私にできること
《サイド:常盤沙織》
「どうかしたの?」
「え?あ、うん。ちょっと、ね」
どう答えるべきでしょうか?
特別何かがあるというわけではないのですが、
少しだけ悩んでいるのは確かです。
あ、いえ、悩みではないですね。
迷いというべきでしょうか。
このまま私も翔子と一緒に行くべきかどうか?という部分で少し迷っていました。
もちろん一緒に行動すること自体に不満はありません。
むしろ、病み上がりの翔子の支えになりたいと思っています。
ですが、本当にそれでいいのでしょうか?
結果は敗北ですけど、
翔子は天城君と全力で戦っています。
そして北条君は今日一日を天城君と共に行動しています。
だけど私は違います。
私は天城君と何の接点もありません。
少なくとも、理事長に報告すべきことは何もないのです。
だから、考えていたのです。
天城君との関わりを持っていない私に話すべきことは何もありません。
ですが翔子と北条君の話はそれなりに時間がかかると思います。
だとすれば。
その報告が終わるまでの間。
私は何もすることがありません。
ただ黙って話を聞いているだけの傍観者でしかないんです。
その扱いが嫌だとか、そういうことではないのですが、
ただもっと他に出来ることがあると思うんです。
今の私に出来ること。
もしくは今の私にしかできないこと。
それはちゃんとあると思うんです。
そう考えたことで、二人とは別行動をする事にしました。
「ごめんなさい。理事長室に向かうのなら私は用がないからやめておくわ。一応、他にもやりたい事があるから」
できるだけ丁寧に断ってから、二人と離れることにします。
「ごめんね、翔子」
「あ、ううん。沙織も忙しいだろうし、またあとでお話ししよ」
「ええ、そうね。またあとでね」
見送ってくれる翔子に微笑みを返してから、
北条君にも会釈をして二人から離れました。
そして学園内にいるはずの『ある人物』と会う為に目的地もわからないまま捜索を開始する事にしました。
ですがどこに行けばいいのかが分かりません。
どこに行けば会えるのでしょうか?
目的の人物がどこにいるのか私は何も知りません。
そもそも普段の行動さえ知らないのですから、勘を働かせることもできないのです。
どうしよう…。
どこに行けばいいのかが全く分からないのです。
だけど。
それでもその人物に会う必要があると考えていました。
私が捜している人物。
それは翔子の敵であり、恩人でもある天城君です。
彼を探して、ちゃんと話をしたいと思ったのです。
…と言っても。
会話の目的は翔子に何をしたのかを聞くためではありません。
ただ純粋にお礼を言いたかっただけです。
翔子を救ってくれた彼に『ありがとう』と言いたかったのです。
ただその一言が言いたくて、
あてもないまま学園内をさまよっていました。
「どこに行けば会えるのかしら?」
何度呟いてみても全く見当がつきません。
当てずっぽうで動くには学園内は広すぎます。
何か情報があればいいのですが、
これまでに翔子から聞いた話では、
検定会場以外の場所では図書室にいる事が多いそうです。
それ以外では食堂か寮のどちらからしいのですが、
まだ夕方にもなっていない時間帯を考えると
どちらも可能性は低いように思えます。
とりあえずは図書室でしょうか?
噂話程度の情報を頼りに図書室に向かってみたのですが、
残念ながら図書室にいないようです。
知り合いの図書委員にも話を聞いて確認をとってみたのですが、
今日は見かけていないという話でした。
困ったわね…。
どこに行けばいいのでしょうか?
中庭や検定会場等々。
彼の向かいそうな場所を幾つか探してみたのですが。
どこにもいないようでした。
今日は諦めるしかないのでしょうか?
自力で探すのを断念して情報を集めることから始めるべきかもしれません。
適当にさまよっているだけでは見つかりませんので、
翔子の仲間である諜報部門の人達に情報を集めてもらってから捜索を再開したほうが早いかもしれないと悩んでいると…
後回しにしていた食堂の入口付近に彼はいました。
たまたま食堂の前を通りかかた時に。
偶然、彼の姿を捉える事が出来たんです。
やっと見つけました。
足早に駆け寄ります。
本当なら直接呼びかけたいところですが、
お互いに何も知らない間柄ですので下手に警戒されることを恐れて近づくことを優先しました。
急いで彼の後を追いかけたことで徐々に縮まる二人の距離はホンの数秒で10メートルを切ったと思います。
食堂から出て来た彼は図書室方面に向かっているように思えました。
どこを捜してもなかなか見付からなかったのですが、
今回は運良く合流できそうです。
あと数メートルで追いつきます。
彼がどうして食堂にいたのか?
その理由は知りません。
あとで聞いた話だと、
翔子との試合に備えて会場で待機し続けていたことで昼食を食べていなかったそうです。
ですが私はその事を知らなかったために食堂を探す事を考慮していませんでした。
だから最後まで気付かなかったのです。
すでに時刻は午後4時を過ぎているので、
どちらかと言えば夕食に近い時間ではありますが、
彼からすればようやくお昼を食べ終えたところだったのでしょう。
その事実を知らないまま急いで彼に駆け寄っていくと、
私の気配に気付いた彼は静かに足を止めて後方から駆け寄る私に振り返ってくれました。




