感知できる範囲
《サイド:琴平愛里》
「遅いですね…。」
徹さんの帰りを待ちながら、
何度も何度も時計を見て呟いていました。
徹さんが帰ってこないことが不安で、
今にも泣いてしまいそうだったからです。
ですがここで弱音を吐いてしまったらみなさんに余計な心配をかけてしまいますので、
本当に泣いてしまうわけにはいきません。
できる限り冷静でいようと考えておとなしくしていたのですが、
心配する気持ちは抑えられていなかったようですね。
「落ち着いて、愛里ちゃん。今は待つしかないわ」
私を落ち着かせるために純さんが声をかけてくれました。
「…は、はい。すみません」
やっぱりダメですね。
冷静ではいられなかったようです。
純さんは慰めてくれたのですが、
それでも不安は消えませんでした。
「何かあったのかも…」
どうしても不安を呟いてしまいます。
なかなか帰ってこない徹さんを心配して何度も時計を眺めてしまうんです。
まもなく時刻は午前0時に差し掛かります。
徹さんが出発してからもう1時間が経ってしまうんです。
さすがに遅すぎるのではないでしょうか?
せめて魔力の波動が感知できれば少しは安心できるんですけど。
私が感知できる範囲は目で見える範囲内だけです。
純さんと朱鷺田さんもそれは同じようで、
唯一、天城さんだけが遠距離の波動を感知できるそうです。
その天城さんが何も言わないということは徹さんが無事ということなのかもしれませんが、
やっぱり不安は感じてしまいます。
「どうにか迎えに…」
行けないかどうかを確認しようと思ったのですが、
その前に朱鷺田さんの耳が接近する足音を聞き付けたようでした。
「誰かが接近しています!」
慌てて扉に駆け寄る朱鷺田さんですが、
足音の人物が徹さんなら何も問題はありません。
ですが。
もしもそうでなかった場合は面倒なことになってしまいます。
そんな危機感を感じて気配を押し殺す朱鷺田さんでしたが、
誰よりも早く答えに気づいた天城さんが声を掛けてくれました。
「心配の必要はない。この魔力の波動は徹だ」
天城さんの言葉を聞いた瞬間に、私は笑顔を取り戻していました。
「無事だったんですね!」
笑顔で扉に歩み寄る私の視線の先で…
まだ警戒を続けている朱鷺田さんと純さんの視線の先で…
ついに更衣室の扉が開かれました。
音を抑えるために控え目に開かれる扉。
その扉の向こうには天城さんの指摘通りに徹さんが立っていたんです。
「遅くなってすみません。色々と話したいことがあるのですが、もうすぐここに人が来ます。ひとまず更衣室を撤退しましょう」
撤退を提案する徹さんの発言によって、
私達は即座に更衣室を離れることになりました。




