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5.ラブホテル

 彼が私の部屋に来てから数日後のデート。

 彼は助手席に座った私に、ニッコリと笑って聞いてきた。


「で? さくらの昔の男って、どんなヤツ?」

「え? 何の話?」

「この前、食事の時間になっちゃって聞きそびれた話だけど、まさか忘れてないよね?」


 そこまで言われて、ようやく思い出す。

 と言うか、まだそんな事を覚えていたんだと、聞かれた事よりもそっちに驚いた。


「……ああ! ダメだ!」


 なんて答えようかと思っていると、彼がいきなり大きな声を出した。


「な、何が?」

「さくらを俺のものだって、実感しまくって安心したくなった!」

「え? 修一くん?」

「水族館、中止!」

「ええ!? イルカショーはぁ?」

「それは、また今度」


 彼はいたずらっ子のようににんまり笑うと、次の交差点でおもむろに車をUターンさせた。

 一体どこに行くのかと思っていると、彼は来た道を5分ほど戻り、ちょっと派手な白亜のお城めいた建物へと車を進める。


「修一くん? ここって……」

「そう。ラブホテル」


 車ごと敷地内に入る。

 明るい地上から、そのまま真っ暗な駐車場に入って、目が慣れない。もちろん電灯もあるのだけど、とにかく薄暗い。

 外から見たら、いかにも~な感じのラブホテル。小綺麗ではあったけど、シティホテルとはそもそもが違ってる。


 黙って観察していたら、彼が意外そうに言ってきた。


「もしかして来た事ある、さくら?」

「まさか!」

「そう? 元カレとは?」

「プ、プラトニックだったもん!」

「へえ?」


 知ってるくせに。だって、私の初めての相手は彼なのだから。

 一通り私をからかうと先に車を降りて、彼は助手席のドアを開けてくれた。


「どうぞ、お姫様」


 うっかりと出された手を取ると、彼は手の甲にキスをするふりをして、私の人差し指を口に含んだ。


「ヤダッ、もうっ!」


 こんなところで何するのよ、と怖い声を出すと彼は笑いながら私の腰を抱き、車から降ろしてくれた。

 何だか妙にスキンシップが多い。普段、外ではそんなでもないのに。やっぱり、場所が場所だから気持ちもオープンになるもの?


 キョロキョロしている内に彼が部屋を選び、鍵を受け取り、狭苦しいエレベーターに乗った。

 学生時代の友人たちがラブホテルの事を話していたのを思い出す。どこどこはいいとか、どんな事をしただとか。その頃は、まるで興味もなく、ただ上の空で相づちだけを打っていた。


 彼にエスコートされて狭い玄関を入ると、フローリングの木目に腰壁と小花柄の壁紙。思いの外、明るい雰囲気。と言うか、妙にラブリー、可愛らしすぎるくらいの部屋だった。


「へえ、ラブホテルの中って、こんな風になってるんだ~!」


 部屋の真ん中には大きな天蓋付きベッド。なるほどね。外見を思い浮かべる。確かにお城風だったわ。


 寝室からつながったところにあるガラス張りのバスルームには何と猫足付きのバスタブが置かれていた。バスタブはこの部屋にぴったりだけど、ガラス張りってのは天蓋付きベッドにはちょっと似合わない。もっと現代風なスタイリッシュな部屋向きだよね?


 って言うか、これって、わざわざ見えるようにガラス張りなんだよね? 見えるって、何が? 思わず心の中でひとりツッコミ。

 ……みんな、ここでアレをするんだよね、そう思うとはしゃぐ自分が何だか恥ずかしくなってしまう。


 そんな私の何を観察していたのか、彼は面白そうに言った。


「ふーん。本当に入った事なかったんだ?」


 彼が何気なく言ったその言葉にカチンと来て、楽しかった気分は一気に吹っ飛んでしまった。

 今入って来たばかりの部屋から出ようときびすを返すと、彼が慌てて後ろから抱きしめてきた。


「もう、修一くんなんて知らないんだからっ!」

「ごめんっ! さくらがあんまり可愛いから……。この間まで、さくらに彼氏がいた事があるなんて、想像もしなかったから、俺、どうにも焦ってるみたいで……」


 だからって、その言い方はないじゃない? 正真正銘、私のバージンを奪ったのは修一くんなんだから。それとも、それまで疑ってるの? っていうか、あれって疑えるもの?

