6位と7位
《サイド:北条真哉》
まあ、あれだな。
話は翔子が医務室で目を覚ました頃にまで遡るだろうな。
詳しい状況は知らねえが、
たぶん鈴置美春ってやつから話を聞いてた頃だ。
俺はそいつを知らねえから具体的にどういう話を聞いたのか知らねえが、
確認しなくてもおおよその内容はあってると思うぜ。
俺も医療班が慌ただしく作業をしてるのを見てたからな。
会場内で流れた噂話はほぼ事実通りだ。
だからそのあとの説明をする。
天城総魔が桃花達を倒したあとだが、
俺とあいつはしばらく第1検定試験会場にとどまって待機していた。
理由は単純だ。
次の対戦相手が来るのを待ってたってだけだ。
受付周辺の休憩所でのんびり休みながらあいつが戦えそうな相手がくるのを待ってたんだが、
医療班が去ってからしばらくして二人の生徒がやって来た。
生徒番号6番の岩永一郎と生徒番号7番の大森遼一の二人だ。
あいつは認識がないから軽く視線を向けただけだったが、
俺は密かに笑みを浮かべていただろうな。
どうしてかは分かるだろ?
あいつの実力を図るのに丁度いい対戦相手だと思ったからだ。
翔子よりも弱いが、かと言ってかけ離れてるわけじゃねえ。
4位と10位のちょうど中間だ。
当て馬としては十分な戦力だろ?
そう考えて俺はあいつに進言してやったのさ。
「総魔、あれが6番と7番だ」
俺の言葉を聞いた瞬間に、
あいつも微笑んだように見えたぜ。
桃花達との試合からすでに30分近く過ぎているからな。
退屈とも思える時間を過ごしてようやく待ちに待った次の対戦相手がやって来たんだ。
やる気になるのも当然だろう。
「あの二人ならいい練習相手になるんじゃねえか?まあ、早めに引き止めねえと、あいつらで勝手に試合を始めちまいそうだけどな」
あいつは何も知らないはずだが岩永と大森は互いに競い合う親友だからな。
二人が会場に来たのも試合をするつもりだったんだろうぜ。
「どうする?やるか?」
「ああ、そのつもりだ」
「よし」
あいつの意志を確認したことで、
二人の行動を見越した俺は試合を奪い取るつもりで動き出した。
「ちょっと待った!!」
手続きを妨害するために強引に受付に割り込んで、
二人の試合が受理される前に無理やり試合を止めてやったんだ。
「何だ?」
「どういうつもりだ北条?」
突然、俺が割り込んだことで岩永と大森は困惑していたようだが一々説明するのは面倒だったからな。
二人を無視して係員に話し掛けることにした。
「もう、分かるよな?」
俺の有無を言わさねえ迫力に負けたんだろう。
すでに状況を理解している係員はちょいとビビリながら無言で頷いてくれた。
「おーけー」
受付の乱入に成功したことで、俺も満足して頷く。
まあ、ここで俺の言いたかった事が何かはもう分かるよな?
『余計な事はしなくていいから、二人を総魔と戦わせろ』って話だ。
状況が把握できずに戸惑う岩永と大森。
そして俺にビビる係員。
そんな感じで少しばかり変な雰囲気に包まれる受付だったが、
とりあえず次の対戦予定を組み上げることには成功した。
「で、試合場はどこになる?」
「え、と、そ、それでは、先程の試合場でお願いします」
「ああ、分かった」
おどおどと手続きを進める係員を見てるとちょいとばかしやりすぎたかとも思ったがこれもまあ仕事のうちだ。
たぶん、理事長も文句は言わねえだろ?
でもまあ、わけもわからないまま話を進められてしまった岩永と大森の二人は誰が見ても分かるほど困惑しているようだったな。
二人以外のほぼ全員が状況を理解している状況だが、
会場に来たばかりの岩永と大森の二人だけは状況が飲み込めないままだ。
とはいえ、始めちまえばすぐに分かることだからな。
めんどくさい説明は後回しにしてまずは二人を試合場に連れて行くことにした。
「まあいいから、とりあえず行こうぜ」
困惑する二人を無理やり試合場に引き連れて、
あいつと共に試合場に向かうことにした。




