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嘘を洗い流す洗濯機

作者: 片隅千尋

 何よりも嘘を憎む科学者が、世紀の大発明をした。

 「嘘を洗い流す洗濯機」である。

 この洗濯機に放り込んでスイッチをONすると、虚飾にまみれた姿が洗い流され、真の実体が露わになるのだ。


 例を挙げると……。

 偽物のブランド時計を入れてスイッチONすると、ブランドロゴの文字列が崩れた。

 何の効果もないパチモンの健康器具を入れてスイッチONすると、原材料のプラスチックと鉄の塊に戻った。

 名画のイミテーションを入れてスイッチONすると、キャンバスと絵の具に戻った。


 その変化は、あたかも厚化粧が落ちてスッピンが現れるようだった。

 しかもこの洗濯機の対象は、モノだけに留まらなかった。

 人間に対しても有効なのである。

 むしろ人間を入れた時にこそ、真価を発揮した。


 整形女を入れると、元のブサイクな容貌に戻った。

 浮気した男を入れると、浮気を隠すため吐いた嘘のネタバラシをぺらぺらと全てしゃべった。

 遺産目当てで金持ちの老人と結婚した女は、その目論見を老人の目の前で白状した。

 賄賂で成り上がった政治家は、全ての財産を寄付して無一文になった。

 裏口入学で免許を取った医者は、経営していた病院を他人に譲った。

 同僚にミスをなすりつけて昇進した経営者は、所有物を投げ捨ててホームレスになった。


 偉そうにふんぞり返った「勝ち組」たちが、その嘘を暴かれて零落していくのを見て庶民は喝采を送った。

 その絶大な効果のため、「嘘を洗い流す洗濯機」は、進学や就職の面接や、結婚相手の選別にも使用されるようになった。

 しかし、嘘を吐いたことのない人間などいない。

 洗濯機の犠牲となる者が増えるに連れ、嘘を吐いて得たものを強制的に失わせてしまう「嘘を洗い流す洗濯機」に、人々は恐怖するようになった。


 社会から嘘が減っていくことに、「嘘を洗い流す洗濯機」を発明した科学者は満足した。

 彼の母親は嘘つきの整形女だった。

 彼の父親は嘘つきの学歴詐称男だった。

 見栄を張り嘘をつき平気で他人を陥れる両親のせいで小さな頃から苦しんできた彼は、嘘を何よりも憎むようになり、この洗濯機の発明に至ったのだ。

 彼の復讐は、両親をこの洗濯機にぶち込むことで完成する。

 すでに両親を拘束し、目の前に座らせてあった。二人は恐怖で震えている。

 全身嘘にまみれた両親のことだ。この洗濯機に入ればどんなひどい状態になるか、発明者である彼ですら想像もつかない。

 しかし、と彼は考えた。

 ただ洗濯機にぶち込むだけでは面白くない。自分の正しさ、清廉潔白なところを両親に見せつけてやるというのはどうだろうか。

 そうだ、それでこそ復讐だ、と彼は思った。

 彼自身は一切嘘をついたことがなかった。それが彼の誇りであり、両親への反抗でもあった。

 両親の目の前で自らこの洗濯機に入り、全く変わらぬ姿を見せつけて身の潔白を証明してみせてから、この二人を洗濯機にぶち込むのだ。

「おまえら、見ていろ」

 彼は高笑いをしながら洗濯機に入り、見せつけるように自らスイッチを押した。


 規定の時間が経ち、洗濯機は停止したが、科学者は出てこない。

 科学者の両親が恐る恐る洗濯機をのぞき込むと、中には何もなかった。

 嘘を全く吐いたことのない科学者が、なぜか洗濯機に身体を丸ごと消されてしまったのだ。

 しばらくして、母親は思いついたように夫に言った。

「あ、そう言えばこの子、アンタの子じゃなかったわ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自業自得。 予想された未来、結末。 クスッとなりました。
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