第二連 届かぬ想い
「あやか、今日はどうしたの?」
「ふへぇ!べ、別にいつも通りだけど・・・」
昼休みの弁当時間。
赤嶺はいつも通り、友人の東御院と一緒に、いつも通りの場所で弁当を食べていた。
だが、今日は少し違った。
東御院の食べるスピードが遅かったのであった。
赤嶺は女子高生らしい弁当のサイズであったが、東御院の弁当は重箱であった。
しかし、サイズの大きさに差はあれど、お互い大体同じタイミングで弁当を食べ切っていたのであった。
ところが今日は違った。赤嶺が食べ終わっても、まだ彼女はまだ半分も食べ切っていなかったのである。
今日の彼女は食事中にも関わらず、何処か上の空。いや、午前中から既に何処か上の空であった。
赤嶺は彼女の様子を心配したのであった。
「ボーっとして、どうしたの。何かあったの?」
「いや、特に何も・・・」
赤嶺はクラスの委員長を任され、かつ生徒会長候補に選ばれるほど、責任感が強く、面倒見が良い性格である。だからこそ、やや天然で引っ込み思案な親友のことを放っておけないのである。
「男子と何かあったの?」
「ふへっ!た、龍村君とは何もないよぉー!」
「はぁ・・・原因は龍村ね・・・」
あまりにも分かりやすい親友の反応に赤嶺はため息をつくのであった。
「あのね、あやか。何度も言ってるけど、龍村はあやかが思うような人じゃないのよ。あいつはただの口だけよ。」
「そ、そうなのかぁ~。」
「そうなのよ!」
東御院の言葉を彼女は声を荒げて否定するのであった。
そして、時間が過ぎ、放課後となった。
「あんた、あやかに何したの!返答によっては、昔みたいにぶっ飛ばしてあげるッ!」
凛とした口調で、龍村を問い詰める赤嶺であった。
「別になにもしてねぇよ。」
(ていうか。あのことは喋ってはいけないんだよな。)
今、自分たちが関わっていることは決して、口外してはいけないと言われているため、龍村は誤魔化すために、気怠そうに答えたのであった。
だが、彼のその態度は赤嶺の癪に障るのであった。
「いつも!いつも!あんたはそんな態度で!今も!あの時も!」
彼女は龍村の首根っこを掴み、壁に押し付け、取り乱したように彼に問い詰めるのであった。
「あやかとあんたは何を隠してるのよ!なんで、私に話してくれないの!私じゃダメなの!私じゃ力になれないの!」
「それは・・・」
彼女の気迫に思わず、龍村は言葉を濁すしかなかったのであった。
「お願い・・・教えて・・・。あやかは今、何をしてるの・・・。あの子、最近授業をよく抜け出すの・・・ううん、授業だけじゃないの・・・一緒に遊びに行っても何処かに行っちゃうし・・・放課後も連絡が付かないことがあるの・・・あの子は確かに天然な部分なところもあって、ちょっと抜けているところもあるけど、真面目な良い子よ・・・今までこんなこともなかったのに・・・」
赤嶺の目から涙があふれ出ていた。
「それに偶に・・・痣も作ってきているの・・・喧嘩なんて嫌いな優しいあの子がよ・・・教えて・・・あやかは何をしてるのよ・・・」
今までため込んできた感情がとめどなく溢れ出し、赤嶺は膝から崩れ落ち、人目も憚らず泣くのであった。
龍村は目の前で泣いている幼馴染にどう声を掛けていいのか分からなかった。
だが、一つ気になったことがあるのであった。
「東御院さんは今どこに?」
親友の赤嶺がここまで感情を取り乱して泣いているのであれば、優しい東御院のことだ。彼女を心配して慰めるはずである。だが、彼女は慰めにこない。
(まさかッ!)
ある予感が龍村の胸を遮る。
「知らないわよ・・・あの子、また授業を抜け出して何処かに行っちゃったわよ・・・」
予感が確信へと変わったのであった。
彼女は戦いに行ったのであった。
こんな所で時間を潰すわけにはいかない。龍村は早く彼女を助けに行きたかったのであった。
目の前で泣いている幼馴染を放置することに関しては申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
だが、今は東御院を助けることが優先である。
龍村がこの場から立ち去ろうと瞬間、袖を引っ張られたのであった。
「お願い・・・龍村・・・あんた、あやかのこと、どう思うの?」
袖を引っ張っていたのは赤嶺であった。
「それは・・・」
彼女の問いかけに対して、龍村は言葉を濁すのであった。
確かに彼は東御院のことは好きである。
だが、そのことを幼馴染の前で話すのは非常に恥ずかしくて、自らの想いを言えなかったのである。
戸惑っている彼を気にせず、赤嶺は話すのであった。
「あやかはあんたのことが好きなのよ・・・。でも、あんたはどうなのよ・・・。その想いにあんたは応えられるの・・・口だけのあんたが・・・。」
「俺は・・・」
龍村の苦い記憶が頭を遮るのであった。
それは赤嶺から憎まれることになった原因。
龍村は彼女の前で、東御院のことが好きであるという想いを告げることに迷いが生まれたのであった。
一方、その頃。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
ゾンビたちが重い断末魔を上げて、灰になっていたのであった。
東御院が巫女服に模した戦闘服を身にまとい、二股の槍のような形をした武器「エンリィ」の先から高火力の光のビームを放出し、ゾンビたちを殲滅していたのであった。
その様子を眺めている物陰が二つ。
「へぇー。あれが『辺獄』のお坊ちゃまを倒したっていう『白銀の巫女』なの?」
「ヒッ!ヒッ!ヒッ!そうだ。バケモノじみてるだろう。」
「まぁ、あんな小娘。この私が出れば一瞬よ。手を出すんじゃあないわよ、『異端』。」
「ヒッ!ヒッ!ヒッ!了解~。それじゃ、頑張って~。」
二つの物陰は一つになったのであった。
「ふぅー。これで一通り済んだかな・・・。ッ!」
東御院は背後から斬りかかってきた二本のナイフを「エンリィ」の柄で防いだのであった。
彼女を背後から襲ったのは女性であった。
その女性は自らの攻撃を防がれると、彼女から距離を取るのであった。
「勘は良いみたいね・・・」
「あなたは誰?」
東御院は襲ってきた女性に「エンリィ」を突き付けたのであった。
「あらあら、『白銀の巫女』様はせっかちね。それじゃ、モテないわよ。私は『背徳者』が一人、『愛欲』よ。」