第一連 平穏な日々
5月28日(月)
「よぉ、龍村。金曜日は散々だったな。」
「ああ・・・そうだな・・・」
「にしてもお前が人助けなんてな。」
「う、うるせぇ!」
週明けの月曜日。
いつも通り登校してきた龍村を友人たちがからかうのであった。
「白銀の巫女」のこと、「背徳者」のこと、「神秘協会」のこと等、先日起こった奇妙な出来事は全て国家機密として、口外禁止するようにと言われ、金曜日の午後から学校からいなくなった理由も、「偶々、学校の用事で出ていった際に、ある事件に巻き込まれ、親子を救ったが、ケガをして、入院した」ということになったのだった。
龍村は苦笑いしながら、友人たちに話を合わせ、他愛ない会話でバカ騒ぎ。
何気ない日常。無事、戻ってこれたのだと改めて認識したのであった。
「あー、ところでこれ、ウチの親父からのお土産。」
友人からパンパンに膨らんだ缶詰を渡されたのであった。
「なにこれ?」
「シュールストレミング」
「いらねぇ。」
龍村は笑いながら、それを自分のロッカーに投げ込むのであった。
「あぅッ!」
その瞬間、全身をきしむような痛みがを襲うのであった。
「どうした?怪我がまだ痛むんか?」
「いや、ただの筋肉痛・・・」
「ハハッ!人助けなんてらしくねえことするからだ。」
「うるせぇ!」
龍村は筋肉痛で痛む場所を擦りながら、この土日のことを思い出していたのだった。
5月26日(土)
「と・・・まぁ、夢斗君には協力してもらうことになったのだが、その前にやるべきことがある。」
「やるべき事?」
「ああ、そうだ。まずは基本的なことをこの土日に身に着けて貰おう。」
立浪から東御院と共に「背徳者」を倒すことへの協力を承認した後、検査のため、施設内の医務室で一晩を過ごした龍村であったが、朝、起きると立浪に呼ばれて、用意されたジャージ姿に着替え、指定された部屋に行くのであった。
(・・・ていうか。何だこのビル・・・。見た目は普通のビルなのに中身は全然普通じゃない。特に何だこの地下は。スパイ映画に出てくるアジトかよ・・・。)
龍村が驚くのは無理もない。
見た目と地上にある階は至って普通のビルなのだが、地下はまるでアリの巣の様に入り組んでおり多くの部屋があった。しかもその部屋一部屋、一部屋に最新設備が置かれており、昨日、検査の後、寝泊まりした医務室然り、今いる訓練室も地下にあるにも関わらず、田舎の小規模小学校の体育館並みの広さがあったのであった。
「ところで、夢斗君。君は聞いたことがあるかね、『魔力』という言葉を。」
「『魔力』?そういえば『辺獄』がそんなこと言ってたし、あんたも昨日、俺に言ってたじゃあねぇか。」
「そういえば、そうだったな。言葉を知っているなら話が早い。『魔力』は簡単に言えば、生命エネルギーのことだ。そして、これを操る能力を持つ者を魔術師と呼んでいる。」
「んッ!それって、使うたびに寿命を減らすということなのか?」
「それは基本的には大丈夫だ。使い過ぎても、寿命が減ることはない。現に本部のお偉いさんの中には長年、魔力を使っているが、90歳超えても元気な爺さん、婆さんだっていっぱいいる。魔力を使い過ぎても、全身にかなり疲労感があるぐらいだ。そして、『魔力』を回復させたい時は食事をしたり、睡眠をしたりすると回復する。」
「ふーん・・・」
龍村は立浪の説明に頷きながら聞いている。
「それと、魔力は個人によって、その性質が大きく異なる。大体、三種類に分けられる。まずは一般的な性質である強化型。イメージすることで、身体能力の向上が主になる。私や夢斗君はこれに該当するな。次は珍しい性質で放出型。これは魔力による身体能力に加え、自らの魔力を外に放出することができ、魔力のコントロール力、火力共に強化型よりも上だ。まぁ、ちょっとした弱点もあるが・・・。このタイプには東御院君が該当するな。最後は特殊型。これは説明しづらいな・・・。まぁ、これに関しては、ここ日本支部にも一人だけいるから、そいつに会った時にまた説明しよう。」
