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43 オッドアイじゃないよ、レッドアイ!

 採集の冒険から帰ってきた私たちは、ヴィーの家へと帰ってきた。

 しばらくお茶で休憩した後、さっそく錬金部屋へ向かうことになった。


「もうちょっと休憩したら?」


 私の希望を込めた提案は、すぐに却下された。


「いそがないと日が暮れちゃうから」

「疲れたなら休んでいていいぞ」


 ヴィーとラウルスは持ち帰った錬金術の素材を錬金部屋にせっせと運び込んでいる。

 この世界の人たちって、基本体力がすごいんだよね。私も体力だけはある方だと思ってたけど、二人には負けているのを痛感する。地下鉄やバスを利用することに慣れすぎちゃっていたみたいだ。この身体の持ち主であるアンナレーナも、食堂の看板娘だからそこまで体力があるわけじゃないし。ちょっとは鍛えておこうかな。今後も冒険しに行くもんね、きっと。


 私とラウルスは、ヴィーが錬金術を行う間に他の材料を整理することになった。乾燥させた枝の葉を千切るのが、私の役目だ。

 ヴィーは部屋の中央を占領する、大きな錬金窯に火を入れ、次々に材料を加えていった。


「治癒の雫……中和剤……世界樹の雫……それと……」


 ブツブツ呟きながら錬金を行うヴィーは、まるで科学者か魔法使いのようだ。

 治癒の雫というのは怪我や病が治る薬だ。このゲーム世界に来たばかりの頃、ラウルスの舌のやけどがすぐに治ったのを見てびっくりしたっけ。すごい薬だと思うけど、錬金術師なら作れて当然のものらしく、比較的どの店でも売っている。

 世界樹の雫というのは朝採ってきた森の木の雫のことだ。まだ名前の無い素材だったので、私の提案で決めた。こんな身近に世界樹があるはずないけど、気分よ、気分。


 ボフッ


 錬金窯から大きな煙が出た。驚いた私たちは手を止めて立ち上がった。


「な、何だ!?」

「ヴィー、大丈夫!?」

「……失敗したわ」


 落胆した様子のヴィーを慰めようとした瞬間、ヴィーは机に駆け寄ると天秤はかりを持ち出し、またもやブツブツと考え始めた。そして計算式らしきものをものすごいスピードで書き始める。その様子には鬼気迫るとか一心不乱とか、そういう言葉がピッタリで、普段のふんわりした美少女の面影はない。


「配分を変えれば……それとも……」


 失敗から学ぶこともあるから、成功するためには失敗も必要だって、どこかの偉い人が言ってたっけ。

 その後、何度か失敗が続いたけれど、ヴィーは決して諦めなかった。


「ヴィー、すごいね」

「ああ、大した奴だよ」


 千切り終わった葉を大きな壺に詰めながら、私は感心していた。錬金術もすごいと思うけど、彼女の一番の才能は諦めないところだと思う。私だったら、絶対途中で心が折れちゃうもの。


 どのくらい経っただろう。ヴィーが錬金窯に材料を入れると、部屋中を明るくするほどの光が溢れだした。

 

「出来たわ……!」

「本当? 見せて見せて!」


 私は錬金窯の中を覗きこんだ。

 いつの間にか火は消え、熱もなくなっている。さすがはゲーム世界。

 ヴィーが錬金窯の底に溜まっていた液体を透明な瓶に詰める。液体はラメ入りのように光を反射してキラキラしていた。


「これは何て言うの?」

「名前はまだないの。私が作り出したものだから」


 すごい。まさかの新作。

 聞くと“治癒の雫”のスペシャルバージョンらしい。“治癒の雫”は怪我が治るだけだけど、この新作は怪我だけじゃなくて体力も何もかも元気な状態に戻るのだとか。なにそれ、すごい。


「アンナ、名前を付けて」

「えー、またぁ? 名付けが苦手だって知ってるくせに」

「じゃあ、俺が……」

「アンナがいーの! ラウルスは、いやっ!」


 ヴィーがほっぺたを膨らませる。

 ぎゅんっ!

