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第三連 希望の詩人

「ここは?」

龍村が目を覚ますとそこは見知らぬ天井であった。

ベットはフカフカで、独特な薬品に匂い。

(ああ、ここは病院か・・・。きっと、あれは夢だったに違いない・・・)

龍村はゆっくりとベットが起き上がると、自らのベット周り360度に黒服にサングラスを付けた身長190㎝の筋肉モリモリマッチョマン達が取り囲んでいたのであった。

「おいおい、一体、いつから病院はボディビル会場になっちまったんだ。」

「この状況で軽口か・・・これが若さか・・・」

直立不動で立っているマッチョマンたちの中で唯一、椅子に座っている男がいた。

その男は龍村の軽口に一つため息をつき、話始めたのであった。

「龍村夢斗君・・・我々が君に要求することは一つ、たった一つのシンプルなことだ。昨日、君が見たこと、体験したことは決して口外しないこと、OK?」

この言葉に龍村は昨日の出来事は決して夢じゃないことを認識させられたのであった。

そして、彼女との最期の別れを思い出し、涙が溢れ出したのであった。

「断るといったら・・・」

龍村の言葉を聞き、周りのマッチョマンたちは龍村を取り押さえたのであった。

「離せ!離せ!この野郎!なんで東御院さんが戦っているんだ!昨日のあいつは何だ!」

マッチョマンたちに取り押さえられながらも、龍村は自らの疑問を目の前の男にぶつけるのであった。

男は一つため息をつき、静かに彼に問うのであった。

「それを知って、君は何をするのかい?」

「そんなの決まっている。東御院さんの仇をとる!」

龍村は即座に答えたのであった。

「ハハハハハッ!こいつは面白い!とんだ面白いジョークだ。」

男は腹を抱えて爆笑したのであった。

その男の態度に龍村は怒りを込めて反論するのであった。

「ジョークじゃない!俺は本気だ!」

男はその言葉を聞き、笑いを止め、

「あの場にいた君は何ができたのだ?何もできなかったのだろう。その結果は、その両手の感覚がよく知っているはずだ。」

男の凄みに圧倒され、龍村は反論することはできなかった。

彼は彼女の身体が徐々に冷たくなっていく感覚を思い出ししていた。

「口だけ達者なトーシロがしゃしゃり出ても、何もできないただの案山子になるだけだ。もう、彼女のことは忘れて、彼女の分まで生きることをオススメするぞ。」

そして、男はマッチョマンたちを促し、龍村を取り押さえていることを辞めさせたのであった。

そして、男はマッチョマンたちを引き連れ、病室を去るのであった。

そして、龍村は一人、病室に取り残されたのであった。


6月3日(日)

「龍村さん、お大事にー。」

「ありがとうございました。」

龍村はようやく退院したのであった。

入院中、龍村は怪我というよりも精神的な治療を施されていたのだった。

あの事件のことは家族や担当医はもちろん、誰にも口外してはいけなかったため、抜根的な治療は施されなかった。

龍村はまっすぐ家に帰らず、街を彷徨っていたのだった。

日曜日。楽しいはずの休日。

だが、彼の脳裏には「東御院あやか」の最期の瞬間が、光景としても、感覚としても何度もフラッシュバックするのであった。

彼はただ逃げるように街を彷徨い続け、気付いたら寂れた公園のベンチで座っていたのだった。

気付けば、夕方になっており、暖かい夕日を彼はただ眺めていたのだった。

自然と涙が溢れる。

感情が抑えきれない。

「畜生!畜生!俺は!俺は!助けたかったのに!東御院さんを助けたかったのに!ただ、それだけなのに!あの時、俺が勇気を出していれば!あの親子にもっと早く気づければ!離れる時のルートが別だったら!俺が人質になれなければ!俺がもっと強ければ!東御院さんが死ぬことはなかったのに!畜生!チクショー!」

