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40 想い出の料理と、大切な選択

「昨日はエルヴィーラの家に泊まったそうだな」


 お水のおかわりを注ぐと、昼食を済ませたラウルスが思い出したように言った。


「うん! とっても楽しかったよ」


 笑顔で答えると、ラウルスが一瞬寂し気な顔を見せた。

 仲間に入りたかったんだろうなー。


 でも女子会だし。

 ラウルスも女装してきたら仲間に入れてあげても良かったんだけどね。

 

 あ、ダメだ。

 ラウルスが女装してるところをまた想像しちゃったよ。


「……何でニヤニヤしてるんだ?」

「ううん、何でもなーい!」


 こんなこと言ったら、落ち込んじゃうから、黙っておこう。


 それはそうと、ヴィーにばかりお礼をすることを考えていたけれど、ラウルスにもたくさんお世話になってるよね。

 一緒に採集へ行ってくれたり、モンスターから助けてくれたりさ。


 でも、ラウルスだけじゃなく、セレスやジークハルドさんにもたくさん助けてもらってるなあ。

 仕事だの何だので結構忙しそうなのにさ。

 私の料理を気に入ってくれて、いつも山猫亭に来てくれるお客さんもいっぱいいるし……。


「いいこと思い付いた!」


 私は胸の前で両手をパチンと鳴らした。

 皆まとめてお礼しちゃうってどうかな?

 パーティーを開いて、皆にそれぞれ好きな料理を注文してもらうの! 


「いいこと? 何なんだ?」

「だめだめ! まだ、秘密!」


 私はラウルスをぐいぐいと押して追い出しにかかった。

 ラウルスは何か言いたげにしつつも、お勘定を済ませて山猫亭を後にする。


 よし、そうと決まればさっそく準備をしなければ!

 私は後片付けを済ませると山猫亭を飛び出した。


「あら、アンナ。どこへ行くの?」

「ヴィー! 偶然だね!」


 角を曲がると、ヴィーに遭遇した。

 手にした籠からはいくつかの野菜が覗いている。

 買い物の帰りのようだ。


 ヴィーは私の顔を見上げて、くすりと笑った。


「何だか楽しそうなことを思い付いた顔をしているわね」

「分かる~? 本当はまだ内緒にしておいきたいんだけど、ヴィーには教えちゃおうかな! あのね……」


 私は計画を打ち明けた。


「とっても面白そうね。私もお手伝いしたいんだけど、いいかしら?」

「もちろん! でも、何をしてもらおうかな? 料理は私が作るし……」

「私を誰だと思っているの? 料理以外にも手伝えることはあるわ。任せておいて!」


 はい、ヴィーは最高で最愛の錬金術師様です。


 目を輝かせたヴィーは、さっそく準備に取り掛かると言って元来た道を引き返していった。

 一体どんなものを作ってくれるんだろう?

 楽しみにしつつ、私は目的の場所へと再び駆けだした。



 そしてパーティーの当日。

 山猫亭には入りきらないくらいの招待客が来てくれた。

 テーブルには突き出しというにはボリュームがありすぎる料理をすでに作って並べている。


「皆さん、本日は山猫亭に足を運んでいただき、誠にありがとうございます! 日頃の感謝を込めたささやかな催しですが、食べて、飲んで、大いに楽しんじゃってください! では、かんぱーい!」


