それ自体が不可能
《サイド:美袋翔子》
「…とまあ、これがあいつらの試合内容だ」
一息ついた真哉が試合に関する説明を終えた。
黙って話を聞いていた私と沙織はため息を吐くばかりだったわね。
真哉から聞いた話は私達を驚かせるほどの内容だったから仕方がないんだけど。
ここまできた以上は総魔のルーンの力を認めるしかないでしょうね。
すでに総魔が私の力を上回っているのは間違いないわ。
そう思うからこそ考えなければいけない問題が数多くあるの。
第1に総魔の魔剣は岩永と大森のルーンさえも斬る事が出来たということ。
これはかなり懸念すべき事だと思うわ。
真哉でさえも真面目な表情で分析を行っていたけれど、
私も真剣に考えなければいけない話だと思うからよ。
魔力の結晶であるルーンは物質化するほど高密度の魔力の塊よ。
魔力の特性がそのままルーンの特性になるからこそ、
総魔の魔剣は吸収の能力を持っているのは理解出来るの。
だけど物質化したルーンまでも斬る事が出来るとは思っていなかったのよ。
確かに元は『魔力』なんだから吸収すべき対象である事は間違いないと思う。
それでも…ね。
それでも楽観的にだけどルーンなら総魔の力に対抗出来るんじゃないかなって考えていたわ。
ルーンなら破壊されないって信じていたの。
だけど実際にはその考えは甘かったようね。
物質化した魔力でさえも総魔は吸収する事に成功しているらしいからよ。
総魔のルーンである『ソウルイーター』
魂を喰らうというその名の通り。
魔剣は物理的、精神的、魔力的、いずれにも攻撃できて対象の力を『強制的』に奪うことができるのよ。
まさに破壊の為の武器としか思えないわね。
自分達の実力に自信がある私達でさえもまともにぶつかり合えば全ての力を奪われてしまうのは間違いないと思うわ。
そう思えてしまうほど恐れるべき力なのよ。
「あいつのルーンを回避しながら、直接攻撃出来ればなんとかなるだろうけどな」
単純な作戦を呟く真哉の提案は正しいと思う。
だけどその言葉を聞いた私は頭の中で即座に否定してしまったわ。
真哉と沙織はまだ知らないからよ。
総魔の『本当の実力』を見ていないの。
そもそも沙織は何も知らないけどね。
今まで関わっていなかったからそれは仕方がないわ。
真哉は総魔と関わりを持っているけれど、
それでもルーンしか確認していないみたい。
でもね。
私は知ってる。
総魔の『本当の実力』を全て見てきたから、ちゃんと知ってるのよ。
攻・防・魔の3種の力。
攻撃の『ルーン』
防御の『結界』
魔術の『翼』
それらの力を私はこの目で確認して実際に感じてきたのよ。
確かに真哉の言うように直接攻撃できればそれが最善策だとは思う。
けどね。
それが出来ない事を私は誰よりも理解しているの。
『総魔に接近する』こと自体が不可能に近いのよ。
総魔に接近する為には霧の結界を突破しなければならないわ。
だけど、それができないの。
ルーンと同じで触れるだけであらゆる魔力を吸収するあの霧の中に飛び込む事は自殺行為に等しいからよ。
次の試合において総魔は決して手を抜くような事はしないはず。
だからこそ総魔は魔剣だけではなくて霧も展開すると思う。
私が宣言したんだから。
全力で戦えって言ってしまったのよ。
だから総魔は必ず全ての力を発動させて私と戦うはず。
そう思うからこそ、私が越えなければならない壁は2つあるわね。
まずは総魔の能力。
霧の結界をどうやって突破するのか?
翼が放つ高速魔術をどうやって防ぐのか?
魔剣の圧倒的な破壊力をどうやって回避するのか?
いずれにしても私には不可能に思えるわ。
まともに戦えば勝ち目など無いでしょうね。
多少小細工をした程度で突破出来るほど総魔は甘い相手じゃないのよ。
考えれば考えるほど総魔の力を実感してしまうだけでしかないの。
だけど考えるべきことはそれだけじゃないわ。
まだまだ問題はあるのよ。
総魔はまだ『魔術』しか見せていないという部分。
そこが第2の問題でもあるんだけど。
総魔は『魔法』を使えるのかどうか?という部分よ。
もしも使えるのなら、どの程度の実力なの?
魔術としての霧の結界なら、私でも吹き飛ばす自信があるわ。
だけどもしも総魔が魔法として結界を発動したら?
私に突破出来るかどうかは実際に確かめてみない事には分からないわね。
そもそも、それ以上の問題として翼があるのよ。
魔術であっても恐ろしいほどの威力を持つ究極の魔術アルテマ。
それが魔法ならどこまで破壊力が跳ね上がるのかな?
私には想像すら出来ないわ。
どう考えても勝ち目のない戦いとしか思えないからよ。
実際に総魔の力を確認してない真哉と沙織の意見はあまり考慮できないし、
現状で把握しているのは私だけなの。
その私でさえもすでに完璧とは言えない状況になってしまっているわ。
全く未知数の実力を持つ総魔に対してまともな作戦も思い付かないまま、
ただただ時間だけが流れてしまったのよ。




