エサ確定!?
「じゃなかった!」
そうだ、今は目の前のドラゴンくんの怪我をどうにかしなくては。かといって、今自分の目の前にあるのはアンズちゃん太鼓判の高級? 回復薬だけだし。
「そうだ! 自分に使ってそれで効果があればドラゴンくんに使えばいいんだ!」
なんでこんな簡単な事が思いつかないんだ自分!
「よ~し、さっそく」
アンズちゃんを降ろして、自分の手のひらに回復薬を数滴たらしてみる。
すると……。
「おお! すごい!」
私は目を見開く。みるみるうちに傷口が塞がっていくじゃないか! しかも、傷跡が全く残ってない。
これはアンズちゃんの鼻が本当に正しいみたい。
「よし、これで」
寝ているドラゴンくんを起こさないようにそっと近づき、傷に回復薬をかける。すると私の傷同様、みるみる傷が塞がっていく。
量が足りなかったのか、多少痣みたいに傷は残っていたけど、痛々しさは全くない。心なしか、ドラゴンくんの表情も安心したものになった気がする。
「良かった……」
思わず力が抜けてしまった。
ドラゴンくんを助けられた。それが私の中でじわじわと熱を持っていく。
本当に、本当に良かった。
「なんか、疲れた」
ふかふか毛を触っているせいか、ドラゴンくんの体温が私よりも高いせいか、いい感じに日差しが降り注いでいるせいか。
とても眠いんだよね。
「神秘の泉、行かなきゃいけないんだけど」
言い終わった瞬間、大きなあくび。
だめだこれ。動けない。
「アンズちゃん、ごめん。少し昼寝してから行くね」
『昼寝? アタシもする! 向こうに広場があるから、そこなら安全だよ!』
「動けん……」
私はドラゴンくんの毛に埋もれるように体を横にした。うん。最高級の毛布の上に寝てるみたい。とても寝心地が良い。
『カヤちゃん! 竜族の近くは危ないよ!』
「大丈夫、大丈夫……」
言ってる合間にも、私の思考は夢の世界へと旅立ち始めている。これはもう、目を閉じるしかない。
「おやすみなさい……」
必死に叫んでるアンズちゃんには悪いけど。
いい夢、見れそうだ。
◇
――バッサバッサ。
「……むにゃ」
――バッサバッサ。
「う~ん。ふかふかさいこ~」
「ぎゃう」
「だよね~。……ん?」
私は、首を傾げた。
なんか全身がふわふわしてるんだけど。なんというか、雲に包まれているような水の中にいるような。
寝起きのせいか、まだぼんやりする頭を上げながら目を開き、
「うっぎゃあぁぁあああああああ!」
大絶叫を上げた。
目の前に広がってたのは、広大な緑。それが今さっきいた森だと分かるのに、そこまで時間はかからなかった。
頬を切る強い風と、それを打ち消す程の大きな羽音。腹を掴むように食い込むかぎ爪のついた大きな足。
空を飛んでる。それ以上も、以下もなかった。
「どうなってるのこれ⁉」
意味が分からない。寝ている合間に何起きた⁉ 混乱してると、胸の辺りがもぞもぞ動いた。
ん? このもふもふ感は!
『プハ!』
「アンズちゃん!」
胸の間からぴょこんと頭を出したのはアンズちゃん。けど、なんか。
「小さくない? アンズちゃん」
私の知ってるアンズちゃんは、子犬くらいの大きさのはずなのに、今のアンズちゃんはどうみても手のひらサイズしかない。
けど、小さくなっても変わらぬもふもふ感は最高だね~。今の状況がパニックだから余計、もふもふに現実逃避したくなってる私は悪くない。
『魔法で小さくなったの! あのままじゃ、置いてきぼりになってたから』
どやって顔してるアンズちゃんマジ可愛い。けど、手ががっしり掴まれてるからよしよし出来ない。
無念だ。
「とりあえず、なんでこうなったの」
『えっとね。カヤちゃんが寝た直後に竜族が起きてね。傷見てカヤちゃん見てたと思ったら、カヤちゃんがしってして、びゅ~って飛ぼうとしたの。だからアタシ、慌てて小さくなってカヤちゃんの服の中に入ったの!』
「……」
どうしよう、全く分からなかった。
「ちなみに……どこ向かってるとか、分かる?」
『う~んとね。このまま行くと竜国だよ』
「……へ?」
待て待て。少し整理させて。
竜国ってドラゴンくんの仲間たちが住んでる所だよね?
アルバさんが人間族が竜国に入るのは、怖いもの知らずの冒険者か、食料確定された人間だけって言ってなかったっけ?
つまり、この状況って……。
「私、エサ確定じゃん!」