 皆が持っていたカップを高々と上げ、それぞれの飲み物を呷る。

 皆、用意しておいた料理にさっそく手を伸ばし出した。


 おでんは大鍋のまま一つのテーブルの上にでんっと置き、脇に小皿を置いた。

 自分で好きな具を取ってもらうスタイルだ。


 鶏飯(けいはん)やセレスのお祖母さんが持参してくれた竜の魚の琉球も山盛りで作り、好きなだけご飯を盛って乗せてもらうことにした。

 この世界では店側がよそうのがスタンダードなので、選べるのが楽しいらしく、これらの料理の前にはちょっとした人だかりが出来ている。


 さらに、今日はお客さんのリクエストにお応えして、好きな料理を作ることにした。

 でも、すでにだしている料理を片付けるのに精いっぱいなようで、まだ注文は入っていない。


 私はその間に、特にお世話になっている人たちにお礼をして回ることにした。

 まずはラウルスの膝の上に座ってから揚げを食べているベアのところに行く。


「ベアにプレゼントがあるの」

「ナニナニ?」

「待ってて、今持ってくる!」


 奥から持ってきたのは、子供用の椅子だ。前面が階段っぽくなっているので、自分で登ることが出来る。

 近所のおじさんにやり方を教わりながら作ったものだ。


「ワーイワーイ」


 ベアはとっても喜んでくれた。

 脚の長さが微妙に違うのか、少しだけガタついている。


 敏感なベアがそれに気付いていない訳はないけれど、ベアは何も言わずに椅子に乗ったり下りたりしてはしゃいでいる。


「良かったな、ベア」

「(こくこく)」


 良かった、喜んでくれて。

 いつも大人用の椅子で食べにくそうだったからね。


「ヴィーには、これね」


 私はカウンターに置いてあった包みを差し出した。


「私にもあるの? この間もらったばかりなのに」


 ヴィーが包みを開けると、中からは刺繍を施したクッションカバーが出てくる。

 これも近所のおばさんに習いながら下手だけどひと針ひと針心を込めて刺したものだ。


「この前は料理を作っただけだもん、お礼にならないよ。それに、こんな素敵な物まで作ってもらっちゃったし、またお礼に何かあげなきゃいけなくなっちゃった」


 私はそう言って食堂内を見回した。


 ヴィーが錬金術で作ってくれたのは、天井から吊るすタイプの灯りだ。

 白くて丸いキャンドルホルダーの中の灯りは、風も吹いていないのに明るくなったり、弱くなったりして、まるでホタルの光のように幻想的なムードを醸し出している。


 この灯りを生かすため、今は昼間だけど黒いカーテンをしっかりと閉めている。


 ヴィーは気に入ってくれて、クッションカバーを抱きしめながら喜んでくれた。


「セレスとお祖母さんには、刺繍入りのハンカチね」

「わあ、私たちにまで! ありがとうございます!」

「ありがとう、私の好きな柄さね」


 色違いの花の刺繍入りハンカチを渡すと、こちらも大変喜んでくれた。


「ジークハルドさんとラウルスには、お守りね」


 私は小さなお守りを二人に手渡した。

 ジークハルドさんには青、ラウルスは赤、こちらも色違いだ。


「お守り?」

「ほら、二人とも冒険に行った先で危ない目に遭うこともあるでしょ? そんな危険から守ってくれますようにっていう、まあ一種の願掛けのようなものだよ」

「なるほど。離れていても君の心が一緒だと思うと心強いね」


 ジークハルドさんはお守りにキスをした。

 そんな仕草がとても似合っている。


 目の前でやられるとどうしていいのか分かんないくらい照れちゃうけど、喜んでくれているみたいで嬉しいな。


「俺、これを肌身離さず持ってる!」


 ラウルスは感激したみたいでお守りを両手で握りしめた。

 うん? もしかしてラウルス、泣いてない? 目尻が光ってるよ?


 両親にもお揃いの鍋掴みをプレゼントし終わった私は、皆に料理のリクエストを募ることにした。


「何か食べたいものはある? メニューにない料理でも作るよ!」


 するとラウルスとジークハルドさんがさっそく挙手をする。


「俺はじゃがいもを使った料理が食べたいな。初めて作ってもらった料理も、じゃがいもだったし」


 そうそう、確かポテトチップスと揚げじゃがバターを作ったんだったよね。

 じゃがいも料理っていえば、一番メジャーなあの料理を作っていなかったな。


 そう、ポテトフライ!


「私は卵料理がいいかな」


 ポテトフライが軽食だから、卵料理はがっつり系にしようかな。

 親子丼なんてどうだろう? ちょうど鳥肉も今日届いたところだし。


「セレスは?」

「私は甘いものがいいので、皆さんのを作った後でいいです」

「了解!」


 じゃあ、先にポテトフライと親子丼を作りますか!


