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白銀の少女

5月24日(木)

「龍村、帰りにドムドム寄ろうぜ。」

「いや、今日はやめとく。」

「どうした?まさか、剣道部に復帰するんか?」

「それはねーよ。叔父さんが家に来てるから早く帰ってこいってオカンがうるせんだよ。」

「ハハ、ドンマイ。じゃ、また明日な。」

「おう、また明日。」

友人との誘いを断り、家への帰路を着いている少年。

彼の名前は龍村夢斗。

丈は高く、すらりとして、黒々とした眼差し、そして、漆黒の髪といたって普通の高校二年生である。


いつも通りの帰り道をいつも通りのように帰っている龍村。

新鮮味のなくなった道を彼はあくびをしながら歩いていたのだった。

「えっ?!」

だが、しかし、その瞬間、彼に電撃走る。

大きな髪飾りによって二つに結び分かれた、陽の光を反射する繊細で艶のある、白く美しい絹のような髪、透き通るようで、しかし確かに生命を感じるきめ細かな乳白色の肌の少女が彼の目に入ったのである。

(えええ!ちょ、あれは東御院さん!ど、どうして、ここに!)

龍村はこの少女のことを知っていたのであった。

少女の名前は東御院あやか。龍村のクラスメイトである。

そして、龍村の好きな人である。

彼女とは、中学一年生の時に初めて出会った時に一目惚れしたのだが、恥ずかしさと照れ臭さで声を掛けずにいたのであった。だが、遠くから眺めるだけでも彼にとっては幸せであった。

そんな彼女がなぜこんな所に?彼女の家はこことは真逆の場所にあるはずである。

(あっちは俺に気づいてないし、ちょっとついて行ってみよう。)

龍村は興味半分で彼女の後を追うのであった。


彼女は、ズンズンと路地裏を歩いていったのだった。

龍村は、彼女に気付かれないようにかつ、見失わないように尾行していたのだった。

路地裏は整備されておらず、非常に歩きづらかった。

(そうか、十年前の傷跡はまだ残ってたんだな。)

十年前、ある一人の男が起こした大火災。

首都・東京を燃やし尽くし、多くの犠牲者を出し、首都の機能を喪失させ、人々と街の記憶に凄絶な傷跡を残したのであった。

それから十年経ち、復興は進んだもののまだ傷跡はそこら中に残っていたのであった。


「あ、あれ?東御院さんは・・・」

入り組んだ路地裏を歩いて行き止まりに着いたが、龍村は彼女を見失ったのであった。

「どこに行ったんだ?もしかして、見間違いだったのか?」

龍村は辺りを見回しても、人っ子一人もいないのであった。

彼は首を傾げながら、再びいつも通りの帰り道に戻るのであった。

「あ!やべー・・・早く帰ってこいって言われてたのに・・・」

彼の脳裏に母の「今日は早く帰ってきなさい」という言葉が過ったのであった。

約束を破った時の母ほど恐ろしいものはない。

「まぁ、ちょっとした楽しいピクニックだったからいいか。」

彼は頭をフル回転させて、何十、いや何百個の言い訳を考えていた。

グルル・・・

瞬間、彼の頭上から低いうねり声が聞こえてきた。

「おいおい、まさか・・・」

龍村は恐る恐る上を見ると、肌が灰色で白目を向いている、まるで腐乱死体のような怪物がビルの壁に四つん這いで張り付いていた。

この怪物たちは、ここ数か月前に突如現れ、人々を襲っており、その見た目から「ゾンビ」と呼ばれているのである。

ゾンビたちは龍村を見て、舌なめずりをしたのであった。

「どうやら、楽しいピクニックはまだまだこれからみたいだな。」

ガァー!!!

ゾンビたちは一斉に龍村に襲い掛かってきたのであった。

龍村はゾンビたちの攻撃を何とか避け、全力で路地裏を走ったのであった。

整備されてない上に入り組んでいたため、龍村の体力を確実に奪っていた。

彼は何度か、後ろを見て、ゾンビたちを撒けたかどうか確認しようとしたが、後ろからのうめき声で、その必要はないと感じた。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・よし、ここを右に曲がれば・・・えっ?!」

龍村は来た道は路地裏から出たつもりであったが、目の前には行き止まりが広がっていたのであった。

そして、後ろを恐る恐る見ると、ゾンビたちが集まっていたのであった。

「ふぅ・・・。見た目が可愛ければ、優秀なペットだぜ。」

(ここまでか・・・)

龍村は膝をつき、目を閉じ、観念した。

グラァァ!!!

ゾンビたちが一斉に龍村に襲い掛かった。


ギャァァァ!!!

(死ぬときって案外痛みは来ないのか。)

痛みがないことを不思議に思った龍村は恐る恐る目を開けるとそこに衝撃的な景色が広がっていた。

ゾンビたちが苦し悶え、そして灰になっていくのであった。

そして、目の前には白く美しい髪に、乳白色の肌、巫女装束のような純白な小袖とミニスカを身に包み、その手には槍のような物を持っている少女が目の前に立っていた。

「俺は死んだのか・・・」

「大丈夫、生きてるよ。」

少女はこちらを向き、龍村に声を掛けた。

彼女の目にはオレンジ色のバイザーをしていたが、口元等から幼い印象を与えるのであった。

龍村はネットのある噂を思い出していた。

数か月前、ゾンビが現れて以降、それらを倒している「白銀の巫女」がいるということ。

「あんたが俺を助けたのか。」

「あ・・・うん・・・」

「そうか。ありがとう。」

「ふへっ!」

「ん?」

龍村はとりあえず、助けてくれたことへの感謝をしたのだが、少女から変な声がした気がした。

「と、とりあえず、こ、今度はき、気を付けてく、くださいね。」

目の前の少女はなぜか動揺して、そのままどこかへ飛び去ってしまったのであった。

「ああああああ!よかった!助かった!」

龍村の緊張が解け、そのまま仰向けになった。

(あの声、そして、あの髪の色、もしかして、白銀の巫女って・・・)

彼は先ほど出会った少女のことを振り返っていた。

Prrrrrrrrrrrrrr!

「やべっ!」

龍村のスマホの着信が入ったのだった。

着信相手は見るまでもなく、母であった。

「今日は厄日だな・・・」

龍村にとって、今日は一日二度死線を味わう人生最悪の日であった。


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