属種
ゆっくりと扉を開けると、柔らかな日差しと新鮮な空気が私を出迎えてくれた。呼吸するたびに不純物がない酸素が体に染み渡る。
「ん~! 気持ちいい」
思わず深呼吸。体に溜まっていた疲れが洗い流されていくみたいで、とても心地よい。
春みたいに暖かいし、なんか田舎の温泉地に来た気分になるな~。
るんるんでアルバさんの家に向かっていると、な~な~声が聞こえてきた。
「ん?」
そっちを見ると、ヒツジウシがてこてことこっちに何匹か向かってきていた。相変わらずのもふもふに、ダッシュで抱き付きに行く。
「あ~! もふもふ! ふわふわ! おはよう! 最高!」
『さいこう~な~』
もっふもふの毛に顔を埋める。もうこれだけで私は生きていける!
「おはよう。カヤ」
「おふぁようふぉざいまふ。アルフォさん」
「幸せそうだね」
「それはもう! 朝から新鮮な空気吸えて、こんなにもふもふを堪能できれば幸せに決まってるじゃないですか!」
「随分と嬉しい言葉を言ってくれるな。そうだ! ちょうどヒツジのミルクを絞り終えたところなんだ。一緒に朝食にしない?」
「いいんですか!」
「ぜひとも。この子たちの出すミルクはとても美味しいからね」
「やったー!」
そんなこんなで、私はアルバさんと一緒に食事をすることになった。
フワフワのパン。少し塩辛いけど、新鮮な野菜の味がするスープ。シャキシャキのサラダ。濃厚なのにのど越しがとっても良いミルク。
入社してからはいつもは忙しいせいか、寝るのを優先して朝ごはんはまともに食べてなかったからな。こんなに豪勢なのは久々だ。
「いっただきま~す!」
「えっと……それは?」
「あ、私の国の食事前の挨拶です」
「へ~! そうなんだ!」
アルバさんは興味深々なのか、目を輝かせていた。そんなに珍しいことなのかな?
「この世界には食事の挨拶とかないんですか?」
「う~ん。ないかな。あえてあげるとしたら、年に二回、食事を司る神族を称えてお祭りするよ?」
「神族?」
「この世界の一番上位の種族で、神域と呼ばれている場所に住んでいる高貴な方たちのことだね。俺たち人間族の信仰を力に変えて、この世界を守ってくださっている」
つまり、神様みたいな存在かな。
そんなすごいのがいるとは。さすが別世界。規模がまったく違う。
「他にも別の種族とかいるんですか?」
「あとは、竜族、モンスター。あと従族だね」
「従族!」
そうだ! すっかり忘れた!
「アルバさん! 実は――」
私は、今日みた夢の事をアルバさんに話した。
アルバさんは最初、少し驚いていたけど、途中でなにか分かったらしく、合点の言った表情をしていた。
「多分、お告げの神族だね。本来は従族を与えて下さる神族が直接来られるらしいんだけど、ここの神族は色々あって、別の神族に頼むんだよね。俺の時もそうだったよ」
「その従族? ってなんですか?」
じゅうぞくっていうくらいだから、獣かなにかだと思ったんだけど、神族からもらうって聞くと、なにかの道具なのかもしれない。正直、名前だけだと見当がつかない。
「人間族は、魔法が使えないからね」
「え?」
アルバさんの言葉に、私は目を見開いた。
竜とか神様とか言ってたから、魔法が普通にあって使えるのかと思ってたけど、どうやら違うらしい。
「昔、神族は自分たちの力を確立するために、人間族との間に自分たちを未来永劫信仰する代わりに、魔法を使えるパートナーとして、従族を18歳以上の全ての人間族に作ってくださるという盟約を交わしたんだ。その盟約は転移者関係なしに果たされるらしいよ」
「そうなんですね」
そんな盟約があるとは……。
けどそう考えると、私も従族と協力すれば魔法を使えるってことじゃない!
「それは嬉しい……。けど、従族ってどんな子なんだろ?」
かわいい子ならいいけど、虫とか爬虫類とかそういうのだったら勘弁して欲しいな。
もふもふは好きだけど、もぞもぞやうぞうぞは苦手なんだよね。
「従族は可愛い子ばっかりだよ。俺の子もふわふわでかわいいよ」
「ふわふわ!」
思わず声が上擦ってしまった。
ふわふわって事は鳥かなにかなのかな? いや、連れて歩けるんだから、もしかしたら小動物かもしれない。
どちらにせよ、可愛い子は大歓迎!
「で、そのアルバさんの従族はどこにいるんですか? どこどこ?」
「今はヒツジウシたちを小屋に誘導をしてくれてるよ。もうそろそろ終わるだろうから、こっちにくるかな」
「おお! 楽しみ!」
どんな子だろ? どんな子だろ!
内心わくわくでご飯を食べていると、扉の方からかたんという音がした。
お!
来たか! 来たのか⁉
『アルバ~! こっちの仕事、終わったよ~!』
背後から聞こえたのは少し高い女の子の声。
(きったぁぁぁぁぁあああああ‼‼‼‼)
勢い良く体を声の方向へと向ける。
自分でも驚くくらいの勢いで変わった視線に映ったのは……。
『だぁれこの人?』
綺麗な目をした、もっふもっふの子犬だった。