溢れ出す感情を龍村は、さらけ出していたのだった。

後悔と自らの無力感に苛まれ、17歳の少年が背負うには大きすぎる十字架。

その全てを龍村は、言葉として吐き出していたのだった。

「チャオ!どうしたんだい、少年・・・。そんなところで何を嘆いているんだい。」

龍村の目の前に痩せ型であるが、快活な中年男性が立っていたのであった。

「あ、貴方は誰?」

突然、話しかけられて、困惑する龍村はその中年男性に名前を尋ねるのであった。

「アハハハハハッ!確かにッ!どこの馬の骨か分からんおっさんを怪しむのは当然のことだな!ああ、私の名前はウェルギリウス。ただの旅する詩人さ。」

この出会いこそが全ての始まりであった。


「ウェルギリウス?」

「ああ、そうだ。私の名前はウェルギリウス。ところで君の名前は?」

「お、俺の名前?俺の名前は龍村夢斗。」

「フゥン・・・そうか!いい名前だな!」

それから龍村とウェルギリウスは色々な話をするのであった。

ブロンドのオールバックに、チョビ髭を生やしているこのウェルギリウスは、詩を書くために故郷であるイタリアを飛び出し、世界中を旅していること、日本語は友人に教えて貰ったこと、詩人なのに絵の方が高く評価されているおり、生活に困ると絵を描いて売っているということ等、色々な話で盛り上がるのであった。

このウェルギリウスという中年男性と話している内に、沈みかけていた龍村の気持ちも不思議と明るくなっていったのであった。

「私の話はこれにおしまい。今度は夢斗がなぜ、あんなに嘆いていたのか教えてくれないかな?」

この言葉に龍村は固まってしまった。

再び、あの悪夢がフラッシュバックされたのだが、

「いや、いいんだ。ゆっくり、ゆっーくり、話してごらん。大切なのは自らの『想い』を自らの『言葉』で紡ぎ出すことなのだから・・・」

ウェルギリウスの言葉に龍村は優しく包まれているような感じがし、そして、

「実は俺、目の前で好きだった子が死んだんです・・・」

不思議なことに、ウェルギリウスの言葉を聞いた龍村は自然と話し始めていたのだった。

「その子は中学生の頃から好きだったんだけど、恥ずかしくて、想いを伝えるどころか、話すことすらできなかったんだ。そして、ある日、彼女の秘密を知ってしまったんだ。それで、俺・・・調子に乗っちゃって・・・。彼女が何と戦っているのか、何も分からないまま、首を突っ込んじゃって・・・。結果、彼女は・・・。」

話している内に涙が流れてきたのであった。

「そして、最期になって、彼女の本当の想いを知ることができた、できたのにぃ・・・俺は彼女を救えなかった。」

「じゃ、どうしたら彼女は救えたと思う?」

ウェルギリウスが龍村に優しく問うたのであった。

「そんなもの決まっている!俺がもっと勇気を出していれば!あの親子にもっと早く気づければ!離れる時のルートが別だったら!俺が人質になれなければ!俺がもっと強ければ!きっと彼女は救えたに決まっている!」

