必ず一緒に
《サイド:常盤沙織》
………。
龍馬達は先行部隊として行動するつもりのようです。
ですが、みんなが次の行動に移ろうとする中で、私はその場にとどまり続けていました。
自分でもどうしてそうしようと思ったのかはわかりません。
それでもなんとなくここを離れるのをためらってしまったんです。
もちろんここから離れたくないというわけではないのですが、
個人的な理由で砦に残りたいと思ってしまったんです。
そのために立ち止まってしまったことで、翔子が私に振り返ってくれました。
「あれ?どうしたの、沙織?」
翔子が不思議そうに私を見ています。
どう答えるべきでしょうか?
少し悩んでしまいましたが、
今は素直な気持ちを答えようと思います。
「ごめんなさい。私はここに残るわ」
「…え…っ?」
私の言葉を聞いて、翔子は戸惑ったようでした。
そしてそれは龍馬達も同じだったように思います。
「どうしてっ!?」
どうして…でしょうか。
自分でもはっきりとしたことはわかりません。
ですが慌てて問い詰めてくる翔子に、いい加減なことは言えません。
これは私のわがままなのですから。
正直に答えたいと思います。
「ごめんね。上手く説明できないけれど…でもね。知りたいことがあるの」
どうして戦争が起きたのか?
その理由を知りたいと思っているんです。
「それはね。きっとここでしか知ることが出来ないと思うの」
実際に戦って、苦しんでいる人達から聞いてみないと分からないと思うからこそ。
最後までこの戦いを見届けたいと思うんです。
「どうして争う必要があったのか?私はそれが知りたいの」
自分自身の思いを告げた私の意思は固く、
説得されても聞き入れるつもりはありませんでした。
どうしても知りたかったのです。
アストリア軍が戦う理由を。
そして一般の方々が死を覚悟してまで戦い続けた理由を、です。
「何も知らないまま先に進むようなことはしたくないの。」
ちゃんと全てを知った上で、その上で自分の足で進んでいきたいんです。
「………。」
私の思いを聞いて何も言えなくなる翔子達。
だけど理事長だけは、私に話しかけてくれました。
「ねえ、沙織?真実を知ることが必ずしも良いとは言い切れないわ。何も知らないほうが幸せなことだってあるのよ。それなのに、それでも沙織は真実を知りたいと願うの?」
知らない方が良いこと…ですか。
確かにそういうこともあると思います。
ですがそれでも、私は知りたいと思うんです。
「例え戦争の真実が知らないほうが良かったことだったとしても、私は全てを受け入れたいと思います。それが、私達が犯した罪への償いだと思うからです」
私達の犯した罪。
それは数多くのアストリア軍を殺めたことです。
例え現状が戦争であって、
守る為の犠牲であったとしても命を奪った事実は変わりません。
人を殺したという事実はごまかせないのです。
だから私は決断しました。
自らの『罪』と向き合うことを…です。
全ての真実を知ることで、現実と向き合う覚悟を決めたのです。
「私はここに残ります。そして全てを知りたいと思います。それがきっと、私の役目だと思うからです」
思いを告げてから、私はみんなに背中を向けました。
「先に行ってください。私は、あとから追いかけます」
「………。」
別行動をとると決めた私の気持ちを汲みとってくれたのでしょうか?
理事長は無理に強制しようとはせずに私を置いて歩きだしました。
「みんな…行くわよ」
先導して歩く理事長の後を追って、
北条君、優奈ちゃん、悠理ちゃん、武藤君が歩きだしたようです。
ですが、翔子と龍馬は歩き出せずにいるようでした。
「ねえ、沙織。できれば私も一緒に残ってあげたいけど…」
「ううん。いいの。翔子は無理をしなくていいの。」
私の都合に翔子を巻き込もうなんて欠片も思っていません。
それに、翔子には翔子の目的があるはずです。
「翔子は天城君を捜してるんでしょ?だったらここにいるべきじゃないわ。王都に向かうべきだと思うの。だから私のことは気にせずに先に行って」
急がなければ、もう二度と会えなくなる可能性だってあるんです。
王都に向かった天城君が必ずしも無事だとは言い切れません。
だから、翔子には少しでも早く王都に向かって天城君と再会して欲しいと思います。
「私のことなら心配しないで。またすぐに会えるから。必ずあとで追い掛けるから。翔子は翔子の目的のために、ちゃんと前に進んでいて」
私にはそれぐらいのことしか言えませんが、
今は他に伝えるべき言葉が思い浮かびませんでした。
「私なら大丈夫。だから、ね。」
「…ごめんね」
精一杯答える私に、翔子は謝ってくれました。
謝る必要なんてないのに、それでも翔子は謝ってくれたんです。
「ごめんね、沙織。私は何も出来ないけど…頑張ってね」
「ええ、ありがとう、翔子。またあとで会いましょう」
別れを告げる私と翔子。
背中を向けている私には見ることができませんが、
翔子の声が震えているような気はしました。
もしかしたら泣いていたのかもしれません。
それでも翔子は我慢して、
私に背中を向けて歩きだしました。
「絶対、また会えるから。だから一緒に帰ろ?成美ちゃんが待つジェノスに…」
「ええ、約束するわ。必ず一緒に帰りましょう」
涙を堪えながら答えます。
そうして翔子が離れたのを見送ったあとで、
今度は龍馬が声をかけてくれました。




