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第六連 背徳者―perperator of TUMI―

「あのぉ・・・」

「私語は慎みたまえ、龍村夢斗君。」

龍村はあの後、黒服たちに手錠を掛けられ、車に乗せられ、何処かへ連れて行かれていたのであった。

手錠は重く、痒い所にも手が届かず、車の窓から外は見れず、これからどうなってしまうのか。

龍村の心は不安と恐怖で一杯であった。

「降りたまえ。」

黒服の男に促され、車から降りると、そこは一見どこにでもあるようなビルの前であった。

黒服の男たちに両脇を抱えられたまま、龍村はそのビルの中に連れ込まれるのであった。

エレベーターに乗せられ、そのまま上へと上がった。

(お、俺はこれから・・・どうなっちまうんだ・・・)

薄暗いビルの中を一歩一歩歩く龍村は、あの筋肉モリモリマッチョマンたちのことを思い出し、不安で押しつぶされそうであった。

そして、龍村はある部屋の前に着いたのであった。

両脇の黒服の男たちがその扉を開けた瞬間・・・

「ようこそ、龍村夢斗君!」

大きなクラッカー音と色鮮やかな紙吹雪で歓迎されたのであった。

「?!」

予想外の出来事にただただ困惑する龍村であった。

そんな彼の様子を見て、長身で神父服に身を包む男性が龍村に手を差し出し、握手を求めたのであった。

「初めまして、龍村夢斗君。私の名前は立浪昌広。『神秘協会日本支部』の支部長だ。」

「は、初めまして・・・」

龍村は手錠が掛けられたままで握手をするのであった。

「さて、君には聞きたいことがあるが・・・その前に・・・ああ、これは邪魔だな。」

立浪は龍村の手錠を外し、お互い机を挟んで座るのであった。

龍村は手錠を外された手首を擦りながら、座っていた。

「質問する前に、君から私達に聞きたいこともあるだろう。まずはそれからだな。何か聞きたいことはないかな?『辺獄』とかいう男のことや、東御院君のこととかね。」

龍村はその言葉を聞き、ハッとした様子で、

「そうだッ!東御院さんは大丈夫なのか?そもそもあの男はなんだ?それになんで東御院さんはあんな奴と戦っているんだ?そもそもあんた達は誰なんだ?神秘協会ってなんなんだよ?」

積み重なっていた疑問を龍村は全て、目の前の男にぶちまけるのであった。

立浪は彼の言葉を聞いても落ち着いた様子で説明を始めたのであった。

「存外、質問が少ないな・・・。まぁ、いい。まずは東御院君のことだが、彼女は無事だ。まぁ、念のために医務室で検査しているが、まぁ、大丈夫だろう。次に私たち『神秘協会』のことだが・・・我々『神秘協会』の役目は社会の裏で起こっている非科学的な現象や超常現象を調査、対処する組織だ。イタリアのローマを本部にしており、世界各地にも多くの支部がある。ここまでは大丈夫かね。」

立浪の説明に龍村は静かにうなずくのであった。

非科学的な現象や超常現象の調査、対処。

これまでの奇妙な体験を経た龍村はこの言葉を納得せざる得なかった。

「ああ、それはよかった。次にあの『辺獄』とかいう男のことだが・・・。あの男は『地獄因子』という物質を撃ち込まれ、覚醒した『背徳者』と呼ばれる者達の一人だ。彼らはそれぞれ地獄の名を冠し、それぞれが常人離れした超能力を持っている。例えば、あの最近騒がれている『ゾンビ』たち、あれも『背徳者』の一人の能力によって生み出されている。」

「そいつらは何がしたいんだ?」

龍村はそのことを聞かざるを得なかった。

ゾンビたちは多くの人を襲い、被害を出しており、また、あの地獄絵図を目の前で体験している龍村にとって「背徳者」と呼ばれる者達への怒りが沸々と沸いていたのであった。

「彼ら『背徳者』の目的は一つ、地獄の王『コキュートス』の復活をさせ、この地上を地獄にすること。ただそれだけ、それだけのために、彼らは多くの命を犠牲にするのだ。そして、彼らの悲願を防ぐために東御院君に戦ってもらっている。」

「なんで、そんなやつと戦うのが東御院さんなんだ?」

立浪の説明に疑問を抱くのも当たり前だ。

この地上を地獄に変えることを目論んでいる奴らになぜ、まだ17歳の少女をそんな奴らと戦わせるのか。

「ああ、すまない。言葉を間違えた。東御院君しか彼らは倒せない。なぜなら、彼女は『神』の血を引き継ぐ『守護四家』の一つ、東御院家の継承者なのだからな。」

「それはどういう意味だ?」

「まぁ『守護四家』についてはまた何れ話すとして・・・。『背徳者』たちが持っている『地獄因子』。これを完全に清浄する、つまりこの世から消滅させることができる能力があるのは、『守護四家』の継承者たちだけだ。だが、東御院家以外の他の三家の継承者たちは未だその能力には覚醒していない。だから、我々は彼女に・・・。」

