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従属



「ポメだぁぁぁぁあああ!」




『うぎゃぁぁああ!』




 子犬――ポメラニアンに疾風の如く近付いた私は思い切り抱きしめ、もふもふする。




 ヒツジウシとは違うモフモフ感! はぁぁ! やっぱりこの感じさいっこう!




「もふもふ、ふわふわ! 気持ちぃ!」




『なになになに!』




「えっと、カヤ?」




「もう、最高至福! 可愛い~! よ~しよ~し!」




 もふもふとしてると暫く暴れてたけど、気持ちいのか気付いたら大人しくなってた。




 ふっふっふ! これで触り放題だぜ!




「めっちゃ可愛いですね! アルバさんのペットですか?」




「その子が俺の従族だよ。名前はアンズ」




「この子が従族⁉」




 まさか、従族がこんなにもふもふでかわいくてもふもふなんて!




 神族最高じゃないか!






 ……いや、ちょっと待て、狭山華夜。




 もしかしたら、アルバさんの従族だけもふもふで、他の従族は私が想像した虫とかかもしれない。そう考えると、あまり期待はしない方が良いような気がする。




 なんだろう。テンションが、がくっと下がってしまった。悲しみのもふもふをアンズちゃんで堪能しよ……。




「私の従族も、もふもふだといいなぁ」




「もふもふだと思うよ」




 ばっと、顔を上げ、目を見開いたままアルバさんを見る。




 今、とてつもなく素晴らしいお告げが聞こえたんだけど!




「そそそ、それは、本当ですか⁉」




 私は、アルバさんとの間にある机をひっくり返しそうな勢いで身を乗り出した。あまりの私の迫力にアルバさんが若干引いてたけど、今はそれどころじゃない。




「教えて下さいアルバさん! さっきの言葉は本当なのですか!」




 沈黙が辺りを包む。




 心臓が耳の横で鳴っているかのように大きく響き、唾を飲み込む感触がやたらはっきりと感じた。




 きっとテレビでクイズ番組とかやってる人は、今の私と同じような感覚になってるんだろうな。そんな現実逃避のようなことを考えてしまう程、私は無意識に緊張をしていたみたい。




 数分……いや、数秒の沈黙の後、アルバさんはゆっくりと口を開いた。




 次の言葉で、私の運命が決まる!




「うん。従族は例外なく、もふもふの毛に包まれているよ。それで大体の子が持ち上げられるくらい、小柄だね」




「お~! 神よ‼‼」




 思わず天に向かって、手を組んでしまった。




 今なら心から神族を拝める! 大好き神族! 愛してる!




 まさか、こんなとんとん拍子で、かわいいモフモフのパートナーができるなんて思ってもみなかった! 嬉しすぎて、アンズちゃんを高い高いしてしまった。




 気分は某動物映画の名シーンだ。




「アルバさん、神秘の泉はどこにあるんですか!」




「村から少し出た所にある森の奥だよ。一本道だし、この辺りはモンスターも出ないから、安全に行けると思うよ」




「おお! 案外近い」




「半日もあれば帰ってこれると思うよ。けど、カヤはこの辺りの地理はさっぱりだと思うし……アンズ、一緒に行ってやってくれ」




『あなた触り方優しいし……分かった! アタシが案内する!』




「よろしくね、アンズちゃん! 私はカヤだよ」




『カヤちゃん! よろしくね!』




 なんだこの可愛すぎる生き物は……!




 思わず、鼻を押さえて確認。




 ……うん。鼻血は出てない。




「それじゃ、朝食を食べたら、向かうといいよ」




「分かりました!」




 こうして、私は可愛いペット……げふん。従族を貰うために、アンズちゃんと神秘の泉に行くことになったのだった。




 どんな子が私のパートナーになってくれるんだろ。楽しみだな~。







 てくてくとアンズと共に森を歩いて数時間。




 私は、完全にバテてた。ちなみに、前を歩いてるアンズちゃんは元気いっぱい。今もちょうちょを追っかけてる。




「ちょ、アンズちゃん待って……」




 ぜえぜえと荒い息を吐きながら、近くにあった切り株に座り込む。




 アルバさんが言ったとおり確かに一本道なんだけど、行けど行けど泉らしきものは見えてこない。




 確か、往復で半日かかるんだっけ? その時点でかなり距離があると気付け自分。




 しかも、日ごろの運動不足が顕著に出てるしね。やっぱり運動大事。文明の乗り物にばっかり頼ってるだけじゃダメだわ。




「アンズちゃん、神秘の泉まであとどれくらいなの?」




『う~ん。3時間くらいかな?』




「嘘でしょ……」




 この時点でかなりの時間歩いてきてるのに、まさかのまだまだ先。既に心が折れそうだ。


「アンズちゃん、もふもふ充電させて~」




『撫でてくれるの! 良いよ!』




「わ~い!」




 近付いてきたアンズちゃんをもふもふと撫でる。




けどダメだ。心は満たされたけど、体が悲鳴を上げてる。これは無理に歩いても、足を痛めるだけだろうな。そうなったら、余計辛くなる。




なら、休息をとるのが一番でしょ!




「休憩がてらどっかに寝っ転がりたいな」




 生まれも育ちも都会だったせいか、田舎ならではの体験できなかったんだよね。草原に転がるっていうのも、体験してみたい一つだったりする。




 だって、ドラマとかアニメとかのシーンですごく気持ちよさそうに寝っ転がってるの羨ましかったんだもの! 一回でいいから服が汚れるのも気にしないで、ごろ~んって寝っ転がってみたかったの!




「よし! 草原探しに行こう!」




 完全に休憩モードで立ち上がろうとしたら、




『カヤちゃん、なにか来る……!』




「え?」




 アンズちゃんが私の腕の中から飛び出し、毛を逆立てた。ヴヴっと唸って完全な戦闘態勢だ。




 直後、近くの草木が大きく揺れる。それと同時に感じたのは、なんともいえない威圧感。




 なんだろう、すごく肌がびりびりする。




 思わず近くにあった太めの枝を掴み、構える。ささくれ立った木の肌が手のひらに突き刺さって痛かったけど、それどころじゃない。




「剣道は選択授業でしかやったことないけど、何とかなるはず!」




 痛む手のひらを無視して、強く枝を掴み直す。




「よし! どんとこいや‼」




 社畜パワー見せてやる!




『カヤちゃんこのにおい、竜族だよ!』




「え!」




 刹那、草木が盛大に揺れた。




 そして、私の前に現れたのは……。




 鮮やかに輝く虹色だった。





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