龍村の言葉にウェルギリウスはただ柔らかい笑みを浮かべて、聞いていたのだった。

そして、全てを吐き出し、膝から崩れ、泣き始めた龍村の頭をポンと叩いたのだった。

「人生とは後悔と戸惑いの連続さ。生きることは辛苦を積みさせねる巡礼に似ている。だからこそ、人生とは美しく輝いているものなのさ。」

「・・・?」

龍村はウェルギリウスの言葉の真意が分からなかった。

「ところで夢斗。もし、その彼女を救うことできるとしたらどうする?」

突拍子の言葉に一瞬、躊躇した龍村であったが、

「もし、そんなことができるなら、悪魔にでも魂を売ってやる!」

「フハハハハハッ!何、そんなことをしなくてもいいさ。大切なのは、彼女を救いたいという『想い』だけさ。」

「・・・?」

龍村は困惑する。

「ほれ、これ上げる。」

「エッ!」

すると、突然、ウェルギリウスは日本刀を龍村に渡すのであった。

龍村は驚きながら、それを受け取り、赤い鞘から刀を取り出したのだった。

「ちょっと待って。これ、錆びてる・・・」

そう、ウェルギリウスが渡した刀の刀身は茶色く錆びていたのだった。

これでは何も斬ることができないのである。

もはや、それは刀としての失格である。

「フハハハハハッ!確かにそれは錆びているナマクラ刀さ。でも、そのナマクラでしか斬れないものだってある。何れ分かるさ・・・。そうそう、その刀の名前は『業』。きっと、君に素晴らしい力を与えてくれるさ。」

「かるま?」

「業」という刀から何とも言えない雰囲気を感じ取った龍村であった。

「そうそう『業』。あと、その頭の部分を利き手の手のひらで押してごらん。」

「き・・消えた?!」

右の手のひらで刀の頭を押すと、「業」は消えたのであった。

困惑する龍村であったが、左の手のひらに小さい赤色の丸印が刻まれていたのだった。

「今度は、刀を出すときは両方の手のひらをパンと合わせるだけ。ああ、その際に彼女を助けたいという『想い』を込めないと、刀は出てこないよ。後、目を閉じて。」

龍村はわけがわからないまま、目を閉じたのだった。

すると、ウェルギリウスを龍村の頭に手を置いたのだった。

「ああ、もういいよ、目を開けて・・・」

龍村はゆっくりと目を開けたのだった。すると、体中に不思議な感覚を覚えるのであった。

「次に大切なことはイメージすること。どうありたいか。どうしたいのか。例えば、速く走りたいと思うなら、そうイメージすればいい。ねぇ、シンプルだろ?」

「・・・?」

「まぁ、これは実践あるのみか・・・」

龍村は何が起こっているのか分からないままことが進んでいた。

「最後にこれ上げる。」

「これは?」

ウェルギリウスから渡されたものは古臭い懐中時計であった。

時を刻む音は聞こえるものの、劣化し過ぎてて時間を読むことができなかった。

「それは時を遡る時計さ。」

「アハハハハハッ!そんなバカな!」

ウェルギリウスの言葉に龍村は腹を抱えて爆笑したのであった。

だが、ウェルギリウスは真面目に話を進めていたのであった。

「いいか、夢斗。時間を遡ることに大切なのは、救いたいという『想い』だ。その想いがあれば、きっとその時計はその想いに答えてくれる。ただ、二つ気を付けてほしいことがある。一つ目は時間を遡った時点よりも過去の時間には遡れない。例えば、10月10日に戻った場合、次からは10月9日以前にはもう戻れない。二つ目は時間を遡り、過去を変えることができるのは1回だけだ。例えば、10月10日にAという結果をBという結果に変えた場合、もうこのBという結果は決して変えることはできないッ!」

「はいはい・・・分かった、分かりました。」

龍村はウェルギリウスが自分を元気づけてくれるためのジョークだと思って、聞き流していたのだった。

「じゃ、その時計に今の夢斗の『想い』をこめてごらん。」

(まぁ、冗談でもいいや。彼女を、東御院さんを救うことなら、こんなジョークでも付き合ってやるッ!俺は東御院さんを救いたい!俺の想いを俺の言葉で伝えたい!それだけ、それだけが俺の想いッ!俺を導いてくれッ!)

その瞬間、視界が揺れ始め、まるで無重力の世界にいるかのような不思議な感覚に陥ったのであった。

「それでは、よき旅よ、龍村夢斗。これからの旅は苦しく悲しいものになると思うが、大切なのは『想い』さ。それを忘れなければ、きっと祝福に満ち溢れた行く末にたどり着ける・・・。Veel geluk!あ、間違えた、アーリヴェデルチ!」


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