成績
ようやくたどり着いた。
移動を続けて着いた場所は第12検定試験会場と呼ばれる建物だ。
全部で12箇所ある試験会場で、
ここが最初に訪れるべき場所らしい。
「ここが検定試験の会場か」
生徒手帳の地図に記されていた目的の会場は小さな村ならまるごと収まりそうなほど巨大な建物だ。
もちろん校舎と比べれば小さいとは思うが、
それでも高さは10メートルほどあるだろう。
広さも500メートル四方はあるはずだ。
石造りの強固な壁面が頑丈さを物語っている。
おそらく並みの衝撃ではビクともしないだろうな。
当然、殴りかかった程度では傷一つつかないどころか手首が折れてしまうだけだ。
よほど強力な魔術を使用しない限り壁をぶち抜くのは不可能に思える。
これも試験の内容を考えれば当然の措置か?
具体的な試験の内容は会場の内部に入ればわかるとして、
まずは会場そのものを見渡してみることにする。
最初に思うこと。
それは見方によっては砦とも呼べる巨大な建物には出入り口が一ヶ所しか見当たらないということだ。
出入り口以外の全てが強固な石材で固められていて見える範囲内には窓のひとつも存在しないようだ。
屋上には換気口くらいあるかもしれないが下からでは分からない。
そのせいで唯一の出入り口を封鎖してしまえば外部との交通手段が完全に閉ざされてしまうような構造と言えるだろう。
極端な構造で建てられた試験会場だが、
その理由はおそらく一つ。
徹底的に強度だけを追求して、
それ以外の利便性は全て排除しているのだろう。
良く言えば安全重視だが悪く言えば監獄だな。
その両面を兼ね備えているような異様な雰囲気の建物なのだが検定会場と呼ばれる施設はここだけではない。
同じ造りの会場がかなり遠くの方まで幾つも並んでいるのが見える。
校舎を取り囲むような形で12棟存在しているからな。
だからこそ、ここが始まりの地ということになる。
全ての生徒が必ず一度は通過するこの場所こそが学園での頂点を目指すための開始地点になる。
現在上位にいる生徒達もかつてはここでの検定を乗り越えて次の会場へと進んでいったはずだ。
「さすがにここには多いな」
最初に訪れた検定会場には入学式以降あまり見かけなかった大勢の新入生達が検定試験を受けに集まっている姿が見えた。
どうやら彼らは入学式当日から試験に参加するつもりのようだ。
血気盛んと言うべきなのか?
それとも努力家と言うべきなのだろうか?
どちらにしても俺とは考えが違うと思うが彼らの努力を否定するつもりは全くない。
気合いをいれて会場に入っていく新入生達の後ろ姿を眺めてから再び生徒手帳を開いてここでの目的を再確認することにした。
各試験会場で行う『検定試験』
その内容はとても簡単だ。
学園に在籍する生徒同士が1対1で試合を行って互いの実力を競い合うという単純な試験だからな。
難しく考えることは何もない。
勝つか、負けるか、ただそれだけだ。
もちろん、そこに意味があるわけだが試験の目的は大きく分けて二つある。
一つは学園で学んだ魔術を実践で使えるように訓練することだ。
そしてもう一つが学園の頂点を目指すことになる。
この学園の生徒達には全員『生徒番号』という数字が与えられている。
何番の誰々という感じだな。
この番号こそが生徒の実力を判断する重要な要素の一つになっている。
つまり『生徒の実力』=『生徒の番号』ということだ。
入学式が終わった今日、現在。
学園の生徒総数は21416名と発表されている。
そのうち新入生は1024名らしい。
1に近い小さな番号を持つ生徒ほど実力のある証となり、
2万に近い番号を持つ生徒ほど下位の成績ということになる。
だからこそ検定試験はこの生徒番号を奪い合う為の試合となるのだが、
入学試験首位の俺の生徒番号は20393番だ。
新入生の中では最高の番号になっている。
これからの学園生活において検定試験を進めていくことが最も重要な課題になるのだが試験を進めていく上で考えなければならないことは幾つもある。
最大の問題は試験の結果なのだが。
自分よりも生徒番号の大きな下位の生徒と戦った場合。
勝てばそのまま残留だが敗北した場合は即座に自分の番号を奪われて対戦相手の大きな番号を持つ事になってしまう。
単純に言えば降格だな。
逆に生徒番号の小さな者に戦いを挑んだ場合。
負けて失うものは何もないが勝利すればその番号を奪い取って実力を示す事が出来るようになる。
こちらは昇格と言えるだろう。
それらを踏まえたうえで。
最初の目的として学園での生徒最強を目指すのなら頂点の証である生徒番号1番を手にする事が必須条件となる。
当然その目的を達成するためには約2万人の生徒を倒して頂点を目指さなければならないということになるだろう。
その道程は果てしなく長いとしか思えない。
それでも、その道程を乗り越えなくては『卒業』は難しい。
「まずは調査だな。」
会場での試験はどの程度の難易度なのか?
今の俺でも通用するのか?
それとも入学試験首席の実力ですら試験を乗り越えるのは難しいのか?
それらの答えを知るために会場の内部へと歩みを進めようとすると不意に先程まで感じなかったはずの視線を再び感じるようになった。
(…またか。)
おそらく、さっきまで尾行していた人物だろう。
はぐれたあとに俺がここへ来ると判断して待機していたのだろうか?
それとも単なる偶然だろうか?
どちらが正解かは分からない。
何らかの事情でここにいたのか?
それともここへたどり着くだろうと判断して待っていたのか?
尾行者の答えがどちらかによって正体不明の人物の能力の評価は大きく変わってくるだろう。
もしも確信してここにいたのなら油断できない相手なのは間違いない。
だがこれが単なる偶然か、
あるいは運に頼る人物なら、
気にかける必要のない相手と判断していいだろう。
相手の目的は不明だが、
もしも追跡が面倒と判断してここへ先回りしていたのならもう少し警戒しておく必要があるかもしれない。
余計な接触は避けるべきだろう。
ひとまず今はいまだに姿を見せない相手に対して何も気づいていないふりをしつつ試験の偵察を行うために会場の内部へと歩みを進めてみることにした。
その直後。
何者かに背後に回り込まれた気配を感じたが、
振り返って確認することはせずにあせることなくゆっくりと会場の内部を歩き続けることにする。
後方の監視者と周囲の試合。
どちらにも気を向けながら、
ざっと会場内の偵察を済ませて上級生の試合や新入生達の奮闘を眺めていく。
もちろん試合を見て考えられることと実際に経験して感じられることには大きな差があるとは思うのだが、
何も知らないよりは知っていた方がいいはずだ。
そんなふうに判断して一通りの試合を観察していたのだが。
追跡してくる人物からの視線がだんだんと面倒になってきたことで、
今日は最後まで試合を観戦することなく、
ある程度で見切りをつけて会場を離れることにした。




