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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
900/4820

囮作戦

《サイド:御堂龍馬》


………。


太陽が真上に差し掛かる頃。


僕達は山岳地帯の目前まで迫っていた。


「ここからが問題ですね」


広範囲に広がる森を抜けた先に荒野が広がり。


その先に幾つもの山が連なってできる山脈が存在している。


まずは目の前に広がる森を突き抜けることが最初の目的になるんだけど。


その先の荒野にはアストリア軍が待機しているようだ。


すでに先行部隊が偵察してくれているから間違いのない情報だとは思うけれど。


アストリアの正規軍を突破しないことには山の中に入り込むことはできないらしい。


ただ…。


仮に山脈に侵入できたとしても広大な山々の全てを調査しようと思ったら

到底、数時間で出来るような規模じゃないと思う。


それこそ大規模な部隊を編成してそれぞれの山を一斉に捜索しないことには

数日どころか一週間かけても調べきれない気がするからね。


そもそも山岳地帯と呼ばれるほどの辺境なんだ。


いくら魔術師の部隊とは言え。


2千人程度では兵器の捜索は困難な気がしてしまう。


「あの山脈のどこにあるのかは分からないのですか?」


栗原さんが王城から盗んできた書類を持ってる理事長に何か情報がないか訊ねてみたんだけど。


どうやらそこまで詳しい詳細は書いてないようだ。


「残念だけど位置に関する情報は書かれていないわ。あくまでもこれは兵器に関する報告書であって、報告する必要のない情報は書かれていないみたい。まあ、ここにある報告書よりも以前の報告書があれば、位置を特定できるような情報もあったかもしれないけれどね」


確かに、初期の頃の報告書があれば書かれていたかもしれない。


今ここにある報告書が何度目の書類なのか分からないけど。


初期の報告書には兵器を設置する場所や移動の経路なども書かれていたんじゃないかな?


だからこそ。


それ以降の報告書には同じ情報は書かれないだろうし、

わかりきっている報告を何度も記す必要はないだろうね。


だけど…。


普通に考えれば兵器だけを直接、山の中に隠すわけじゃないよね?


建物を建てたり必要な施設を用意するんじゃないかな?


だとしたら、物資の輸送が困難な場所は捜索の対象外になるんじゃないかな?


…というよりも。


物資の輸送のために切り開かれた山道を発見できれば兵器のありかが分かるのかもしれない。


「あの山の中でどうやって兵器を探しますか?」


一応、尋ねてみると理事長は面倒くさそうに山脈を見つめながらため息混じりに説明してくれた。


「直接、兵器のありかを探し出すのはさすがに無理があると思うから、人の手が入ってると思われる場所を探し出すのが先決でしょうね」


「物資の輸送のために切り開かれた山道、ですよね?」


「ええ、そうよ。よくわかってるわね。そういう部分を見つけられれば捜索の時間を短縮できるはずよ」


どこにあるのか分からない兵器を探すのではなくて、

人の手が加えられた山道を探し出すこと。


その考えは正しかったようだ。


「あとはまあ、山中を巡回してるアストリアの兵士を捕えて尋問してみる、とかね」


「あ、ああ、そうですね」


そういう方法もあるのか。


…というよりも。


そういう方法でしか解決しないのかな?


上手く情報を引き出せるかどうかはわからないけれど。


理事長はその手の駆け引きが得意そうに思えてしまう。


「それではアストリア軍の捕獲が最優先でしょうか?」


「山の中に入ってからはそれでいいと思うわ。ただ、荒野に布陣してる正規軍を捕えるのは時間の無駄かも知れないわね。幹部ならともなく、一兵士が兵器の情報を把握してるとは思えないしね」


ああ、そうか。


荒野に布陣してる兵士達は共和国軍の足止めが目的だろうから

兵器のありかが知らされていない可能性があるのかな?


