ドラゴンくん
「綺麗……」
美しい。その一言でも足りてるのか不安に感じる存在がそこにいた。
光に反射して、オパール色に輝く毛並み。琥珀のように透き通った二本の角。そして、虹色に見える薄い銀色の瞳。
周りの木々も合わせて、一枚の絵を見ているみたいだ。
「あの毛、どんな手触りなんだろ……」
キラキラしてるけど、きっと手触りは最高なんだろうな。
と思ってたら。
『カヤちゃん⁉』
「ぎゃう!」
気付いたら、枝を捨ててドラゴンに近付いて毛並みを撫でてた。
うぉぉぉ! 短い毛なのに、まさかのふかふか! 極上毛布並みの感触! すごい!
なのにこのさらさら感。触ってても指の間からするすると抜けていく感覚は、まさに快感の極み! このまま頬を擦り付けていたい。
「じゃないでしょ! 自分!」
はっとして前を見たら、ドラゴンさんと目が合った。
なにも聞かなくても分かる。
これは……。
「怒ってる……?」
恐る恐る言った瞬間、アルバさんの言葉が蘇った。
(カヤ、竜族は人間族が大嫌いなんだ。だから万が一遭遇したら、全力で逃げる事。下手したらーー。
「殺されちゃうから、とか言ってたような……」
それは困る。これから楽しくなりそうなのに、死んでたまるもんかって感じだし。
けど、何故だろう……?
「触らずにはいられない!」
だってさ! こんなにさらさらふかふかの毛が目の前にあってさ。離れるなんて選択肢がある方がおかしくない⁉
はぁ~。死ぬのは嫌だけど、この毛をいつまでも堪能してたい~。
「ギャアァ!」
嫌いな人間に触られてるのがよっぽど嫌だったのか、暴れ出すドラゴン。
だがしかし、私はしっかりとドラゴンにつかまってるからね、振り落とされないのさ!
「お~、よしよしよし~」
思う存分、ふかふか毛を満喫。幸せ過ぎる。
そんなことをしてたら、どんどんとドラゴンが暴れなくなって……。気づいたら、大人しくなってすやすやと寝ていた。
あれ? 暴れ疲れたのかな?
『カヤちゃん大丈夫⁉』
「アンズちゃん!」
ぴょん! と乗り込んできたアンズちゃんをキャッチ!
う~ん。また違うもふもふが気持ちいい。
まぁアンズちゃんは、それどころではないみたいだけどね。めっちゃ慌ててるし。
『カヤちゃん逃げよ! 早くしないとドラゴン起きちゃう!』
「う~」
本当はもっと触っていたいんだけど、さすがにこれ以上はダメだよね。
私はドラゴンの上からゆっくりと降りる。改めて見ると、本当に綺麗なドラゴンだな……。
「オパールみたい」
『オパール?』
「私の世界にある宝石の名前だよ」
まぁ、宝石よりも目の前のドラゴンくんの方が数十倍美しいけどね。
「じゃあね、ドラゴンくん」
後ろ髪引かれる思いで立ち去ろうと思った直後、アンズちゃんがとんでもない事を言った。
『このドラゴン、ケガしてるから離れれば平気だと思うよ』