「へぇー。どんな人だろう・・・」
龍村が興味半分で聞いたのだが、
「まぁ、悪い奴ではない、悪い奴では・・・。ただ少し癖が・・・。まぁ、説明を続けるぞ。」
立浪は苦笑いしながら、その話題を避けつつ、説明を続けるのであった。
「次に魔力の『起源』についてだ。」
「『起源』?」
龍村は聞き慣れない言葉に首を傾げたのであった。
「まぁ、簡単に言ってしまえば、『魔力』の『元』と言えるか。例えば、東御院君の戦闘衣装を思い出してごらん。」
龍村は彼女の服装を思い出していた。
巫女装束のような純白な小袖とミニスカに身を包んでいる東御院。
「エロかったろ。」
「ブッ!」
立浪の言葉に思わず、龍村は吹き出してしまったのだった。
確かに巫女装束のような小袖を着ていたが、それは二の腕は露出しており、お腹の部分が丸く切り抜かれており、微かに下乳も見えていた。下に履いているスカートも角度によってはパンツが見えそうな短さであり、美しい脚は露わになっており、厳かな巫女が着るにしては露出過多であった。
「い、いいや、見てないですよ、俺は見てませんよッ!」
「フフ・・・。若いな・・・。」
動揺している龍村を茶化し、立浪は説明を続けるのであった。
「東御院君があんな服装をしているのは、彼女の趣味でもなく、彼女が露出狂だというわけでは決してない。あれは彼女のいや、東御院家の持つ『吸収』という起源の特性故なのだ。」
「『吸収』・・・」
「ところで突然、復習だが、魔力を回復するためにはどうすればよかったかな?」
「そりゃあ、食事とか睡眠だろ・・・」
「そうだ。だが、東御院家の起源『吸収』は、空気中からその魔力を吸収することができるのだ。つまり、彼女の魔力は無尽蔵だ。そして、空気中から魔力を効率よく吸収するために、肌の露出が多い衣装で戦闘しているのだ。」
「なるほど・・・」
(それで恥ずかしいから、あのバイザーを付けてたのね、東御院さん・・・。)
その頃、別の部屋では、
「クシュンッ!」
「どーしたの、あやかちゃーん。風邪?」
「そうかなー?誰か私の噂でもしてるのかも・・・」
「まぁ、あやかちゃんは可愛いから仕方ないね。」
「もう博士!」
そして、訓練室に話が戻り―――
「魔術師の特徴は受け継がれてきた家の起源、そして本人の起源、そして魔力の性質、この三点で分かる。例えば、東御院君の場合、東御院家の起源は『吸収』。彼女本人の起源は『光』、そして魔力の性質は放出型。このことから、彼女は無尽蔵の魔力で光の魔力を圧倒的な火力で放出する魔術師ということが分かるな。」
「高火力に、尽きない魔力・・・。それって、弱点がないんじゃ・・・」
立浪の説明を聞き、東御院の強さを再認識した龍村は思わず、声を零してしまうのであった。
だが、立浪はそんな囁きを聞き逃さなかった。
「いいや、弱点はある。さっき、私は魔力を使い過ぎても寿命で死ぬことは基本的にないと言ったが、放出型は例外だ。放出型の関しては、魔力を放出する際に何か媒介しないと、放出の際のフィードバックで身体にかなりの負担がかかり、最悪、命を落とすこともある。彼女の場合、あの槍のような形をした杖『エンリィ』がその役割を果たしているな。さらに魔力が無限大といっても身体側には放出できる魔力量の限界値があるからな。」
この言葉を聞き、龍村は「あの時」の記憶がフィードバックしたのであった。
