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THE WORLD  作者: SEASONS
4月17日
852/4820

交代の時間

そして数分後。


「さて、ここからが問題ですね」


いよいよ最後の難関に挑むために階段に向かうことになりました。


「どうしましょうか?」


地下と地上を繋ぐ道はただ一つの階段だけです。


なので。


階段を上がると必然的に先程の兵士達と遭遇することになってしまいます。


…とは言え。


さきほど階段を下りる時に顔を見られている為。


すんなり帰れるかどうかは疑問です。


調査を開始してから随分と長く行動しているように思えますが、

地下に下りてからまだそれほど時間は経っていないはずです。


おそらく1時間程度でしょうか?


あまり急いで帰ろうとすると不審に思われかねないこの状況で、

ごく自然と警備を越える為にはどうすればいいのかを考える必要があります。


「更衣室に向かうためには…」


撤退の方法に思い悩んでいると、

不意に複数の足音が聞こえてきました。


「うわ…。誰か階段を下りてきていますよね?」


それも複数です。


「これはまずいですよね…。」


僕は今、階段の下で歩みを止めている状況です。


そして地上からは数名の職員が階段を下りようとしています。


このままでは互いに遭遇することになってしまうでしょう。


本来ならそうなってしまう前に逃げ出すべきなのですが、

足音に気づいたときにはすでに間に合いそうにありませんでした。


通路に逃げ込む時間はなかったのです。


かと言って大広間に隠れられそうな場所もありません。


逃げ切る前に職員達の視界に入ってしまうでしょう。


そう考えたことで必死に言い訳を考えました。


「何か、良い理由は…っ!?」


動揺して焦る僕の視界に職員の足元が映ります。


そして…。


「…ん?」


職員の一人が僕に気付きました。


「こんなところで出迎えか?」


職員の言葉に続いて別の職員が僕を見下ろしながら面白そうに言葉を続けています。


「交代が待ちきれなかったんじゃないか?」


「ああ、そうか。ずっと地下じゃ息も詰まるからな。その気持ちは良く分かる」


楽しそうに笑い合う二人の職員。


そんな二人の間を割って、

唯一の女性職員が二人に声をかけていました。


「はいはい。交代がお望みなら私が代わってあげるから、ささっと帰っていいわよ」


「いやいや。菜々ちゃんと一緒なら地下でもどこでも頑張れるから、帰りたくないけどね」


「そうそう。唯一の癒しの時間だからな」


「はぁ…。馬鹿ばっかりね」


仲良く笑いあう二人の男性職員を眺めながら、

菜々と呼ばれた女性職員は大きくため息を吐いていました。


「まあ何でもいいけど。交代の時間だから、ゆっくり休んでいいわよ」


憂鬱ゆううつそうな雰囲気で呟いた菜々さんは、

僕に視線を向けて微笑んでくれました。


とても美しい笑顔ですね。


米倉代表と同程度でしょうか。


愛里ちゃんや妹の薫とは違う大人の余裕というものが感じられる笑顔でした。


「ありがとうございます」


「ふふっ。お礼なんていいわよ」


颯爽と歩き出した菜々さんは僕の横をすれ違ってから実験室に向かって行きました。


「おっと、急がないとな」


「菜々ちゃんに遅れる!」


慌てて追い掛ける二人の男性も見送ったあとで、

僕はようやく理解が追い付きました。


『交代の時間』という意味にです。


先程、僕を交代と勘違いして出て行った職員がいたことを思い出しました。


「もうそんな時間ですか…。」


時計を見る余裕すらなかったのですが、

会話の流れから、すでに深夜12時に近いことを知りました。


どうやら本当に丸々1時間ほど地下にいたようですね。


「急いで帰りましょう」


警備兵にどう対応すればいいのかはまだ考えていませんが、

とにかく向かってみるしかありません。


みなさん心配しているはずですからね。


特に愛里ちゃんは僕の身を案じてくれていると思いますので

少しでも早く安心させてあげたいと思います。


「言い訳の内容はその時に考えましょう」


まずは警備兵のいる上の階まで戻るのが先決です。


そのために階段に足をかけようとした僕の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきました。


「ようやく休憩出来るわ」


誰かと話しながら通路を歩いてくるのは、

先程、声を掛けた女性職員のようです。


「丸々、一日中っていうのもしんどいわね~」


「早く着替えて、家でゆっくりしましょう」


女性の呟きに別の職員が答えているようです。


「そうね。ちゃんと布団で寝たいわね~」


仲良く大広間に歩みを進めてくる二人の女性職員。


その会話の内容を聞いた僕は危機感を感じてしまいました。


先程の男性がどうしたのかは分かりませんが、

少なくとも後ろにいる女性達は更衣室に向かおうとしているからです。


天城さん達が隠れているはずの『更衣室』に、です。


「更衣室から撤退しないと…!」


焦りを感じた僕は女性達に見つからないうちに急いで階段を駆け上がりました。


…その結果として…。


やはり問題に直面してしまうようです。


慌てて階段を駆け登る僕の視線の先に警備兵の姿が見えた瞬間に、

ついつい忘れていた事実を思い出しました。


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