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黒板と白墨の値段

 

 そこから彼女は手にした白墨を使って習い始めた文字を少し書いて、黒板に字が書けることを説明始めた。

 その後は子供の落書きのようなものを書いては、布切れで消していき、書いたり消したり簡単にできることを説明している。

 はじめは大人しく少女の説明を聞いていた大人たちは、少女が布切れで落書きを消しては書き始めるのを見たころから歓声を上げていた。

 ついには皆自分でも試してみたいと少女に迫っている。

 迫力に驚いたのか少女は困った顔をしながら俺の方を見てきた。


「領主様……」

「ああ、みんなに試させてもいいぞ。

 その際に、何か注意やアドバイスなどがあればその都度説明してな」

 最初にマリーさんが少女から白墨を借りて黒板に字を書き始めた。

「これ、凄い。

 これ、娼館で予約の管理に使えますね」

「ああ、何でも使えるな。

 それに簡単に消して修正もできるので他にも使い方は自由だ」


「レイ様。

 私は知ってはいましたが、見たのは初めてですが、あれって領地でも使えますよね」

 エリーさんが俺の横で聞いてきた。

「え?

 使っているぞ。

 学校では無くてはならないものだな」

「学校だけでなく、領地運営でも使えますよね」

「ああ、使えるな。

 かなり便利なものだから、屋内ならば使い方は無限かな」

「屋内??

 何でですか」

「屋外でも使えるが、雨でも降れば字は消えてしまうから。

 でも所詮は道具だ。

 使い方次第だという感じかな」

「帰ったら、さっそく領地でも使いましょう。

 あれ、絶対に便利ですから」

「ああ、でも、急に使用する量は増やせないぞ」

「え。それは何でですか」

「作る数にも限度がある。

 何せ、作っているのは彼女たちだからな」

「それ、他の者たちに任せることは」

「……う~~ん、正直どうしよう。

 はじめは子供たちの自立支援で始めたことだからな。

 今更子供たちから仕事を奪うのもな~」

「そこは考えます。

 それに、周りを見て下さい。

 モリブデンだけでも相当需要はありますよ。

 だって、サリーの食いつきが違いますから」


 そこからが凄かった。

 この場に集まった者たちが半ば白墨を取り合いしながら思い思いに黒板に向かって何かを書き始めた。

 中には前衛的な芸術まであるが、あれ何だ?

 俺は慌てずに、少し落ち着くのを待った。

「どうだ、これ売れると思うか。」

「レイ様。

 これをどうやって秘密にするかの間違いでは」

「え?

 売り物を秘密にしたらだめだろう」

「ですから、これむやみに外に出すと混乱を招きますよ」

「混乱?

 そんな大げさな」

「大げさなものですか。

 今の状況だけを見てもわかるでしょう」

 サリーさんが続けて言ってきた。

「良いですか、レイ様。

 ここモリブデンは港がありますから各地から色んなものが集まります。

 ですので、物価も高価な品に限れば相当安くなりますが、それでも紙は高価な品物です」

「紙だって、なんでここで紙が出てくるのだ」

「これの代わりに今までは紙に書いておくか、紙が高くて使えないようなところでは板に字を書いております」

「え、そうなのか」

「ええ、ですが用事が終われば紙はそのままでは次に使えませんし、板に書いた文字は板を削るか丁寧に洗うかしないと使えません。

 しかしこれはそういう問題が一挙に解決しますから、値段にもよりますが板を使っていたところでは置き換わるでしょうし、紙だって相当なところではそうなるでしょうね。

 現に、うちの娼館で予約管理に紙を使っておりますが、紙である必要も無いので置き換えたく思っております」

「そ、そうなのか」

「で、これはうちに売ってくださるのですよね。

 おいくらになりますか」

「サリー様。

 それはあまりに横暴ではありませんか。

 うちの店でも使いたいと考えておりましたから」

「そうですよ。

 工事部門の注文の管理に使おうかなと考えていたところなんですが」

 あれ、娼館と店が対立を始めた。

 これ、初めてのケースだよねって黙って見ていてはだめだろう。

 俺は口論になりかけのところを間に入ってどうにか止めた。

「わかった、これは売るよ。

 もともと売るつもりで持って来たんだ。

 今日は注文だけをとれればいいかなと考えていただけなので、量は用意していない。

 でも二つくらいはあったよな」

 俺は連れてきた子供たちに聞いてみる。

「はい、黒板は10枚で白墨は100本持ってきました」

「なら十分か。

 後はいくらにするかだが、どれくらいが相場だと思う?」

 その後の話し合いでとりあえず店には2セット卸すことになり、お金でもらっても今の領地では意味も無いので物で支払ってもらうことになった。

「では売れ筋の石鹸を10個でどうでしょうか?」

「黒板と白墨を合わせて石鹸10個か、ずいぶん気張ったな」

「え?足りませんか」

 確かに石鹸10個ならば原価を知っている俺からすれば妥当だと思うが、その売れ筋の石鹸ってかなりの金額でさばいていたはずだよな。

「わかった、それでいいだろう」

 俺がそういうとマイは保管庫から石鹸を20個持ってきて俺の前に出してきた。

「え?これ多くないか。

 ひょっとしてまだ欲しいのか」

「いえ、黒板1枚と白墨でしたっけあれ10本で石鹸10個ですから合計で20個持ってきました」

 え、一セットで石鹸10個と考えていたのか。

 まあ俺のところで作ったものだから別にいいか。

 ただでさえ、領地にあれやこれやと俺が持ち出していたのであまり意味も無い話だが、ここで値段が付いたことの持つ意味は大きい。

 するとサリーさんが不満そうな顔をしている。

「レイ様。

 お金で支払う訳にはいきませんか。

 そうしませんと、うちでは子供相手はできないので現物ではちょっと」

 オイオイ、子供相手に娼館が営業かけるな。

 それにうちのリーダーは少女だぞ。

「それとも代わりにレイ様をお世話すれば……何なら店の者全員でお世話しても良いですが……」

 次に出てきた提案はすごく魅力的だが却下だ。

 そうでなくとも店の連中の俺を見る目が冷たい。

 最近十分な対応ができていない。

 拠点が増えたことも理由としては大きいのだが、とにかく人が増えてきている。

 そうでなくともお姉さん方の登場でかなり警戒していたところに何てこと言い出すんだ。


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