目の前で「辺獄」もろとも道連れにする行為。あの行動の真の意味。
龍村は「もう悲劇は起こさない」と再び、決意するのであった。
「そういえば、東御院さんのあの服ってどうやって着替えてるんだろう?」
「ああ・・・それは君の左手の刀と一緒で身体の何処かに刻印をして、そこに魔力を流し込むことであの服に一瞬に着替えることができる仕組むさ。まぁ、あの服の材質は少し特殊だからな・・・。ところで他には質問はないか。」
「今の所は特に・・・」
「まぁ・・・一度に言い過ぎたな。あとでゆっくり整理して、また新たな疑問が出たら、聞いてくれ。できるだけ、答えよう。」
「ありがとうございます。」
「では、突然だが、さっそく実践訓練をはじめるぞ。刀を構えろ。」
そう言うと、立浪の先ほどまでの落ち着いた雰囲気がガラッと変わり、気迫に満ち溢れた雰囲気になったのだった。思わず、龍村も刀を構えるのであった。
「いい構えだ。昔、どこかで剣術でもならっていたのかな。」
「・・・少しほど・・・」
「では行くぞ!」
そして、龍村は立浪と何度も手合わせするのであった。
地獄の特訓が始まったのであった。
5月28日(月)
(あの後、昨日の夜11時ぐらいまで、ちょくちょく休憩はあったけど、ずっーと手合わせしてたな・・・。でも結局、数千と戦ったけど、立浪さんに傷一つも付けれず、ボロ負けだったなぁ・・・。ウッ!思い出しただけでも吐き気が・・・)
この土日の過酷な特訓を思い出し、龍村は思わず吐き気を催したのであった。
だが、この特訓のおかげで、なんとか魔力の基本的な扱いには慣れてきたのであった。
「あ・・・。その、お、おはよう、龍村君。」
「お、おはよう、東御院さん。」
「ふへっ!」
偶々、教室で龍村と目が合った東御院から挨拶されたのだった。
そして、龍村も挨拶を返したのだが、お互いにその声は震えており、目もお互いそらしていたのだった。
だが、お互い内心では、
(やったーッ!東御院さんから挨拶されたッ!よっしゃー!そして、今日もカワイイッ!)
(はわわわわわわわ・・・。始めて、挨拶したけど緊張した・・・。龍村君も私に「おはよう」って言ってくれて、嬉しくて、変な声出ちゃたけど・・・大丈夫だったかな・・・。今日もカッコイイな・・・。)
((ああ・・・心臓がドキドキする・・・))
心臓が大きく鼓動するほど緊張していたのであった。
挨拶するだけでも、お互いの顔はまるでリンゴのように赤くなっていたのであった。
「えッ!ちょっと、あやか!えッー!」
彼女の親友は東御院の行動に驚きを隠せず、顔を赤らめている彼女を問い詰めていたのであった。
この中で、自分だけが東御院の秘密を知っているということは、龍村にとって、何とも言えないような優越感を与えていたのであった。
授業中の彼女の所作全てが前より一層美しく感じるのであった。
そして、ある計画を彼は頭の中で考えていたのであった。
そして授業が終わり、下校時間になったのであった。
龍村は六時間目の選択授業の教室から急いで、彼女の選択授業の教室へ走るのであった。
彼の計画。それは一緒に下校することッ!
「待ちなさい、龍村!」
突然、後ろから呼ぶ声がして、振り向くと、そこには黒髪ロングの女子生徒が立っていたのであった。
「なに、赤嶺?」
「『なに?』じゃないわよ!あんたに聞きたいことがあるの。」
彼女の名前は赤嶺涼子。
東御院あやかの「大親友」であり、
「学校では二度と話しかけてくるなと言ったのはどの口だ。」
「ええ、私のこの口よ。別にあんたが心配じゃないのあやかのことが心配なだけよ。あんた、あやかに何したの!返答によっては、昔みたいにぶっ飛ばしてあげるッ!」
龍村夢斗の「幼馴染」である。