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第4章☆タイムマシン

「十年前に俺も行きます!」

浩次さんがそう言った。

「ちょうど、少年合唱団に入ってた頃だ。冴子さんに天使の歌声を聞かせてあげますよ」

「気持ちは嬉しいけれど、浩次さんの歴史がこんがらがるんじゃないかと不安だわ」

「俺。冴子さんとここで別れるのは嫌です」

「それは…」

私は口ごもった。私も、浩次さんと離れたくなかったのだ。

「タイムマシン、今ここに一台しかないですよ。お二人乗れないことはないんですが、ちょっと狭いかも」

「構いません」

浩次さんが断言した。

緑色のガラス張りのタイムマシンを見せられて、初見の浩次さんは操縦法をおっかなびっくりで習った。二十年後の浩次さんが呼び戻したタイムマシンは確か青いガラス張りだったから、別のタイムマシンということになる。私は横から操縦法をおさらいした。幸い造りは一緒のようだった。

座席に浩次さんが座って、その前に私が座る。身体が密着するんだけど!恥ずかしいよおおお!

「それじゃあ、出発します」

浩次さんがそう言ってタイムマシンを起動させた。

ぶううううううううんんんん。


「冴子さん」

「はい」

「冴子さんの髪の匂い、いい匂いがする」

「やだ」

後ろから、抱きすくまれる。

浩次さんの手が、私の胸をまさぐった。

「駄目!」

手をはねのけて、私はどうしようもない自己嫌悪に陥った。

「俺、冴子さんを抱きたい」

「!!!」

わたわたしてると、顔を振り向かされてキスされた。

私は…抵抗するのをやめた。


ゴンゴン。

誰かが緑色のガラスを向こうから叩いている。

私は我に返って服装をただすと、クッタリとしている浩次さんを起こした。

浩次さんは白い半袖Tシャツとジーンズ姿だから、すぐ対応できた。

「誰だ!」

「俺だ」

40歳の浩次さんだった。

「お前ら、なんかあっただろう!」

無い!なんにもない!私は叫びそうだった。

「あった」

20歳の浩次さんが言った。私は穴があったら入りたいと思った。

「ちくしょう!間に合うように駆けつけたつもりだったのに!」

40歳の浩次さんが地団駄を踏んだ。

知ってるんだ!40歳の浩次さんは20歳を経験してるから!なんてことだろう!

「おい、お前!今回はしょうがない。だが、今すぐ十年後の自分の時間軸へ戻りやがれ」

「嫌だね」

「メジャーな歌手になる夢は?他の出会うはずの女たちは?」

「…」

20歳の浩次さんの気持ちがぐらつくのがわかった。

「でも俺は…」

20歳の浩次さんは私をぎゅっとつかんで離さなかった。

「知ってるよ!愛おしいんだろう?愛してるんだろう?でも、俺がなぜ40歳まで冴子さんに会いに行かなかったのかわかるか?」

「なんでだ?」

「冴子さんの人生があるからさ!俺には俺の人生。40になって初めて俺と冴子さんの人生が一緒になるのが許されるんだ!…第一、今のお前に何ができる?」

「俺は…」

「冴子さんのことが本気なのはわかる。だからこそ、40の俺がここにいる」

40歳の浩次さんは堂々としていた。

「帰れ!そして片時も忘れるな」

20歳の浩次さんは私をつかんでいた手をのろのろとはずした。

「さあ、冴子さん、こっちへ」

40歳の浩次さんが呼んでいる。

私は、20歳の浩次さんにそっとキスすると、緑色のタイムマシンから降りた。

自然と涙が流れて、止まらなかった。

逡巡の後、20歳の浩次さんを乗せたタイムマシンはその場からかき消えてしまった。

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