 そのまま、彼は私を抱きしめる腕に力を入れて、私の耳元で「許して、さくら」と切ない声でささやいた。


「なんで彼氏がいなかったと思ったの?」


 ドアの方を向いたままに聞いてみる。

 彼の焦る気持ちは実は嬉しい。愛されてるんだなって気がするから。でも、やっぱり何か悔しいんだ。確かに初めては修一くんだけど、私にだって彼氏がいたっておかしくないじゃない? 私だって、修一くんには当然、過去何人も彼女がいたに違いないって思ってるもの。


「K女って、不純異性交遊厳しいじゃん」

「え?」


 そこ? って言うか、そんな有名だったんだ?

 確かに、不純異性交遊ってのには本当に厳しくて、若い男の人の運転する車の助手席に乗っているのがバレただけで生徒指導室に呼び出しってくらいだった。

 友だちが引っつかまったのをヤキモキしながら教室で待ったあの日が懐かしく思い出された。


「でも、大学は自由だったよ」


 そう言うと、彼が私を抱きしめながら、くすくすと笑った。


「大学生で彼氏がいて、バージンってありえねーだろ?」


 私が固まったのを見て、彼は私を抱きしめる手をゆるめ、前側に回り込んできた。


「え? 何? もしかして、付き合ってたのって、大学生ん時!?」

「大学生って言うか、高校生の終わりから」


 彼が「まじかよ」って呟いた。

 何よ、失礼ね。ほっといてよ。そう思ったけど、大学生で彼氏がいてプラトニックなままってのが、一般的じゃないってのは私にも分かる。実のところ、さすがの私も普通じゃないよねとは思っていた。


 でも、お互いに初めてのお付き合い、お互いに超奥手だったんだもの。奥手同士のお付き合いだと、そういう事もあるでしょう? ってね、私、他に経験ないから分からないんだけどさ。


 だけど、何人もの女性とお付き合いした(に違いない)経験豊富な彼とは、割とスムーズに事に至ったもの。やっぱりどちらかが積極的じゃないと、こう言うのって進まないものじゃない? なんて事をほっぺた膨らませながら考えていると、彼は私の髪を片手にもてあそびながら聞いてきた。


「ね、相手、何歳?」

「六つ上の大学院生」

「うっわ。何それ」

「ん? なあに?」

「もう社会人になろうかと言う年で、女子高生と付き合うか!? 犯罪だろ!?」


 それって、ただのヤキモチ? それとも、一般論?

 思わず、まじまじと見返すと、彼はばつが悪そうに目をそらせた。


「もしかして、四十前で二十四歳のさくらと付き合ってる方が犯罪?」


 急にシュンとして私を見る彼がやけに可愛く感じられて、愛しかった。


「どっちも社会人だもん。いいじゃない?」

「だよな?」


 チュッとほっぺにキスをすると、彼は急に元気になって、私を軽々と抱き上げた。

 思わぬ浮遊感に「キャッ」と小さな声を上げる。


「しながら、話そう?」


 す、するって何を!?

 と言いたいけど、彼が何を言っているかは私にもちゃんと分かっている。だから、もちろん聞き返すなんてできない。


 って言うか、ここってラブホテルだよね。みんな、ホントにここで、エッチなことしてるんだよね!? このベッドの上で!? やけに生々しい映像が頭に浮かんで、私の頬はカーッと赤くなった。


 だって、これまで、その手のコトするのは彼の部屋か旅先のホテルだったんだもの。今さらながらに動揺したって仕方ないよね?

 何とか落ち着こうとしていると、彼はまた面白そうに私を見た。


「さくら、いやらしいこと想像したでしょ?」


 にやにや笑って、彼はベッドに私を下ろし、そのまま覆い被さるようにのしかかってきた。

 ベッドがキシむ音がした。

 もう、やだっ。そんな事、イチイチ言わないでよっ。


「違うの?」


 彼が私の唇を奪う。それから、答えを催促するかのように「さくら?」と私の名を呼んだ。

 私の身体の横に突いた彼の長い腕。何を思ってか嬉しそうに細められた黒い瞳。


 彼の顔はどんどん近づいて来た。大好きな笑顔に間近で「ほら、言ってごらん」と言われて、逆らえる訳がない。


「……違わない」


 私が囁くような声で応えると、彼の手はじらすように私のブラウスをたくし上げた。

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