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THE WORLD  作者: SEASONS
4月18日
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懺悔

《サイド:天城総魔》


ちっ!


まさかこれほどとはな。


王都を駆け抜ける最中。


俺は自らの目で兵器の力を確認していた。


膨大な『力』による爆発。


兵器による被害は圧倒的であり。


俺が全力を出しても到底実現出来ないほどの破壊力を持っていたように思う。


爆発の中心である研究所がどうなったのか?


早々に離脱した俺には分からない。


だが、見えなくても分かることはある。


朱鷺田と三倉の魔力の波動が消失したからだ。


その事実だけは理解出来ている。


「朱鷺田、三倉、すまない」


小さな声だが謝罪しておいた。


朱鷺田と三倉の命を賭けた作戦によってアストリア軍の兵器は失われたからだ。


間違いなく、研究所もろとも記録は消失したはず。


もちろん予備の可能性は否定出来ないが、

すぐに再開出来る状況ではないはずだ。


ひとまずそう判断している。


王都を崩壊へと導いた大爆発。


その力が何だったのかは今でも不明だが、

研究所の名前でもある『龍脈』と何らかの関係があるのだろう。


今もなお止まらない地震。


まともに歩くことさえ困難な状況のおかげでアストリア軍を振り切ることには成功していた。


追っ手の追撃を振り切り。


徹の魔力の波動を追う。


その結果として王都を駆け抜けて、

南部の隠れ家へとたどり着いた。


「徹の魔力の波動はここから感じるが…」


ゆっくりとした足取りで廃屋へと歩みを進めてみる。


『キィ…キィ…』と、軋む床を踏み締めながら、

ついに目的の部屋へとたどり着いた。


そして。


ついに俺は再会した。


琴平愛里の遺体と、だ。


「うっ…うぅっ…。」


床に遺体を横たわらせて、哀しみ…涙する徹。


その背中を見つめながら、俺はそっと呼び掛けてみる。


「…徹…」


声をかけたことで、ようやく俺の存在に気付いたのだろう。


徹は悲しみを隠すことなく、ゆっくりと振り返ってくれた。


「…天城さん…」


瞳を真っ赤に染めた徹は溢れる涙を堪えることなく、

自らを責めるように思いを吐き出した。


「…すみません、天城さん…っ!僕は…僕は…っ。愛里ちゃんを守れませんでした!僕のせいで!愛里ちゃんは僕を庇って死んでしまったんですっ!!」


………。


必死に想いを言葉にしようとする徹の隣に並んで愛里の顔を覗き込んでみる。


「………。」


何も語ることのない愛里に呼吸はなく。


すでに心臓も動いていないようだ。


血の気が引いて青白く見える表情だが、

それでも何故か愛里の表情は微笑んでいるように思える。


まるで悔いはないと訴えるかのような表情だったからだ。


とても安らかな微笑みを浮かべているように見えた。


「僕が…っ!僕のせいでっ!!」


泣き叫ぶ徹の顔は哀しみに満ちていて、

自らを呪うかのような怒りさえも感じられた。


「僕の責任ですっ!僕があの時、ちゃんと確認していればっ!油断せずに最後まで止めを刺していれば、愛里ちゃんは死ななくて済んだはずなんです!僕がちゃんと戦っていればっ!愛里ちゃんが死ぬことはなかったんです!!」


懸命に語るその姿はまるで懺悔ざんげだ。


俺に救いを求めるかのように、徹は自らの過ちを言葉にしていた。


「愛里ちゃんを守ると決めていたのに!例え僕が死んだとしても!愛里ちゃんだけは守ると決めていたのにっ!!それなのにっ!僕は愛里ちゃんを守るどころか…っ。僕のせいで…死なせてしまったんです!!」


泣き叫びながら愛里に手を伸ばす徹の心は…すでに壊れかけているように思える。


「僕のことが好きだと言ってくれたのに、こんな僕を好きだと言ってくれたのに…!僕には何も出来ませんでしたっ!!医師として学んできたのに!僕は大切な人に救いの手を差し延べることが出来なかったのですっ!!」


床に拳を叩き付ける徹の行動からは絶望しか感じられない。


打ち付ける拳が血で染まっても、

まるでその痛みを受け入れるかのように何度も何度も自らの拳を痛め付けていた。


「僕のせいですっ!!僕がふがいないせいで…っ!!」


どこまでも自分を責めて泣き叫ぶ徹。


その姿を眺めながら話し掛けることにした。


「徹。お前に一つだけ聞く」


求めるべき答えは一つだけだ。


「このままここで嘆き続けるか?それとも俺と共に行動するか?どちらでも好きな方を選べ」


選択を求めたことで、

徹はゆっくりと視線を向けてきた。


「どこへ向かうつもりですか?」


どこへ、か。


その答えはすでに決まっている。


「俺は今から王城へ向かう。兵器の発動によって王都は瓦解したからな。今なら王城へ忍び込む隙もあるだろう」


「王城へ、忍び込む?」


俺の言葉の意味が理解出来ずに戸惑う徹に目的を示すことにする。


「王族を暗殺するためだ」


「なっ…!?あ、暗殺っ!?」


ああ、そうだ。


「兵器は失われた。そして王族も絶えたとなれば戦争は止まるだろう。死んだのは愛里だけではない。朱鷺田と三倉も犠牲となったからな。」


だから俺達には果たさなければならない義務がある。


「戦争を止めること。その想いだけは何があっても果たさなければならない」


「朱鷺田さんと…三倉さんまで?」


ああ。


「兵器の起動の為だ。自ら死を受け入れて、二人は研究所に残った」


「そんな…。それでは生き残ったのは僕と天城さんだけ…?」


「ああ、そういうことになる」


だからこそ選ばなければならない。


「俺は立ち止まるつもりはない。犠牲となった仲間達の為にも俺は王城へと向かうつもりだ。だが、お前にまで戦いを強要するつもりはない。これからどうするのかは自分で決めろ」


とどまるか、突き進むか。


返事を待つためにじっと見つめる俺の瞳を見つめ返した徹は、

悩むまでもなく覚悟を決めたようだった。


「僕も行きます!何も出来ないかもしれませんが、それでも僕は行きます!!このままじっとしていても愛里ちゃんはきっと喜んでくれません。だから僕も戦います!!戦って今度こそ守って見せます!!僕にはまだ守りたい人がいるんです。せめて兄として、妹の平和だけは守り抜いて見せたいと思います!」


自らの思いを宣言しながら立ち上がった徹は、

瞳の涙を拭ってから俺に右手を差し出してきた。


「僕も連れていって下さい!」


ああ、良いだろう。


再び立ち上がる意志を見せた徹の手を握り返して、固く握手を交わす。


「生きて帰れる保証はない。だが今は、この戦争を止める為に共に戦おう」


「はいっ!」


俺と徹。


二人は互いの手を離してから愛里へと視線を向けた。


安らかな微笑みを浮かべる表情は生前と何も変わらないように見える。


「…良い顔だ…。」


呟く俺の言葉を聞いて徹は微笑みを浮かべていた。


「ええ、僕の大切な人ですから」


恥ずかし気もなく、徹は愛里の側に屈みこんでキスを交わしている。


「行ってくるよ。愛里ちゃん」


この場に想いを残して、徹は立ち上がった。


「行きましょう!この戦争を止める為に!!」


ああ、そうだな。


気合いを入れる徹に頷いてから、

俺も愛里に別れを告げることにした。


「良く頑張ったな」


微笑みを残して歩きだす。


「行くぞ」


「はい!」


二人だけになった俺達は、

最後の決戦へと踏み出すことにした。


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