第二連 犠牲の果ての勝利
「とっておきの技・・・。おいおい、それはヘビーなワードだな。」
「それがあなたの遺言なのね。」
「辺獄」を羽交い絞めしている「巫女」の身体から白銀の美しいオーラが出始めたのであった。
そして、そのオーラは段々と大きなっていたのであった。
「な、なんだこのヘビーな魔力量ッ・・・!だが、その魔力を放出する武器はすでに・・・ま、まさか、てめぇ・・・」
始めて見せた「辺獄」の焦り顔。
それはこの先の結末を示唆していたのであった。
「い、いいのか、巫女様、あの赤ん坊の命は俺が握っているだぜ・・・」
「もう大丈夫よ。あなたが怒り狂って龍村君に攻撃している間に、赤ちゃんの持っている石はどかしたし、服も脱がせたわよ。気付かなかった?」
巫女の声に「辺獄」は赤ん坊を見たのだが、言った通り、すでに石を持っておらず、服も脱がされた状態で、母親に優しく抱きかかえられていたのだった。つまり、すでに人質としての役割を失くしていることは明確であった。
「い、いいのか、巫女様。俺たち「背徳者」と違って、てめぇらは武器を媒介せずに身体から直接魔力を放出する場合、そのフィードバックの負荷で身体にヘビーなダメージが負うぜ。ましてやそんなあり得ない程ヘビーな魔力量・・・」
「分かっているわよ・・・そんなこと・・・。きっと私はフィードバックの負荷に耐え切れず、死ぬわ。」
「ああ、そうだろ・・・い、命は惜しいよな・・・」
「でも、それでも命を失っても私は『みんな』を守りたいッ!今、私の命の全てを賭けて、あなたを清浄するッ!」
巫女の言葉に「辺獄」の焦りは絶頂を迎えていた。
彼女の覚悟にすでに交渉の余地はなかったのである。
彼女を包む美しい白銀のオーラが巨大になるにしたがって、空がうねり、大地が震えていた。
「離せッ!離せッ!この糞アマッ!離せってんだッ!」
「辺獄」は感情を爆発させ、なんとか巫女を振りほどくべく、足掻いていたのだった。
彼女の服をどんなに重くしても、彼女の腕を力強く握っても、少女の細い腕を解くことができなかった。
「もう終わりよ、あの世で懺悔して・・・」
その瞬間、彼女を包んでいた白銀の美しいオーラが一瞬、縮んだ後、天まで届く大きな光の柱となって、二人を包んだのであった。
そして、光の柱が消えた後、彼女は「辺獄」を羽交い絞めすることはやめ、千鳥足で歩き始めたのであった。
「チクショー!チクショー!チクショー!こんなところで!この俺がッ!この俺がぁぁぁぁぁ!」
「辺獄」の身体は至る所が灰になり始めており、哀れな叫び声を上げながら、苦しみ悶えていた。
だが、巫女は「辺獄」に見向きもせず、ひたすら千鳥足で歩いていたのであった。
その後、直ぐに「辺獄」の全身が灰になったのだが、巫女はそんなことを気にしていなかったのである。
彼女は「辺獄」によって、大きなダメージを負って、身悶えている龍村の傍に寄り添い、そして、先程とは違い、柔らかい光を手から龍村に放出したのであった。
(ああ・・・なんだこの光、暖かい・・・それに痛みが引く・・・)
龍村は暖かい光に包まれ、痛みが消えていくという何とも不思議な感覚を覚えていたのだった。
そして、暖かい光が消えた瞬間、巫女の全身から力が抜け、倒れ込みかけたが、龍村は彼女を受け止め、ついに彼は「白銀の巫女」の正体を知るのであった。
「東御院さんッ・・・?!」
ルビーのように赤く、丸い大きな垂れ目、幾らか幼さを感じるあどけない印象を与える顔のパーツ。
そして、陽の光を反射する繊細で艶のある、白く美しい絹のような髪、先程の戦いによって痣や傷はあるものの、透き通るようで、しかし確かに生命を感じるきめ細かな乳白色の肌。
間違いない。見間違えるはずがない。彼女は、「白銀の巫女」は「東御院あやか」である。
「えへへ・・・なんで私ってわかったのかな・・・ああ・・・そうか・・・さっきのでバイザーが壊れたんだね・・・」
今にも消えてしまいそうな程、弱々しい声で話す彼女。
「喋るな!今、助けてやる!こんなとこで東御院さんを死なせてなるものかッ!」
彼は必死に考えたのであった、ここから彼女は助ける方法を。
「大丈夫だよ・・・龍村君・・・。もう、私は助からないの・・・」
「そんなことはない!誰か!誰でもいい!」
龍村の悲痛な叫び声で虚しく響くだけであった。
「最期に私・・・龍村君に言いたいことがあるんだ・・・」
「最期じゃない、これが最期じゃない・・・」
「えへへ・・・私、龍村君のこと、好きなんだ・・・中学校の時に初めて会った時から・・・」
「・・・ッ!俺も、俺も東御院さんのことは好きなんだッ!だから、死なないでくれッ!」
「ああ・・・そうだったんだ・・・えへへ・・・なーんだ私たち両想いだったんだ・・・これなら・・・もっと・・・勇気をだして・・・お話ししたかったなぁ・・・私って・・・ほんと・・・」
龍村は抱えている彼女がだんだんと冷たくなっているのを感じ、自然と涙が流れ始めたのだった。
「どう・・・したの・・・わ・・・たし・・・龍村君の泣き・・・顔・・・よりも・・・笑っ・・・て・・・いる・・・顔・・・が好きなんだよ・・・だから笑って・・・」
彼女は最期の力を振り絞り、弱々しいながらも自らの想いを語るのであった。
「ああ、そうだな・・・」
龍村は涙を流したまま、笑みを浮かべたのであった。
「ありがとう・・・龍村君・・・ああ・・・なんだか・・・ねむたいね・・・」
彼女はまるで眠りにつくように静かに目を閉じたのであった。
その顔は満足気な顔であった。
龍村は彼女を強く抱きしめた。
彼女はとても冷たくなっていた。
「あああああああああああああああああああああ!」
龍村の絶望に染まった慟哭が虚しく響き渡るだけであった。