 心臓が破けそうなほどときめいた。危ない危ない。ヴィーの可愛らしさは、もはや凶器だ。

 拒絶されたラウルスは、「何だよ」と不貞腐れている。ああ、これは本気じゃなくて、不貞腐れてるポーズだなというのが分かる。

 まあ、曲がりなりにも彼女ですからね、私。ああ、自分で言って恥ずかしくなってしまった。

 また恥じらいモードに突入したら困ってしまうかな、名付けに集中しよう。


 うーん、まず治癒の雫がすごいからなあ。


「じゃあ……“全快の雫”でどう?」


 絞り出した名前は、我ながらセンスがないものだった。だけど二人は名案だとでも言うように拍手しはじめた。


「素敵!」

「分かりやすくていいな!」


 えーと。ここまで手放しで褒められると逆に恥ずかしいんですけど。これってお世辞? それとももしかして、このゲームはモブの接待ゲームなの? そんな馬鹿な。

 照れくさくて窓の外を見ると、日が暮れてきていた。


「私、そろそろ帰って食堂手伝わなきゃ」

「今日のお礼に、今度は私が食堂を手伝うわ!」

「俺も。ついでに夕飯も食べたいし」


 二人が立ち上がり、一緒に山猫亭に帰ることになった。


 山猫亭はお客さんで溢れかえっていた。


「ああ、アンナ! 早く手伝っておくれ!」


 両手でたくさんのお酒を運びながら、カティが叫ぶ。


「おばさん、手伝うよ」


 その手からお酒を受け取って客席に向かうのは、ラウルス。


「こっちだ、アンナ! 料理があがったぞ!」

「それは私が」


 厨房のパウルの声に反応して、ヴィーが料理を運んでくれる。

 わー、ありがたい。ヴィーは人見知りが激しいのに、頑張ってくれている。


 厨房へ向かうと、フライパンや鍋に向かって格闘するパウルと、食器を洗うベアがいた。

 ベアは見た目は10歳くらいの可愛い子供だけど、その正体はホムンクルスだ。製作者(お父さん)が亡くなって野良ホムンクルスになっていたところを、私たちが保護し、今はラウルスと暮らしながら山猫亭のお手伝いをしてくれている。


「お父さんただいま。ベア、お手伝いありがとう」

「ベア、ガンバッテル。ダケド、オサラ、ヘラナイ」

「私も手伝うから、一緒に頑張ろうね」


 無表情ながら悲しそうに言うベアの頭を撫でる。


「アンナ、そこにある刻んだトマトを取ってくれ」

「はーい。あ、痛っ!」


 木のボウルに入ってある皮を剥いて刻んであるトマトを手にすると、ちょうどお酒(エール)を取りに戻ってきていたカティとぶつかってしまった。

 そのせいで、私の持っていたボウルからトマトがこぼれ、注いだばかりのお酒の中に入ってしまう。


「ああ、せっかく注いだのに、無駄になったね」

「ちょっと待って、捨てないで!」


 私は流しにお酒を捨てようとするカティの手を止めた。

 もったいない、もったいない。お酒だってタダじゃないんだから。


「捨てるなって……このまま飲むつもりかい?」

「まーまー。ちょっと考えがあるから。お父さん、このトマトちょっと分けてもらうねー」


 パウルの了解を取り、トマトをザルで簡単に裏ごししてお酒に混ぜる。自分で作る時はトマトジュースとお酒を半々で作るんだけど、初めての人にも飲みやすいように今日は4:6くらいの割合で作ってみよう。

 すると黄色かったお酒が赤く染まる。レッド・アイという名前のカクテルだ。本当はピルスナービールと混ぜるのが普通なんだけど、このお酒と混ぜても大丈夫だろう。マドラー代わりのスプーンで味見したところ、ラガービールよりも苦味が少なくてジュースみたいになった。そこにレモンスライスを添えればオシャレなBARで出てくるカクテルみたいになった。

 裏ごしして残った実はお父さんの作っている料理に混ぜてっ、と。


 新しく注いだお酒をカティに持って行ってもらい、私は食堂のお客さんに呼びかけた。


「山猫亭新メニュー、トマトを使ったお酒だよ~。限定一杯! いる人~?」

「はーい、私がもらいまーす!」


 するとすぐに手が上がった。見覚えがある、黒髪ロングの美人さん。


「わ、セレス! 来てたんだ?」

「はい。ようやくたどり着けまして~」


 セレスティーア、通称セレスは以前ダチョウのモンスターから助けてもらったことがある女騎士だ。キリリとした美人なのに方向音痴の天然さんというキャラである。


「ちょうど良かった、味見してみて」


 お酒に弱いセレスでも、これなら飲めるはず。セレスはお礼を言ってレッド・アイをこくこくと飲んだ。


「わあ、とっても飲みやすいですね! お酒とは思えません。トマトってそんなに食べたことないですけど、ちっとも青臭くなくて……レモンを絞るとまた違った感じになって美味しいです」


 頬をピンク色に染めて微笑むセレス。

 美人の宣伝効果は絶大で、その後レッドアイが飛ぶように売れたのは、言うまでもない。


★今日の錬金術★全快の雫★

・癒しの雫

・中和剤

・世界樹の雫


★今日のレシピ★レッドアイ★

・トマトジュース

・おエール


ラガービールを使うのが一般的だけど十分に美味しいお酒ができたよ!

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