 私は厨房へ向かい、気合を入れる。


 まずは親子丼の方から。


 小鍋にスライスしたタマネギ、醤油、砂糖、酒、出汁を入れ、中火で数分煮る。

 そこに一口大に切った鳥肉を加え、更に煮て鳥肉に火を通す。

 

 溶いた卵の3分の2くらいを回し掛け、弱火にし、蓋をして卵にも火を通す。

 残っていた卵を回し掛け、完全に火が通る前に火から下ろす。


 あとは、あつあつのご飯の上に乗せれば完成だ。


 次は、ポテトフライ。


 じゃがいもの皮を剥き、細切りにする。

 太めに切るとホクホク感が増し、細めにするとカリカリ感が増すんだよね。

 今回はちょうど中間くらいにしておこうか。


 切ったじゃがいもを水にさらし、水を切って布巾で水分を取る。

 塩コショウをして、小麦粉をまんべんなくまぶし、きつね色になるまで揚げる。


 塩コショウをかけたのは、前にデパートの北海道フェアで食べたポテトフライが塩コショウ味で美味しかったからだ。

 それまでは塩でしか食べたことがなかったから、新鮮だったな。

 最初にポテトチップスを作ってあげた時は塩味だったから、今回は塩コショウにして味も変えてみたってワケ。


「お待たせー! カリカリポテトフライと、卵トロトロ親子丼の出来上がりでーすっ!」


 セレスやヴィーたちも食べるよねってことで、これらも大量に作り、両親に手伝ってもらって湯気が立ち上る料理を運ぶ。

 ポテトフライは大皿に盛って、好きなだけ取ってもらうスタイルだ。


「まだ料理が行き渡ってない人、いるー?」

「俺とジークがまだだ」


 ラウルスが手を上げる。

 何と、リクエストした張本人たちの元に行っていないとは、大きな失態だ。

 私は残った二つの親子丼を持って二人の元へ急いだ。


「ごめんなさい、お待たせです!」

「全然待ってないよ。君が料理をする姿に見惚れていたからね」


 ジークハルドさんがにこにこしながら言うと、和やかだったはずの二人は、何故か口論を始めた。


「ジーク、さっきから何なんだ。アンナが迷惑してるからやめろって言っただろ」

「私はアンナから迷惑だとは言われていない」

「アンナがそんなこと言う訳ないだろ」

「私の方がアンナを愛している」

「あ、愛っ!? 今はそんなことを言っているんじゃなくて!」


 話が飛躍したジークハルドさんに、ラウルスが徐々にヒートアップしている。

 それを見たセレスが、親子丼を持ったまま立ち尽くす私に向かって爆弾を投下した。


「もう、この際だからどっちが好きなのか、決めちゃったらどうですか? アンナさん」


 セレス! お願いだから空気読んで!

 そこは今、超デリケートな話題なんだよ!!


