1普通の中学生
チリリリリリリリ…。
目覚まし時計が鳴り響く。
「んー、もう朝なの~?」
日奈は眠たそうに目をこする。
昼の光は万能で、夜獣を狩った後でも寝不足になることはない。
「菜々子、おっは~。」
「はい、おっは~。さっさと朝ご飯を食っておいで~。」
「あーい。」
日奈は酔っぱらいのようにふらふらと一階へ降りていく。
菜々子は、それを見届けて窓から外へ出ていく。
この小人は、蛍町の夜獣狩りの家にいることが多い。
ある時は日奈の家で朝ご飯を食べ、ある時は桃子の家で昼寝をし、ある時は陽介の家でおやつを食べ、ある時は明の家で眠る。
今日は陽介の家で朝ご飯を食べる予定だ(こっそり)。
ちなみに、小人の姿も普通の人間には見えない。
さて、朝ご飯を食べて支度をした日奈は、早速学校へ向かう。
昼の光のおかげで、数学や、体育の時は大活躍だ。
日奈はバスケ部に入っていて、仲間たちと一緒にたくさん練習をしている。
桃子は吹奏楽部に入っていて、いろいろな楽器で演奏できる。
陽介はサッカー部に入っていて、チームを何度も優勝に導いている。
明は美術部に入っていて、絵がとてもうまい。
部活動も終わり、日奈は家へ帰ろうとする。すると、
「日奈。」
突然後ろから声をかけられた。
「あ、桃子さん。」
「ちょうど同じ時間に部活が終わったのね。」
桃子は一瞬微笑み、日奈の隣を歩き始める。
桃子は、蛍町で現役だと一番長く夜獣を狩っている。
なので、日奈は桃子のようになりたいと望んでいる。
桃子がすごいのは、夜獣狩りとしての力だけではない。
礼儀正しく、優しく、思いやりのある性格で、蛍町中学校でも有数の美人なのだ。
そんな桃子に笑いかけられると、思わず自分も微笑んでしまうとか。
「もうすぐ夏休みですねえ。」
「そうね、今年も旅行に行きたいわ。部活の合間を縫って。」
「そういえば、この町で夜獣狩りをしてる人って、本当に私たちだけなんですか?」
「まあ、現役だと私たちだけね。今はもう引退している人たちもいるわ。例えば、高校生の水本絵里香さん、あの人は病気で入院しているけど、中学生のころは夜獣狩りをしていたの。まあ、引退しても昼の光は消えないから、もう一度宝石に光をともせば、夜獣狩りに戻れるけどね。」
桃子は手首に触れる。
昼の光は、ブレスレットや指輪に変形させたり、髪留めに魔法でくっつけたりすることができる。
桃子はブレスレットにしているのだ。日奈は髪留めのリボンにつけているし、明と陽介は服のボタンなどに変形させたりしている。
「じゃあ、また明日。」
桃子は日奈に手を振って右へ曲がっていく。
「ちょっと日奈。」
すると、クラスメイトが話しかけてきた。
「蛍中のアイドル、本田桃子先輩と親しげに話している謎の少女って、あんたのことだったのね!すごい、知り合いなの?」
「いやー、まあ、知り合い、だね。」
「いいなー。」
その後も、クラスメイトからの質問が続いた。
翌日の夜。
「今日は夜獣が出るんでしょ?」
「そうだよ~。」
日奈は歩きながら菜々子に尋ね、菜々子はうなずく。
「あ、日奈さん!」
前から明が走ってきた。
「よう、東野。」
「こんばんわ、日奈。」
陽介と桃子も一緒だ。
「夜獣はどこにいるのかしら?」
桃子は周囲を見渡す。
「確かね~、あの団地の方~。」
菜々子は近くの団地を示す。
四人はさっそく走り出した。
ドシン、ドシン。
大きな足音が聞こえる。
「あ、あいつだ!」
陽介が大きな獣を指す。
体は黒い毛で覆われ、目は赤く光り、普通の動物より大きい。
夜獣である。
日奈は早速髪留めをほどき、昼の光を握る。
「行くぞ!」
陽介の声に三人は動き出した。
夜獣を倒すためには、魔法を使わなければならない。
夜獣狩りは、昼の光の力で魔法が使える。
日奈は光魔法、桃子は闇魔法、陽介は炎魔法、明は風魔法を得意としている。
特に光魔法と闇魔法は特殊で、よっぽど才能がないと使いこなせない。
光魔法は光を使った目くらまし、熱を使う魔法などがある。
闇魔法は月や闇、星の魔法などがある。
光魔法は、夜の光に対するものなので強力だ。闇魔法は、毒を以て毒を制す、という言葉があるように、夜獣に効果覿面だ。
「風車、二連続!」
最初に、明が鋭い風を吹かせる。
「獣焼き!」
「闇刀!」
陽介と桃子が、それぞれ炎と闇を放つ。
「日奈さん、今!」
「待ってました!」
明の言葉に、日奈が威勢よく答える。
そして、日奈は弓矢を生み出した。
「光花!」
光る花が野獣にぶつかり、辺りは眩い光に包まれる。
「よし、こいつは討伐完了!」
「まだまだ夜獣は残ってるんだぞ、東野、本田、西原、ちゃんとやれよー。」
「斎藤さんも頑張って頂戴ね。」
「はいはい。」
桃子に突っ込まれ、陽介は頭をかく。
「ほら、西原君、昼の光を落としてるわよ。」
「あ、ほんとだ!本田先輩、ありがとうございます。」
夜はまだ続く。
夜獣を倒すため、夜獣狩りは今日も町を駆け回るのだった。