「でも、それでもッ!」

龍村は「背徳者」との戦いの危険性をその身をもって痛いほど知っている。

だから、彼は彼女が戦うのは心から反対していたのであった。

「いいんだよ、龍村君。私はそれでも。」

「東御院さんッ!」

いつのまにか部屋に東御院あやかがいたのであった。

先程と違い、髪飾りを外し、その美しい絹の様な白髪を下ろしており、入院服に身を包んでいたのであった。

「もう大丈夫なのか、東御院さん。」

「えへへ・・・。ありがとう、龍村君。私はもう大丈夫だよ。」

彼女は柔らかく優しい笑顔で答えるのであった。

「あのね、龍村君。私はね、『みんな』を守りたくて、戦っているんだよ。『みんな』が笑顔で明日を迎えることができるために・・・『みんな』の幸せで暮らしていけるためになら、私、どんなことだって頑張れるよ。」

「だけど・・・一人であんな奴と戦うなんて・・・」

「ああ、もう東御院君一人で戦うことはないぞ。」

「「へッ?」」

立浪の言葉に二人は目を丸くするのであった。

そんな二人のことを気にせず、彼は話し始めたのであった。

「さて、龍村夢斗君からの質問に答えたから、次はこっちからの質問に答えてもらおうか。あの錆びた日本刀とその魔力はどこで手入れた?」

立浪の質問に龍村の全身から冷や汗が溢れ出したのであった。

「東御院君からの報告によると、君は魔力で身体を強化しただけでなく、『守護四家』以外では干渉することができない『背徳者』の能力にその錆びた日本刀で干渉したそうではないか。さらに君の行動の数々、まるで『辺獄』が現れること、さらにその能力を全て知っていたようではないか。どういうことかな、龍村夢斗君?」

「そ、それは・・・」

龍村の言葉が詰まる。

脳裏にあの旅詩人・ウェルギリウスのことが過るのであった。

だが、根拠のない直観であるが、ウェルギリウスのこと、タイムトラベルのことを正直に話すことをやめたほうがいいと感じたのであった。

「その・・・東御院さんを助けたい一心でやったから、お、覚えてない・・・。」

龍村は動揺しながら、苦しい弁明をするのであった。

「そうか・・・。ところで君の親戚に西条寺という親戚はいるか?」

「うーん・・・そんな名前は聞いたことがないな。」

「分かった。ありがとう、今の話は忘れてくれ。」

立浪は一度、目を閉じ、そして、席を立ち、龍村に深々と頭を下げるのであった。

「龍村夢斗君!君の力を我々に貸して欲しい!その力で東御院君と一緒に『背徳者』たちを倒して欲しい!どうかこの通り!」

「「え、えーーーーッ!」」

立浪の行動に二人は驚きを隠せずにはいられなかった。

「俺があんた達に力を貸したら、東御院さんを助けることができるのか?」

「ああ、もちろんだ!」

その言葉を聞き、龍村は東御院を見て、決心したのであった。

「分かりました、立浪さん。俺の力、あんた達に貸すぜ!」

「でもね、でもね・・・龍村君。戦いって、とーても危ないんだよ。だから・・・」

そう言ってアタフタしている東御院さんの両手を龍村は握りしめ、そして、

「そんなことは分かっているよ、東御院さん。ただ、俺は君を守りたいんだッ!」

「ふへっ!はわわわわわわわッ!そ、そんなこと、言われたら・・・」

龍村の言葉を聞き、彼女の顔は紅潮していたのであった。

運命の歯車が大きな音を立てて、動き始めたのであった。

この旅の行く末の果てに彼らは何を見るのか・・・。


「ヒッ!ヒッ!ヒッ!全員揃ったな。皆さん、久しぶり、元気にしてたかな?」

「全員?『異端』、あんたの目はいつから節穴になったのかしら?集まったのは、この私と、気持ち悪いナルシストに、堅物、そして、あんたの四人だけ・・・。他は何をしているのかしら・・・」

「ヒッ!ヒッ!ヒッ!そいつは耳がいてぇ!幹事の俺の人望がないみたいじゃあないか。まぁ、あれだ。『あのお方』とあいつは商談のために日本には居ねぇよ。そして、あの脳筋はただいまお仕置き中だから、不参加。」

「それじゃ、あの『辺獄』のお坊ちゃまは?」

「ああ、あいつは『白銀の巫女』に清浄されちまったぜ、ヒッ!ヒッ!ヒッ!」

「なに?!貴様は『あのお方』からサポートを任されていたのに、何をしていた?」

「そう怒んなさって、旦那。また耳痛いお話だ。ヒッ!ヒッ!ヒッ!」

「彼の能力って、結構、強力だったよね。それで負けるなんて・・・、美しくない。」

「おい、口を慎め。その口を縫い合わぜるぞ。」

「ハイハイ、そこまで、そこまで。『あのお方』から次の指令が届いているってハ・ナ・シ。ヒッ!ヒッ!ヒッ!次は誰がいくのかな、ヒッ!ヒッ!ヒッ!」


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