町の名を冠する聖剣
《サイド:朱鷺田秀明》
『コッ…コッ…コッ…コッ…。』
地下に向かう通路に響く足音。
静寂に包まれる研究所の通路を一歩ずつゆっくりと前進して、
真剣な表情で警備兵の待ち構える階段へと歩みを進めていきます。
ここから地下への階段まではおよそ3分程度でしょうか?
そのあとは警備兵を殲滅するために戦うことになります。
「僅か二日程度の付き合いでしたが、良い思い出になりました」
誰もいない通路で思い浮かべるのは共に行動してきた仲間達のことです。
天城さん、三倉さん、栗原さん、琴平さん。
共に砦に潜入して、共に歩んできたアストリアの王都。
その戦いが終わることを感じたことで囁くように呟きました。
「みなさんは生きてください。」
それが私の心からの願いです。
出会って間もない4人の仲間達。
みなさんの無事を願いながら最後の角を曲がることにします。
「さあ、始めましょう。これが最期の戦いです!」
一気に駆け出しました。
私の手には光り輝くルーン、聖剣マールグリナがあります。
守るべき町の名を冠した聖剣は煌々(こうこう)と輝きを放ち、
私の意志に呼応するかのように刻一刻と輝きを増していきます。
「申し訳ありませんが、ここで死んで頂きます!!」
全力で駆け抜けることで警備兵達が異変に気づいたようでした。
「侵入者だーー!!!」
「あいつは、さっきの!?」
「何者だっ!!」
次々と叫びながら迎撃の体制を整える警備兵達。
その中へと迷わず飛び込みます。
「何者?決まっているでしょう。魔術師ですよ!」
一閃。
私の振るう剣が、警備兵の一人を斬り裂きました。
「ぐあああっ!?」
激痛に苦しむ兵士を放置して、休むことなく、次々と斬り掛かります。
『ザシュッ!』
「うああああああ…!?」
『ズバッ!!』
「くそぉっ…!!!」
『ザンッ!!!』
「があっ!!!」
ひと振りごとに倒れていく兵士達。
抵抗する暇さえなく倒れていく警備兵達の返り血を浴びながらも私は突撃を続けます。
「共和国の為に兵器を破壊します!!」
全力で叫び。
突撃を続ける私の手の聖剣が次々と犠牲者を増やしていきました。
その成果として。
20名いた警備兵達は、ものの数秒で半数にまで減ったようです。
「バケモノめっ!!!」
必死の抵抗を試みる警備兵達ですが、
私も数々の死線を乗り越えてきた密偵ですからね。
敵に囲まれた程度で怯むつもりはありません。
「共和国の滅亡を望み、兵器を用いるあなた達のほうがよっぽどバケモノじみていますよ!」
人と人による戦いではなくて、
一方的な虐殺を企んだ時点でそれはもう悪魔の所業です。
「もはや人にあらざる存在に何を言われようと気にもなりません!」
「くそっ!たった一人が止められんとはっ!!」
私の鬼気迫る勢いに押されたのか、警備兵達は確実にその数を減らしています。
「ちっ!誰か応援を呼んで来い!!!」
指揮官らしき男が指示を出した瞬間に。
一人の兵士が私の側面を通り抜けて戦場を離脱しようとしていました。
本来ならここで切り伏せるか足止めするべきなのでしょうが、
今回に限って言えば無理に引きとめようとは思いません。
「援軍を呼ぶつもりですか?」
静かに呟きます。
そして兵士にそっと囁きます。
「どうぞ、御自由に…」
「!?」
私の言葉に戸惑いながらも、
兵士は逃げ出すように通路を駆けて行きました。
これで私の侵入は各方面に告げられて多くの援軍が駆けつけてくるでしょう。
ですが、それこそが私の思うツボなのです。
「貴様っ!!何を考えているっ!?」
指揮官らしき男の怒鳴り声は聞き流して、
笑みを浮かべながら宣言しておきます。
「全て始末するだけですよ」
「………っ!?」
冷静に告げる私の言葉を聞いた男は戦慄したようですね。
今まで感じた事のないような本物の殺意。
目の前で惨劇を繰り広げる私の姿に男は恐怖したようでした。
「バケモノがっ!!」
「聞き飽きた台詞ですよ」
今更、ですよね?
これは戦争なのです。
殺し合うことが前提の戦いなのです。
「死んでください」
男の体を聖剣で貫きました。
「ぐっ…が…あっ…!?」
腹部を斬り裂かれたことが致命傷となったのでしょう。
男は口からも血を吐きながら力尽きて通路に崩れ落ちました。
その直後に。
「うっ…!うわあああああああああっ!!!!!!!」
一気に混乱状態に陥る警備兵達。
逃げ出す兵士達を見逃して、
立ち向かう兵士達だけを容赦なく斬り裂きます。
幾度となく繰り返される斬撃音。
聖剣の剣の一振り毎に倒れていく兵士達。
私の聖剣が返り血で真っ赤に染まる頃には階段前の通路は惨状と化していました。
はぁっ…はぁっ…。
歳はとりたくないものですね。
僅か数分の戦いでも疲れが出てしまっています。
肩を上下させながら深呼吸を繰り返しました。
多少の切り傷を受けましたが、
幸いにも大きな怪我はありません。
まだまだ定盤ではありますが、
初戦は生き抜けたようですね。
「まだまだ戦いはこれからです。私の戦いは…ここからです!」
自分自身に言い聞かせるように呟きました。
これから続く戦いをどこまで耐え切れるのでしょうか?
拭いきれない確かな不安を感じながらも、
ひとまず地下への階段へと足を進めることにしました。




