4つの部屋
《サイド:栗原徹》
一人で地下に残った僕は、
ひとまず通路に張られている案内図に視線を向けることにしました。
朱鷺田さんが来る前にも暇つぶしに眺めていたのですが、
本格的に一人になってしまったのでここからは自分自身で行動方針を決めなければいけません。
「これからどこに向かえばいいのでしょうか?」
地下には4つの部屋があるようです。
一つは今いるこの場所ですね。
地上につながる階段がある大広間なのですが、ここは警備兵の詰所のようです。
見える範囲のあちらこちらに剣や槍などの武器が備え付けられていますので、
見方によっては武器庫のようにも思えます。
「本来ならこの場所に多くの警備兵がいるのでしょうが…」
昼間の警報によって多くの兵士達が召集されたために警備が手薄になってしまったのでしょう。
明日にはまた警備兵が補充されて、
ここも兵士達で一杯になるのかもしれませんが、
さすがに今日はそこまで手配が追いついていないのかもしれません。
階段付近で監視についていた警備兵が、
現状での兵士の全てなのかもしれませんね。
もちろん研究所の周囲の警備は厳戒態勢のままのようですが、
内部は間違いなく手薄と考えていいと思います。
「ひとまずこの周囲は安全に行動できそうですね」
警備兵がいないというだけで心に余裕が持てる気がします。
「今のうちに調査を進めましょう」
もう一度案内図を確認してみると実験室は2つありました。
この広間にある出口から通路に出られるのですが、
途中で三方向に分かれるようですね。
左右の通路の先にそれぞれ実験室があり、
真ん中の通路を進むと機械室と呼ばれる部屋にたどり着けるようです。
…と言っても。
3つの部屋は横並びになっていますので、
方角的にバラバラというわけではありません。
実験室1、機械室、実験室2の順番に並んでいます。
普通に考えれば機械室が怪しいのですが、
兵器の研究は実験室で行われている気がしますので
どちらかの実験室に兵器があると考えるべきではないでしょうか?
現状ではどちらの実験室が正解なのかは不明ですが、
一つずつ順番に調べてみるしかありませんね。
「ただ…他の職員に出会った場合はどうしたら良いのでしょうか?」
夜間は実験班しか出入りできないようですので地下にいる職員は全員、実験班のはずです。
先ほどの警備兵のような職員を服装で判断する人達ではなくて、
顔や名前で職員かどうかを判断出来てしまうような人達がいるはずなんです。
特に管理職の人間であれば自分の部下の顔や名前くらいは正確でなくとも覚えているでしょう。
「どう考えてもごまかせる気がしないのですが…」
ここまで来てしまった以上は前向きに頑張るしかないのかもしれません。
ひとまずは右手側から調べてみることにしました。
大広間から通路に出て右側の実験室からです。
ここは実験室2と書かれているのですが、
どれだけ耳を澄ませても室内からは物音一つ聞こえない静寂さがありました。
「………。」
そっと足音を忍ばせて歩み寄る実験室の扉。
息を潜めて耳を当てて内部の音を聞こうとしてみましたが、
やっぱり物音は何もしません。
「うーん。どうしましょうか?」
一人で呟きながら、扉へと手をかけてみます。
「覗いてみるのが一番早いんですが…」
様子を見るために僅かに扉を開いてみると室内の景色は真っ暗闇でした。
「使われていないのでしょうか?」
なんからの機材があるのは分かるのですが、人の気配は全くありません。
それどころか仕事を放り出してしまったかのような乱雑な雰囲気を感じてしまいます。
「部屋そのものが放棄された感じ…でしょうか?」
よくわかりませんが、不審に思いながらも引き返すことにしました。
そして隣の部屋になる機械室に近づこうとしたのですが。
接近するまでもなく、
機械室の扉は厳重に封印されているようで、
とても中には入れるような雰囲気ではありませんでした。
「機械室は後回しですね」
…と言うか。
調べたくとも調べられないのでどうしようもないというのが本音になります。
「もしも実験室1も無人のようなら機械室に強行突破を試みるしかないかもしれませんね」
実験室がどちらも外れなら機械室に潜入するしか方法はありません。
なので、事実確認を行うために機械室の前を通り過ぎた僕は、
もう一つの実験室へと歩みを進めることにしました。




