味しいが、温かなうちに食べるほうが断然美味しく思う。

 確かレシピにもそう書いてあったはずだ。


 だから、事前に準備するパーティー料理が多い中、最後に仕上げているようだ。


 俺達が厨房に入ると料理長が俺に気が付き挨拶をしてきた。


「男爵。

 こんなところにわざわざおいでくださって……」


 俺は忙しそうな料理長の手を止めさすわけにもいかないので、料理長の挨拶を途中で遮った。


「いまは挨拶はいらないよ、料理長。

 忙しいのは私もよく知るからね。

 それよりもどんな感じかな」


「はい、先程味見をしましたが、やはりこれは熱いほうが断然美味しいですね」


「私もそう思う」


「伯爵の晩餐にお出しするには熱いのを出せるのですが、パーティーともなりますとこれが限界なのでしょうね」


「ああ、だがそれほど気に病む必要はないと思うぞ。

 とにかく量を作っているのだ。

 外側にあるからあげは冷えるだろうが、中はそれほど冷えないと思うし、中から熱が伝わるので外側もそれほど冷たくならないだろう」


「それに、貴族の多くが魔法を使えますしね」


 俺についてきたバトラーさんが補足してくれた。

 流石に電子レンジは無いが、魔法のうちで温める魔法もあるらしい。

 ただその魔法を使える貴族がいても温めて食べると行った発想に繋がるかは疑問が残る。


 俺はそのあたりには触れずに俺から持ち込む料理について料理長と相談していく。


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― 新着の感想 ―
人手不足なら営業時間を絞るの手と言えば手なんだよなあ 材料確保の為に定休日作るとか、休みの日の分が次の日に売れると意味無いが
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