心の闇
《サイド:近藤悠理》
…は、はは…っ。
何よ、それ?
そんなの理由になってないじゃない。
ただ何となく気になったから?
ただ何となく私が無理をしてるように見えたから?
ただそれだけの理由で、私を好きになったって言うの?
何よそれ…。
ホントに…
馬鹿じゃないの?
そんな理由で命をかける必要なんてないじゃない?
そんな理由で私を守る必要なんてないじゃない?
それなのに…。
どうしてそんなに優しくしてくれるのよっ!
「私には、理解できないわ。」
今まで誰かに優しくしてもらったことなんてないから。
だから慎吾の考えが私には理解できなかったのよ。
なのに…ね。
それなのに…っ!
慎吾の言葉のせいで、私の心は大きく揺れ動いてたのよ。
これは、何?
この想いは何?
分からない。
どんな言葉で表現すればいいのかが分からない。
だけど。
だけどこれがきっと。
…幸せっていうのかな?
今まで誰にも知られたくなくて、ずっと隠してきた想い。
今まで誰にも嫌われたくなくて、ずっと言えずにいた想い。
それなのに…。
それなのに…っ!
私の苦しみに…
慎吾は気付いてくれていたのね。
それがすごく嬉しかった。
私の心の闇を感じても、
それでも好きって言ってくれる気持ちがすごく嬉しかったのよ。
この気持ちが愛されてるっていう感じなのかな?
はっきりとは言い切れないけれど。
たぶん、そうなんだと思う。
…だけど。
どうなのかな?
私にはわからないわ。
誰かに必要とされたことがないから。
誰かに愛された記憶がないから。
だからわからないの。
愛って何?
愛情って、本当にあるの?
分からない。
あるのかもしれないし、ないのかもしれない。
「だけど、もしも本当にあるのなら…。」
愛情という言葉が実在してるのなら。
もっと早く欲しかったと思う。
慎吾がどうこうとかじゃなくて。
もっと根本的な部分として。
私のことを何も知らない誰かじゃなくて。
私のことを知ってる身近な人からの愛が欲しかったの。
…お父さん。
…お母さん。
…お兄ちゃん。
…お祖父ちゃん。
他の誰よりも一番身近にいる家族から愛されたかったのよ。
私の心を苦しめてる闇は、
ただただ純粋に『家族への想い』だから。
お父さんやお母さんに、
愛してるって言ってもらいたかっただけなの。
そして出来ることなら、
生まれてきてくれて良かったって思ってもらいたかったの。
ただそれだけなのよ。
何よりも純粋に『愛』を求めたこと。
それが私の願いなの。
なのにね。
その願いは叶わなかったわ。
私には与えてもらえなかったのよ。
『魔術師としての実力がない』
ただそれだけの理由で家族からの愛を失ったの。
必死に勉強もしたし。
必死に努力もしたわ。
だけど、結果が出せなかったのよ。
そのせいで…。
私は家族から見放されてしまったの。
どれだけ望んでも手の届かない願い。
お父さんやお母さんに私を見て欲しいと思う願いが、
あっさりと切り捨てられてしまったのよ。
その瞬間から私は絶望を忘れるために心を閉ざしたの。
もう二度と傷つきたくなかったから。
もう二度と悲しい思いをしたくなかったから。
現実を受け入れるのが嫌になって。
自分の気持ちを隠して。
本当の『感情』を殺したの。
最初から愛なんて存在していないのなら。
無理に欲しがる意味はないわよね?
最初から必要とされていないのなら。
自分を主張する意味もないわよね?
誰も私を必要としないのなら。
私も私を必要としないわ。
誰も私を認めてくれないのなら。
私も私を認めようと思わないわ。
そんなふうに思い続けて…
そんなふうに自分を追い込み続けて…
私は私の心を隠してきたの。
心を閉ざすことで、
私は私の心を守ろうとしていたのよ。
それが私の心の闇なの。
今まで与えられることのなかった両親からの愛を求め続けて。
兄弟にも見放されて祖父母からも見放された私の絶望なの。
毎日をただひっそりと過ごして、
与えられない愛を求めながらも何も言えずにいた葛藤。
そして孤独だけが支配する心。
いつしか私は本当の笑顔を忘れてしまって、
心からの笑顔も失っていたわ。
辛い現実に向き合う為に。
無理に心を強く保とうとしていたのよ。
無理に強がることで。
心の弱さを見せないことで。
必死に生きていこうとしていたの。
そんな私の悲しみに…
慎吾は気付いてくれたみたいだったわ。