あるいは情報の漏洩を避けるために幹部さえ知らないという可能性もあるかもしれないね。


「捕獲する兵士は誰でもいいというわけではないんですね」


「ええ、そうよ。少なくとも山脈の警備をしてる巡回兵か、山道を封鎖してる部隊を襲撃して捕獲しなければ意味がないでしょうね」


なるほど。


話を聞いておいて良かった気がする。


敵を倒すことばかり考えていて、

捕虜にすることは考えてなかったから相談しておいてよかったと思う。


上手く情報を手に入れられれば山中をさ迷い歩く必要はないんだ。


それに大幅な時間短縮にもなる。


敵を捕えるのは必要な判断になるだろうね。


「覚えておきます」


「ええ、そうね。状況次第では分散して捜索することになるでしょうし、御堂君も情報収集よろしくね」


理事長と相談しながらの移動。


森の内部に潜入して荒野の手前にまで移動した僕達は、

ついに新たな難関と対立することになってしまったんだ。


「…で、アストリアの正規軍がいるわけだけど」


理事長の視線の先。


荒野の広域にアストリア軍が待機しているのを僕達は確認した。


先ほど遭遇した陰陽師軍と同程度の規模だからおよそ3万に及ぶ大部隊だと思われる。


ただ、ここだけじゃなくて、複数の方面で防衛網を展開しているとしたら、

この山岳地帯一帯には10万では収まらない軍隊が集結していることになるかもしれない。


「なかなか姿を見せないと思ったら、ここの護衛として大多数の軍を集めていたのね~」


アストリア軍を見て納得する理事長の言いたいことは僕でもわかる。


本来なら15万の正規軍。


それなのに砦に正規軍は1万しか布陣させずに一般人を巻き込んで人数をごまかしていたんだ。


今まで王都からの増援が少なかったのも全てはここを守る為だったんだろうね。


「さすがにこの包囲網の突破は苦しいわね」


「そうですね」


敵の数は3万。


対する僕達は2千。


数だけを考えれば勝ち目はないと思う。


「奇襲を仕掛けて範囲魔術で暴れたとしても、せいぜい半分まで削れればマシなほうでしょうね。」


敵軍を眺める理事長は悩んでいるようだ。


こちらの戦力は理事長を含めて

僕と真哉と翔子と深海さんと栗原さんの6人と護衛部隊の2千人の魔術師のみ。


どれだけの実力を持っていても、

これだけの人数で万を越える正規軍を相手に勝てるとは思えない。


数に飲み込まれれば死は避けられないからだ。


魔力という限りのある力で大群を相手に戦い続けることは不可能。


だから作戦を考える必要があった。


「どうやって包囲網を抜けるか…よね」


「やはりここは囮作戦しかないでしょう」


悩む理事長に栗原さんが答えていた。


まあ、妥当な意見かな。


だけど、どうなんだろう?


囮というか、この場合は玉砕になるんじゃないかな?


アストリア軍がここにいる数だけなら、

奇襲を仕掛けて混乱させることはできると思うけれど。


もしもそうじゃないとしたら?


別の方面に配備されているアストリア軍までここに駆けつけてきたとしたら?


ここにいるアストリア軍は殲滅できたとしても

そのあとの戦いは抵抗さえ出来ないんじゃないかな?


だとすれば囮役はそのまま全滅という可能性が高くなる。


よっぽど運が良くない限りは逃げることさえできないんじゃないかな?


…と、思うんだけど。


だけどそれでも他に方法はないのかもしれない。


全員が突破する方法なんてたぶんありえないんだ。


…いや、違うね。


突破するだけなら可能だとは思う。


だけど、それだけだ。


土地勘のない山脈の中でアストリア軍の追撃を受けることになれば

まともに戦うよりも苦しくなるんじゃないかな。


ここでならまだ範囲魔術で戦える。


だけど山の中で木々を避けながら逃亡を続けて戦うというのはすごく難しいと思う。


それこそ味方を誤射する可能性が高すぎて範囲魔術なんて絶対に使えない。


見晴らしのいい荒野なら全力で戦えるけど。


森の中では視界が遮られてしまって上手く戦えないんだ。


だから戦うことを前提で考えるならここで戦うべきだと思う。


森のなかでの戦いは危険すぎる。


それにここで派手に暴れれば他の地域にいるアストリア軍を引き付けることもできる。


それは自殺行為にも等しいけれど。


山中での安全を高めることができるんだ。


兵器の破壊を最優先として考えるのなら、

囮作戦は確かに有効的な方法なのかもしれない。


きっと、栗原さんもそう考えていたんだろうね。


「囮作戦…ね。」


栗原さんの提案を考慮して、理事長は覚悟を決めたようだ。


「この状況なら、私が引き受けるしかないでしょうね。仮にも共和国の代表だから、私が全面に出ればアストリア軍を引き付けられるはずよ」


理事長は自ら囮役をかってでてくれた。


「本来なら護衛部隊も兵器の捜索に回したいところだけど、こうなると敵の足止め役をしてもらうしかないでしょうね。私が部隊を率いてアストリア軍を撹乱するから、御堂君達は先行して情報収集を急いで」


僕に指示を出してから部隊を率いて進軍しようとする理事長だけど。


部隊が動き出す前に、真哉が理事長を引き止めていた。


「護衛部隊を使うのは構わねえが、理事長が囮になるのはダメだろ?仮にも保護者なら、最後まで面倒を見てやれ」


理事長を押しとどめてから、真哉が荒野へと歩き出してしまったんだ。


「好き勝手に暴れるのは俺の得意分野だ。こそこそ隠れるよりも性にあってるからな。時間がねえんだ。囮なら俺が引き受けてやる!」


一方的に宣言した真哉は理事長の返事も聞かずにアストリア軍へと駆け出してしまった。


「ちょっ!?待ちなさいっ!!」


慌てて引き止めようとする理事長だけど。


真哉は振り返る事さえせずにアストリア軍に向かって一直線に駆け続けていく。


「ったく、もう、あの子は!」


怒りをあらわにした理事長が僕達に別れを告げてきた。


「北条君を一人には出来ないわ!私も部隊を率いてアストリア軍に攻め込むから、御堂君達は戦場を迂回して先へ急ぎなさい!」


指示を出してから、理事長は真哉を追って走り出したんだ。


「総員!突撃開始!!広範囲魔術でアストリア軍を一掃するわよ!!!」


2千人の魔術を率いて奇襲を仕掛ける理事長がアストリア軍に襲い掛かる。


その結果として残されたのは僕を含む4人だけになってしまった。


僕と栗原さん。


そして翔子と深海さんだけだ。


まだもう少し距離はあるけれど。


真哉と理事長達はすでにアストリア軍へと接近しつつある。


急いで動き出さなければ戦場を迂回する前に包囲網が広がりかねない。


そうなる前に行動に出るべきだ。


「こうなったら仕方がない。」


真哉のことは心配だけど、

今は救出に向かう余裕なんてないんだ。


理事長の部隊がアストリア軍を引きつけてくれている間に、

山中にいる巡回兵を捕えて情報を引き出す必要がある。


「真哉と理事長にあとを任せて、僕達は先を急ごう!」


「おっけ~!」


先を急ぐために森の中を移動する僕を追って、翔子達も走り出した。


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