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甘ったるい非難を

作者: 小春 佳代

檸檬 絵郎様の第七回かっぽうミニ企画に参加させていただいた時のものです。

お題「以下の絵から着想したショートストーリーまたは詩(ただし、本文中に『愛してる』という語を必ず入れること)」

挿絵(By みてみん)

「芽」

彼女はキッチンに入るなり、少し前屈みになって床に置かれた小さなダンボールの中を覗き見ていた。そして、くるりと振り向くなり次はこう言ったんだ。

「めっ」

それは僕への甘ったるい非難。

想いが通じあってまだ間もない、とろけるような彼女の可愛い叱り方。


「野菜がだめになる前に私を呼んでって言ったでしょ?」

鼻をくすぐるスパイスの香りの中、例の芽が少しばかり出ていた玉ねぎは形を変えてそこに溶け込んでいる。僕と彼女はローテーブルを挟んでカレーライスを食べていた。

「だめになってた?」

僕は反省もせずに、笑む。

「ぎりぎりセーフだよ」

彼女も反省を促さず、笑む。

空間に満ちるは、とろとろとした蜂蜜のような(だいだい)色。選曲をまかせていたAIスピーカーから、恋の歌が流れ出した。ロックバンドのヴォーカルがかすれた声で繰り返す。

愛してる、と。

僕はこの流れにのって言ってしまおうかと、僅かに口を開く。

愛してる。

愛してる。

愛してる。

愛してた、のに。


「ねぇ、どうしていつも何も言ってくれなかったの?」

二人の最後に、小雨の中で呟く彼女。

野菜がだめになりそうな時、

愛してるとどんなに心で繰り返した時、

いつも僕は何も言えず。

永遠に去り行く彼女の後ろ姿にさえ、望みをかけてしまう。

お願いだからもう一度、

くるりと振り返って。

僕へ。

あの、甘ったるい非難を。

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― 新着の感想 ―
[良い点] せつない。めっ
2019/10/05 07:50 退会済み
管理
[一言] 素直になれなかったんですね。 彼女よりも自分のプライドを優先してしまったのかな? 言えない僕を分かって! という甘さもあったのでしょう。 短い中に甘い生活から別れまで。 お見事。
[良い点] 『愛してた、のに。』や『いつも僕は何も言えず。』といった表現が好みでした。 懐かしい記憶、といった感じがして、独特の味わいがあり良かったです。
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