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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
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雨宮の指摘

《サイド:米倉美由紀》


戦場に向けて魔術の詠唱を行い続ける。


少しでも多くの陰陽師を倒せればと考えて迎撃を続けていたんだけど。


「お久しぶりです、米倉代表」


戦闘の最中に一人の男子が駆け寄ってきたのよ。


ん~?


丁寧に頭を下げる男子の声は聞き覚えがあるわね。


すぐには名前が思い浮かばなかったけれど。


「って、えぇ!?」


顔を見た瞬間に、それが誰なのかはすぐにわかったわ。


「栗原君!?無事だったのね!!」


突然現れた栗原君に驚いてしまったけれど。


まずは笑顔で出迎えることにしたわ。


「ずっと待ってたのよ!今は一人なの?他の人達はどうしたの!?天城君は?一緒じゃないの!?」


次々と思い浮かぶ疑問を口に出してしまったことで、

栗原君は苦笑いを浮かべながら簡潔に説明してくれたわ。


「その、戻って来れたのは僕だけです」


うわぁ…。


それって、そのままの意味なのよね?


栗原君の言葉を聞いた私は言葉の意味を察したわ。


戻って来れたのは栗原君のみ。


その言葉には『仲間の死』という意味が含まれているからよ。


「…そ、そうなの。だけど、あなただけでも助かったのなら十分よ…」


全滅よりはマシよね?


天城君の死は想定外だけど…。


「お忙しいところを申し訳ありませんが、急いで報告することがあります」


少し落ち込んでいると、

栗原君が何らかの報告書を差し出してくれたわ。


「なに、これ?」


首を傾げながら書類を受け取ってみる。


そして書類の内容を確認してみた直後に、

私の表情は一瞬にして凍りついてしまったわ。


これって、あれよね?


もしかしなくても、

以前の報告にあった兵器に関する報告書よね?


驚く私の様子を見ていた栗原君は説明を続けてくれたわ。


「王都の兵器は破壊しました。ですが、もう一つの兵器は依然として存在しているようです」


うわ~。


「一つじゃなかったのね?」


「ええ、そのようです」


動揺する私に頷いてから、

栗原君は現在の作戦を教えてくれたわ。


「現在、天城さんが先行して兵器の探索を行っています。ですが範囲が広くて、僕達だけでは手に負えない為に共和国軍を誘導するように指示を受けました。戦闘中で大変かとは思いますが、兵器の探索にご協力をお願いできないでしょうか?」


ああ、なるほどね。


兵器の探索依頼なのね。


天城君が生きてるっていう部分はちょっぴり嬉しい報告だけど。


だからといって戦力を裂く余裕はないのよね…。


「迷ってる暇はなさそうだけど、だけどこの状況を放置してはいけないわ」


現状でさえやや不利な状況なのよ?


それなのに戦力を減らしてしまえば間違いなく敗北してしまうはず。


…と、思うんだけど。


話を聞いてたのか、

戦闘の報告に来た雨宮が話しかけてきたわ。


「米倉代表。お気持ちは理解できますが、事態は一刻を争うと思われます。ですから部隊を分けませんか?」


「分けるって言っても、今でさえ苦戦してるのよ?ここで兵を減らせば敗北は必至よ?」


全滅を前提とした戦力の分散はさすがに許容できないわ。


「味方を捨て駒にするような作戦は認められないわ。そんな方法が選べるのなら最初から戦争なんて考えずに魔術師狩りを受け入れているからよ」


魔術師の全滅と引き換えに共和国の存続が認められるのよ?


小を切り捨てて大を残す作戦が取れるのならアストリアの要求を飲んですでに自殺してるわ。


だけどそれはできないの。


仲間を殺してまで国を残す考えには賛同できないのよ。


だからこそ私達は戦っているの。


魔術師の自由を勝ち取るために。


一人でも多くの仲間が生き残るためによ。


「戦術的撤退は認められないわ」


それだけは譲れないと思うんだけど。


それでも雨宮は引き下がらなかったわ。


「お気持ちは重々存じております。ですがここでの戦闘の結果よりも、兵器の破壊を『優先』するべきかと思います」


うわっ…。


そこを指摘されると否定できないわね。


「ここで勝利を勝ち得ても兵器が発動すれば多くの犠牲が出るはずです。」


…かもしれないわね。


「ねえ、栗原君。あなたさっき王都の兵器は破壊したといったわよね?だとしたら王都がどうなったのか知ってるんじゃない?」


遠方にまで響いた爆音と地震の理由を尋ねてみると、

栗原君は涙をこらえるかのような表情でゆっくりと話してくれたわ。


「もちろん知っています。王都の壊滅と兵器の威力をこの目で確認してきましたので」


「兵器の力は本当に町を破壊できるほどなの?」


「それは間違いありません。共和国の各町よりも遥かに大きなアストリア王都が一瞬にして消し飛ぶほどでした。実際の王都の被害は6割程度だと思われますが、共和国の町なら全域が消し飛ぶかと思います」


はあ…。


やっぱり、そうなのね。


栗原君の言葉を聞いて、私にはもう返す言葉が思い浮かばなかったわ。


優先と言った雨宮の指摘にはそれだけの『意味』があるからよ。


ここで陰陽師の軍を壊滅しても、兵器が発動すれば共和国は瓦解しかねない。


王都の被害は遠目でも明らかで、

その破壊が共和国を襲えば、多くの命が失われることになるわ。


だから局地的なこの戦闘の勝敗よりも、兵器の破壊を優先すべきでしょうね。


「そうね。確かに兵器の破壊は最優先よ。だけど軍は割けないわ。兵を減らせば敵の足止めさえも出来なくなる。だから…」


私は最後の決断を下したのよ。


「全ての指揮権を近藤悠護に委ねるわ。残った兵を率いて陰陽師の軍を押さえて!兵器への対応は『私達』だけで何とかするわ!」


方針を決めて深海さんに指示を出す。


「御堂君達を呼び戻して!兵器の発動を阻止する為に急いで天城君を追うわよ!」


「あ、はいっ!」


深海さんは即答してから、

御堂君達を呼び戻す為に戦場へと駆け出していったわ。


「雨宮、あなたも悠護に伝えて」


「了解しました!」


雨宮も報告の目に悠護の元へと走り去る。


残った私は本陣で集合を待つことにしたわ。


直接私が走り回ったほうが早いんだけど、

今は栗原君の話を聞くほうが大事だからよ。


受け取った報告書の全容に目を通しながら質問を続けてみることにしたの。


「朱鷺田達は亡くなったのね?」


確認してみると、栗原君は悲しみを秘めた瞳でしっかりと頷いてくれたわ。


「生き残ったのは僕と天城さんだけです」


「…そう。残念だったわね」


気持ちが沈んでしまうけれど今は悲しんでいる暇はないわ。


生き残るために、戦い続けなければいけないからよ。


「何度経験しても仲間を失うのは辛いわね。」


涙を流す時間さえないのよ?


やるせない気持ちを感じるけれど、悲しむのは後回し。


今は栗原君の話を聞くべきでしょうね。


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