6.新たなる一歩
そして、早春の気持ちよく晴れたある日。
デートの時はラフな服装の彼。会社ではピシッとスーツを着こなし、クールビズでもネクタイをきっちり締める彼。
今日は、華やかな正装。
やっぱり素敵。背が高くてハンサムで、厳しいけど優しくって。そして、私の前ではまるで子どもみたいな彼。
そんな事を思っていると、彼はじっと私の目を見つめてきた。
「ねえ、さくら」
「なあに?」
「なんで昔の彼と別れたの?」
「え? ……なんて言った?」
私が目を丸くすると、彼はしまったと言うように頭をかいた。
「この前から、一体何を気にしてるのよ、修一くんてば」
私、そんなに変な態度取ってたかしらって、違う意味で心配になって来て、思わず聞き返す。
だって、彼は私の元カレを気にするけど、私は彼の元カノなんて、申し訳ないけど、まったく気にならない。
何しろ彼は今現在、私一筋だし、そもそも、私はあまり人に興味がない。昔ほど無関心ではないけど、誰かの過去を詮索して、言っても戻らない時間を追いかけようなんて思いもしない。
何より、当然私は彼一筋だ。それが伝わっていないのなら、そっちの方が大問題な気がする。
「……ごめん。さくらがあんまり可愛いから、こんな可愛いさくらを、どうしてそいつは手放したんだろうって思ったら、つい」
決まり悪そうに言う彼。
「元カレ、実家に帰ったの、就職して。で、自然消滅」
「え? そんなくらいで?」
「プロポーズされたけど、私、二十歳前だよ? OK出来るわけないじゃん」
ウソは嫌いだし、まあいっかと素直に話してしまう。この後で、なんでなんでとしつこく聞かれるくらいなら、今話してしまった方がいい。
「プ、プロポーズされてたんだ!!」
彼の目が大きく見開かれた。
言葉にしないけど、口が「プラトニックだったって言ってたじゃないか」って動いた気がする。ほっといてよ。なぜか、そういう事になったのよ。
「って言うか、なんで、今、そんな話するの、修一くん」
「いや、だから、さくらが可愛すぎて……」
私はぷうっとほっぺたを膨らませる。
「今する話じゃないと思います、尾形課長」
「……さくらー」
私が懐かしい呼び名で彼を呼ぶと、彼は情けない顔をして、滝本って懐かしい名字じゃなく、いつものように私の下の名を呼んだ。
少し離れたところで、私たちのやり取りを微笑みながら見守っていた女性職員がスッと私たちの方に近づいて来た。
「そろそろお時間です。ご準備はよろしいですか?」
心からの笑顔が気持ちいい。
彼が私の手をキュッと握った。
「はい」
私と彼の声が重なる。
私は手に持った大きなカサブランカのブーケを握り直し、彼は私の方に肘を尽き出した。
私がその腕にそっと掴まるのを見届けると、女性職員が笑顔で告げる。
「それでは、ドアを開けますね」
両開きの重厚なドアが2人の職員によって左右に押し開かれた。
『新郎新婦入場。
盛大な拍手でお迎えください!!』
いかにも楽しげな司会の声。
会場内には、華やかなクラッシック曲。
私たち2人をここぞとばかりに照らすスポットライト。
目の前に広がる数々の円卓と笑顔の人々。
「さ、行くか」
「うん」
それこそ盛大な拍手に呼ばれて、私たちは最初の一歩を踏み出した。
私たちが選んだのは人前婚。
永遠の愛を誓うのは、これからだ。
(完)




