当然だ!
《サイド:北条真哉》
「どけぇぇぇぇっ!!!」
ソニックブームで強引に突き抜ける。
一分一秒を争う状況で、全力で戦場を駆け抜けた。
「邪魔だあああああっ!!!!」
アストリア軍がなんだ?
それがどうした?
そんなことはどうでもいいっ!!!
こんな雑魚どもよりも、もっとめんどくせえ奴がいるんだっ!
今ここに、アルテマを使えるやつは一人しかいねえ!
それなのに。
逃げずに戦ってるとしたらどうしようもねえバカだっ!!
あいつの性格上。
一度戦い始めたら逃げ出すとは思えねえからな。
たぶん、龍馬達を逃がすために無茶をしてるはずだ。
だとしたら、助けてやらねえとしょうがねえだろ!
「翔子に手を出すんじゃねぇぇぇ!!!!」
風を纏ってアストリア軍を突き抜ける。
「翔子っ!無事かっ!?」
多くの兵士達を斬り倒しながら翔子の側へと駆け付けると、
翔子は胸を張って微笑んでやがった。
「ふふん!当然でしょ」
ああ?
何が当然だ。
見るからにフラフラじゃねか。
「さっさと逃げろ!!」
「ん~。そうしたいのは山々なんだけど、もうはぐれちゃったし一人で行くのもね~。真哉も一緒に行く?」
はあ?
「行けるわけねえだろ!ここは俺が引き受けてやるからおまえはさっさと先に行って龍馬と合流しろ!」
翔子が逃げるくらいの時間なら何とでもなる。
そう思って駆けつけてやったんだが、
何を思ったのか翔子は全く逃げようとしやがらねえ。
「まあまあ、今から行っても追い付けないわよ。それに、真哉を置いて逃げ出すっていうのも気が引けるしね」
「バカかお前はっ!!俺のことはいいから…!」
さっさと逃げろと言い切る前に、
翔子は俺の背中を『ポンッ』と叩きやがった。
「慌てない慌てない。大したことは出来ないけれど、出来る限りの援護はするわ」
逃げ出さないどころか、翔子は俺の隣に立ちやがったんだ。
今にも飛んでしまいそうな意識を気力だけで維持してるくせに、
何故か翔子は俺に並んで微笑んでやがる。
「どういうつもりだ?」
「どうってこともないけどね。ただ、危ないところを助けてもらったのに、ありがと、はい、さよなら、じゃあ、ちょっといかがなものかな?って思うのよね~。借りた恩は返す。そうじゃないと公平じゃないでしょ?どこまで出来るか分からないけど、真哉の背中くらいは守って見せるわ」
ちっ。
やっぱりそうなるのか。
こうならないようにさっさと逃がすために先行したってのに、
結局これまでの努力が無駄になっちまったじゃねえか。
はあ…。
ったく。
ホントにめんどくせえ女だな。
「どうあっても逃げねえんだな?」
「真哉が逃げるなら逃げるわよ?」
ふざけんな!
俺が敵を目の前にして逃げるわけがねえだろ。
翔子を逃がすのも重要だが、
俺を援護するために駆けつけてきた理事長を見殺しにするわけにもいかねえんだ。
仮に逃げる必要性ができたとしても、
それは理事長が撤退を宣言してからだ。
それまではここを離れることができねえ。
「逃げ出すのは簡単だが、理事長を捨て駒にしたんじゃ、あとで龍馬に何て言われるかわかったもんじゃねえからな。」
「でしょうね~。だから私も手伝ってあげるわ」
どうあっても残るつもりらしく、翔子はルーンを解除していた。
まあ、妥当な判断だな。
ルーンに込めていた魔力が翔子の体に戻ったことで、
翔子の魔力は僅かに回復したはずだ。
これで昏倒は回避できる。
まあ、この状況で魔力が尽きたら今度こそそこまでだけどな。
「総魔を追いかけるんじゃなかったのか?」
「ええ、そうよ。だけどやっぱり最後まで努力しないと願いは叶わないわよね?」
努力しないと願いはかなわない、か。
どうだろうな。
努力の結果が必ずしも報われるとは限らねえだろ?
俺はそう思うが翔子はバカだから願いは叶うと信じてるんだろうな。
「さくっと戦闘を終わらせて、ちゃっちゃと先を急ぐわよ!」
この状況でさえも前向きに考えて魔術を詠唱する翔子は俺に向けて微笑んでいた。
「私が援護してあげるんだから、心から感謝しなさいよ?」
感謝だ?
バカ言え。
「はっ!そういう『台詞』は守りきってから言うんだな」
感謝の言葉ってのは結果が出てから言うもんだ。
「行くぜ、翔子!!」
「ええ!生き残るわよ、真哉!」
「当然だ!」
翔子を残して一気に駆け出す。
後方からの翔子の支援を受けながら、俺は攻撃を再開した。