「そうだ、今すぐここで決めてもらおう。アンナ、私とラウルス、どっちを選ぶ?」

「ちょ、ジーク、お前!」

「いい機会じゃないか。それとも、自信が無いのかい? ラウルス」


 その言葉にラウルスがぐっと黙る。


 そして皆が一斉に私を見た。

 さっきまで騒いでいた常連客たちも、いつの間にかこちらに注目している。


 こ……ここは冗談では切り抜けられない感じだな……。


 逃げ腰になった私は、待てよ、と思い直した。

 この楽しい雰囲気が崩れてしまうのが怖くて、今まで明言を避けてきたけれど、いつかは答えを出さなきゃいけないよね。

 ……たとえそのせいで、今とは違う関係性になったとしても。


 私は目を閉じ、深呼吸をした。


 そして目を開くと、料理のお皿をラウルスの前に置いた。


「私には、まだ、恋愛ってものがどんなものなのか、想像しか出来ないけど」


 ここで一呼吸置き、二人を交互に見た。

 そして最後にラウルスに目を留め、言った。


「私が一番に料理を食べてもらいたい男の人は、ラウルスなんだよね。……ごめんなさい、ジークハルドさん」


 ジークハルドさんはその青い瞳で私を見上げ、微笑んだ。


「それが君の出した答えなんだね」

「……本当に、ごめんなさい」

「いや、謝らなくていい。こればかりは仕方のないことだから」


 ジークハルドさんは、どうしようか逡巡していた私の手から、親子丼を受け取る。


「でも、諦めないよ。私は困難なことほど燃える質なんだ」


 そしてウインクを一つすると、親子丼を豪快に食べ始めた。


「うん、やはりアンナの作った料理は世界で一番美味しいよ。また冒険の合間に食べに来るとしよう。今度は客として、ね。いいかい?」


 私はもちろんですという返事の代わりに、何度も頷いた。


 親子丼をポテトフライを食べ終えたジークハルドさんは、颯爽と去っていった。


 残されたのは、呆然としたまま料理に手を付けていないラウルスだ。

 せっかくの料理が冷めていく。


「ラウルス、食べないの?」

「アンナ……。さっきのは、本当なのか? ジークを遠ざけるためじゃなくて?」


 ラウルスは、突然の展開に疑心暗鬼になっているようだ。

 そうだよね、そんな素振り、一度も見せたことないもんね。


「私も自分の気持ちを自覚したばかりで、戸惑ってるから仕方ないと思う。だけど、ラウルスのこと、とっても大切に思ってるよ」

「そ、それはつまり?」


 ラウルスは首を傾げている。


「だから、うん」

「アンナ。うん、じゃ分からない」


 あーもう。どうして分かってくれないの!


「だーかーらー! ラウルスのことが好きって言ってるの!」


 最終的には怒鳴るように告白してしまう。

 ラウルスが悪いんだからね。察しが悪すぎるでしょ。


 するとラウルスの顔は一瞬で真っ赤になった。顔だけじゃなく、耳や首まで赤く染まっている。

 勢い良く立ち上がったせいで、ラウルスの椅子がガタンッと音を立てて倒れた。


「お、俺も、アンナのことが好きだ! 大好きだ!!」


 知ってる。いや、知ってなくても、その態度を見れば一発で分かっちゃうよ。

 ああ、ラウルスってば、本当の本当に私のことを好きでいてくれてるんだな。


 何だろう。

 胸がサイダーを飲んだ時みたいにシュワシュワしてる。


 そうか。

 私、嬉しいんだ。


 ラウルスが私のことを好きで。

 私がラウルスのことを好きで。


 そして思いが通じ合って。両想いってこんなに嬉しいことだったんだね。


 もう、生まれてきた世界が違うとか、どうでも良くなっちゃった。

 だって、今は同じ世界で生きているんだもの。


 温かな気持ちでラウルスを見上げていると、何故かラウルスは表情を引き締めてキョロキョロしはじめた。


「アンナのご両親に結婚の許可を――」


 いやいや、展開早いってば。


「さっきからここにいるけどね」

リャ()ウルス君。ずびっ、むしゅめ()は、ぐしゅっ、まだ嫁にはやりゃ()んよっっ」


 厨房から覗いていたらしいカティとパウルが姿を現した。


 ちょっと、お父さん。

 柱にしがみつきながら号泣しないでよ。

 あーあ、鼻水垂れてるし、柱に爪が食い込んじゃってるよ。


「ご結婚おめでとうございます!」


 だから、セレス。空気読んでってば!


「ラウルス、アンナト、ケッコン? アンナガ、ベアノ、オカアサン?」

「そうねー。そうなるわねー」


 ちょっと、ヴィー!

 適当に話を合わせるんじゃない!


 皆気が早いんだから。

 ついこの前気持ちを自覚したばかりなんだから、結婚なんて当分先だよ?

 現実社会でもあと10年は結婚しないと思ってたし。


 でも……いつかはそうなっても、いいかな。

 なんて思っている自分がいたりなんかして。


 私、死んじゃったけど、このゲーム世界に転生出来て良かったなあ。

 幸せだなあ。


 その時、入口のドアが開いた。新しくお客さんが来たようだ。


「いらっしゃいませー」


 私はお客さんに向かって、最高の笑顔を贈った。


「ようこそ、山猫亭へ!」



■今日の錬金術


●フライドポテト

・じゃがいも

・小麦粉

・塩コショウ


●親子丼

・鳥肉

・タマネギ

・ご飯

・卵

・醤油

・砂糖

・酒

・出汁


新メニューも大好評! これも定番料理になりそうだね!


■今日のラウルス君

ついに両想い! で感無量のヘヴン状態!

また続きを書いたら投稿しますが、ひとまず第一部完とさせていただきます。ありがとうございました!

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