第5章☆10歳VS40歳
「宝くじは買ったけれど、俺たちはこの時間軸に定住地がないから当選金は受け取れません」
40歳の浩次さんが言った。
「じゃあどうやってタイムマシンとタイムコーポレーションを創るの?」
私は心配になって聞いた。
「この時間軸の俺は、両親が離婚して別居中で、おじきに預けられてるんです。そのおじきが頼りの綱です」
青いガラスコーティングのタイムマシンで数週間移動する。
40歳の浩次さんは紳士的で、私に触れるのをためらっているようだった。
「ここの路地を曲がって…いやあ懐かしい!」
浩次さんは昔住んでいた家にたどり着くと感無量だった。
ゴンゴン。
外から誰かが叩いた。タイムマシンのガラスを上げてドアを開くと、小学生の男の子が立っていた。
「おじさんたち、何?」
「幹二さんいる?お客だっておじさん呼んできて」
「うん」
その小学生は、すぐに踵を返して広い庭から縁側を上がっておじさんー幹二さんーを連れてきた。
「やあ!幹二さん。お会いできて光栄です」
浩次さんは幹二さんの手をとって、ぶんぶか上下に振った。
「俺は三十年後からやってきた浩次です。これがタイムマシン」
「浩次?」
幹二さんは小学生の男の子と40歳の浩次さんを代わる代わる見比べた。
「馬鹿なこと言わんでください!」
幹二さんは受け入れられなくて怒鳴った。
「今、借金がお有りでしょう?全額返せますよ」
「なんで…」
幹二さんはおののいて尻込みした。
「高額当選の宝くじです。借金返す代わりに、俺らのお願い聞いてもらえますか?」
「お願いの内容によるよ」
小学生のー10歳のー浩次さんが幹二さんの代わりに答えた。
凛と張った声。存在感半端ない。
「大学の研究所のつてをたどってこのタイムマシンを複製して造ってもらいたい。それから、タイムコーポレーションという会社を立ち上げたいんだ」
「すまんがよーく考えさせてくれ」
幹二さんが言った。
「3日後に来ます」
そう言って浩次さんはタイムマシンに乗り込むと、私と一緒に3日移動した。
「来た!ほんとに現れた!」
10歳の浩次さんが歓喜の声を上げた。
仮眠取らせてくださいと言って家に上げてもらっていた。
幹二さんは宝くじの換金に出かけて、柱時計の振り子の音だけが響いていた。
「ただいまー」
10歳の浩次さんが学校から帰ってきた。
「お煮しめ作ってるけど食べて行く?」
私がそう言うと、10歳の浩次さんはちゃぶ台についた。
「お姉さん、料理好きなの?」
「おばちゃん!はある程度しか作れません。でも心を込めて作ったから食べてください」
「ほーい!」
「またすぐ出かけるの?少年合唱団?」
「うん!…なんで知ってるの?」
「他の人に聞いたから」
「ふうん」
ちょっと箸を休めて何か考える10歳の浩次さん。
「お姉さん…」
「お、ば、ちゃ、ん」
「おばちゃん、俺の2番目のお母さんにしてやっていいよ!」
「えっ?」
そういえば、両親と離れて暮らしてるんだっけ。
「こんがきゃ。調子こくんじゃねー」
40歳の浩次さんが10歳の浩次さんを捕まえて頭をぐりぐりやった。
「うわーん」
「ちょっと!何やってるの!」
私は10歳の浩次さんをかばって抱きしめた。
「やっぱりいい。やっぱりお母さんじゃなくて、お嫁さんにする!」
なんて…かわいいのっ!
私は10歳の浩次さんに頬ずりした。
「わー!」
10歳の浩次さんは真っ赤な顔して家を飛び出して行った。
40歳の浩次さんは、じとーっと私達を見ていた。