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ハロー異世界




 人生なにがあるか分からない。




 そんなことを言ったのは、誰だったかーー。






「でも、これは……さすがにないわ」




「なー」



「なー」



 目の前に、もふもふ。横に、ももふもふ。


 まわりが全部、もふもふもふもふ。


 そもそも、もふもふで動けない。



 これはまさに……!




「もふもふパラダイスだぁぁぁあああああ‼」



 やったー! と私は目の前のもふもふに飛びついた。



 え? 私がなんでこんな場所にいるかって?



 実は……、私も分かってない!!


「えっと……たしか私って」


 薄らボケている記憶を必死に掘り起こす。


 えっと確か。


 私は――。



◇◇◇



 ――数時間前。


 ――朝。


 皆仕事に向かう為、駅の階段を登っていく。その顔は様々だけど、どこかけだるそうな表情の人が多い。


 そんな中、私は人の波を逆走するように歩いていた。


 理由はとてつもなく簡単。


「今、帰りなんだよね……」


 一人で呟いてがっくりと肩を落とした。


 そう、私、狭山華夜(さやまかや)はただいま絶賛帰宅途中。


 ちなみに今の私の状態は、

「会社で三徹してきたよ♪ なのにテンション高いし、変に元気だぜ!」

という感じ。


 ん? 世の中ではそういう元気を空元気という?


 ……聞こえないね。そんな言葉。


「まさか、学生時代オールで遊び歩いた体力がここで役に立つとは思ってもみなかった」


 徹夜のせいで、化粧がぼろぼろになっているであろう顔を押さえながらため息を吐き出す。


「入社当初はこんなになると思ってなかったんだけどな……」


 社会なんてなにも知らなかった私は、会社とプライベートを両立して、充実したOL生活を夢見ていた。夢見ていたとも。


 だけど箱を開けて見えた現実は、それはもう悲惨としか言いようがなかった。


 残業当たり前。終わりの見えない業務。サービス残業、祝日出勤喜んで! 


 それならまだいい。まだまだ続きがある。


 お局様のいびり。上司のセクハラ。同期の蹴落とし合い。新人への業務の押し付け。トイレに行けば必ず聞こえる陰口。


 正直、ブラックの中でもブラックだと思った。


 お陰様で私はこの数か月で、体力も精神力も会社と言う怪物に吸われ続ける生活を送っている。


「温泉行きた~い。もふもふした~い!」


 かつかつとパンプスのかかとでアスファルトを蹴りながら、私は叫んだ。


 家に帰ったら、ご飯食べて寝る生活しか最近していない。

 

 温泉でゆったりと疲れを癒したいし、趣味のお菓子作りだってしたい。


 あとは、もっふもっふの毛のある動物に囲まれたい! ここ重要、テストに出るくらい凄く重要!


 犬、ネコ、ウサギ、モルモット! 最近人気になっているチンチラでもいい!


 とにかく、もふもふ、ふかふかな動物の毛を撫でたい! 抱きしめたい! 顔を埋めたい‼


「お、ネコだ!」


 もふもふな動物に思いをはせていたせいか、車道を横切るネコがいるのが見えた。


 しましま模様のキジトラと呼ばれている毛色のネコだ。


 生後三ヶ月か四ヶ月か。どちらにせよ、もふもふでかわいいのは変わりない。今すぐ抱きしめてもふもふしたい!


「……あれ?」


 そこで私は気付いた。


 気付いてしまった。


「あのネコ、ケガしてない?」


 よくよく見て見ると……やっぱりそうだ。後ろ脚の先、少し赤くなってる。


 なにかで切ってしまったのだろうか?


 首輪をしてないみたいだし、周りに母猫もいないから少し心配だ。


 なんて思ってたらーー。



 ――ブッブー!



「え……トラック?」


 向こうからトラックが走ってきた。しかもあの速度、絶対ネコに気付いてない!


「ネコちゃん! はやくこっちこっち!」


 叫ぶけど、足をケガしてるし上手く歩けないのか足取りはかなりゆっくり。


 このままだと、ネコはトラックにぶつかって……。


「させるかぁ!」


 私はパンプスを脱ぎ捨てて、車道に飛び出した。


 色々と頭の片隅では思った。


 けど、今の私が思っていたのは。



 ネコを助けたい。それだけだった。



「うっっっりゃぁぁぁぁぁあああああああ!」


 私は子猫を抱きかかえると、車道の外へと投げた。


 見事に着地してする子猫。


 よし、と思った瞬間――。


「お嬢ちゃん!!」



 ――キキーッ!



「……え?」



 誰かの叫ぶ声と共に、すさまじいブレーキ音。


 そうだ私、ネコを助ける為に飛び出したんだった。


 横を向く。そこには迫りくるトラック。驚いた表情を浮かべた運転手さんの顔がスローモーションのように見えて、朝の通勤の邪魔して悪かったなーなんて現実逃避のみたいな事を思ってしまった。



「もっと色んな動物をもふもふしたかったな……」



 あ、けど最後に子猫触れたから結果オーライか。


 ――キキッーー‼


「っ!」


 これで、私の人生は終わりか。



 そう思って目を瞑った、数秒後。



「な~!」



「……ん?」



 予想した衝撃は無く、耳がとらえたのは、聞いたことのない動物の声だった――。





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