ひとくいおばけのルーニ
ルーニは ひとくい ひとくいおばけ
ひとを たべない ひとくいおばけ
どうして ひとを たべないの?
それはね……
ルーニは ひとくい ひとくいおばけ
ルーニは ひとくい ひとくいおばけ
ひとを たべちゃう わるおばけ
きょうも おなかが すいてきた
きょうは どいつを たべようか
としよりは すじばって かたい
おとなは くさみが つよい
どうせ くうなら こどもが いい
こどもは やわらかい
こどもは いいにおい
ねしずまった よるの まち
にだんベッドの したのほう
そっと ちかづき おくちを あーん
かげも のこさず いただきます
なきむしの こは ちょうどいい しおかげん
わがままな こは てきどな はごたえ
そして
さみしくて きずついた こは
ほんのり にがくて
じょうひんな あじ
きょうも まんぷく ごちそうさん
きょうも ひとりで ごちそうさん
ルーニは ひとくい ひとくいおばけ
ひとを たべちゃう わるおばけ
きょうも おなかが すいてきた
だけど なんだか すこしだけ
たべに いくのが めんどうだ
ひとりで ごはんは めんどうだ
きょうは このまま ねてようか
いやいや たべなきゃ しんじゃうよ
よっこらしょって きあいを いれて
よるの やみへと まぎれこむ
そらに まんまる おつきさま
あかりの きえた こどもべや
よなかに おきてる わるいこに
ルーニは そっと ちかづいた
きみは だれ?
とつぜん こえを かけられて
ルーニは びっくり たちどまる
ボクは ルーニ
ひとくいおばけさ
いまから キミを たべにきた
ルーニの ことばに ふりかえり
おとこのこは じっと みつめる
そして やわらかく わらって
みじかく ひとこと どうぞ と いった
こわがらないの?
と ルーニが きくと
こわいも つらいも
もう よく わからないんだ
つきあかりが てらす おとこのこは
やせっぽちで よごれていて
からだの あちこちに あざなんか あって
ルーニは こころのなかで
こどものくせに あんまり おいしくなさそうだって
そう おもった けれど
ほかを さがすと よがあける
それじゃ えんりょなく いただきます
うつろな ひとみの おとこのこは
ほんのり にがくて
きれいな あじがして
どうしてか ルーニは
うまれて はじめて ないた
なみだは ゆかに ぽたりと おちて
つきあかりに てらされ
きらきらと かがやいた
きらきらは どんどんと ふえていって
やがて おとこのこの すがたに なった
ぼくは おばけに なっちゃたのかな?
おとこのこが ふしぎそうに そういって
どうやら そうみたいだ
ルーニが ぽかんとした かおで こたえたよ
おとこのこは おだやかに ほほえんで
ルーニに てを さしだして いったんだ
ぼくと ともだちになってくれる?
どもだちって なんなのか
ずっと ひとりで いきてきた ルーニは
しらなかった けれど
まんまる おつきさまの
あおじろい ひかりが てらす へやで
ルーニは おとこのこの てを とった
ともだちは たのしい
ともだちは うれしい
ともだちは いっしょに いて
きょう ねむっても
あした また あえる
ルーニは うまれて はじめて
ひとりじゃ なかったよ
ルーニと おとこのこは
まいにち まいにち いっしょにいて
むしとり かけっこ かくれんぼ
まいにち たのしく あそんだよ
たのしく あそぶと おなかが すくね
だから ルーニは
ぱくぱく ぱくぱく
きょうも しあわせ ごはんが うまい
だから ルーニは きづかなかった
となりに いる おとこのこの
えがおが くもって いることに
だけど ルーニは きづかなきゃいけなかった
ともだちが そっと きずついていた ことに
あさ めがさめて
ルーニは ひとりぼっち
おとこのこが どこにも いない
あれ? どうしたのかな?
かくれんぼでも してるのかな?
ルーニは おとこのこを さがしたよ
おうちの なかを いっしょうけんめい
おうちの まわりを いっしょうけんめい
だって いつでも いっしょに いたよ
いなくなっちゃう はずが ない
だけど どこにも みあたらない
さがしまわって ひがくれて
ほとほと つかれた ベッドの わきに
しろい ふうとう みつけたよ
ルーニは てがみを とりだして
くいいるように みつめたよ
そこには やさしい おとこのこの もじで
こう かいてあったんだ
ぼくの いちばん たいせつな ともだちへ
きみと であって ずいぶん じかんが すぎましたね
きみが さいしょに ぼくを たべると いったとき
ぼくは だれかの やくにたつことが できると しって
ほんとうに うれしかった
ぼくが ともだちになってって いったとき
きみが てを とってくれたことが
ほんとうに うれしかった
きみと いっしょに いると
うれしくて たのしくて
ほんとうに しあわせだったよ
でも ぼくは ここを でていこうと おもいます
かってなことを いって ごめんなさい
だけど
きみと いっしょに いて
しあわせだと おもえば おもうほど
ぼくは きみに たべられる ひとたちの
こわさや つらさを かんじてしまうんだ
ぼくは きみが
ひとを たべないと しんでしまうことを しっているよ
だけど
ぼくは やっぱり にんげんだったから
みんなの くるしさや かなしさを
みないふり することも できないんだよ
ごめんね ルーニ
さよなら ルーニ
ぼくは ほんとうに きみのことが
だいすき だったんだよ
しらなかった
しらなかった
ボクが ひとを たべるとき
キミが こころを いためていた なんて
すこしも きづいて いなかった
どうして いってくれなかったの?
キミが かなしいこと なんて
ボクは ひとつも したくないのに
ルーニは てがみを にぎりしめ
おうちの そとへと とびだした
なみだは あふれて あふれて くるよ
もう とりかえしは つかないけれど
ルーニは ひとくい ひとくいおばけ
ひとを たべない ひとくいおばけ
どうして ひとを たべないの?
それはね……
きづいてしまったから
なんだってさ
きょうも ルーニは なきながら
せかいの どこかを さがしてる
おとこのこに ごめんなさいって いうために
もう ひとを たべないよって
だから もういちど いっしょに いてって
つたえるために
ねぇ
ルーニは おとこのこに あえると おもう?
それとも あうことが できないまま
おなかが すいて しんじゃうかな?
ルーニは ひとくい ひとくいおばけ
ひとを たべない ひとくいおばけ
きみは ばかだ
と おとこのこは いって
そうかな
って ルーニは こたえたよ
うすく めを ひらいて
かすかに ほほえんで
でも また あえた
じめんに ねてる ルーニの てをとって
おとこのこは ないた
ごめんよ ルーニ
ごめん
ごめんなさい
ルーニは おかしそうに わらって
へん だな
あやまる のは ボクの ほう なのに
おとこのこの なみだは
ルーニの からだに ぽたり と おちて
ルーニの からだは きらきらと ひかる
ありがとう
ごめんなさい
かぼそい こえが あいずのように
ルーニの からだが きらきらに とけて
きらきらは スゥっと そらに のぼっていって
まんまる おつきさまに すいこまれて きえた
おとこのこは じめんに ひざを ついたまま
まんまる おつきさまを みあげたよ
いつまでも いつまでも