3時間後
《サイド:天城総魔》
翔子、沙織、北条。
それぞれが真剣な表情を浮かべ、
周囲の係員達も事の成り行きを見守っている。
沙織と北条はどう声をかけるべきか思い悩んでいるようだな。
こちらからはこれ以上言うべき言葉がないのだが、
意を決した翔子はわずかに俺を見上げながら訊ねてきた。
「…今から?」
恐れか?緊張か?
翔子の声は若干震えているように感じる。
そんな翔子の顔を見つめながら、
最終的な判断は翔子自身に委ねることにした。
「いや、病み上がりでは全力を出せないだろう。万全な状態でない翔子と戦っても意味がないからな。準備が整うまで俺はここで待ち続ける。まずは体調を整えてから出直してくればいい」
「くっ…!」
判断をゆだねたことで翔子に睨まれてしまった。
翔子の体調を考慮して気を使ったことが今回は裏目に出たようだ。
おそらく俺の発言が気に入らなかったのだろう。
猶予を与えられたことで歯がゆい思いを感じているようだった。
まあ、それも当然か。
本来なら挑戦を受ける側は翔子だからな。
今の言葉は翔子が俺に向かって言うべき言葉だ。
番号順で言えば俺は翔子よりも下だからな。
下位の番号を持つ俺から気を使われる必要はないだろう。
だが、今の翔子は精神的な立場が逆転している。
実力がどうこうよりもすでに気持ちが負けている様子だからな。
そんな自分のふがいなさに気付いたのかもしれない。
翔子は唇を噛み締めていた。
一体、何時から恐れを感じるようになったのか?
おそらくはそういった疑問を感じているのだろう。
翔子は自分自身に対しての怒りすら感じながらも力強く一歩前へと踏み出して、
睨むような瞳で俺に指を突き付けてきた。
「あなたの挑戦を受けるわ!!試合は今から3時間後。私は全力で総魔と戦うつもりよ。だから、総魔も手加減なんて絶対に考えない事ね!」
全力で戦うことを宣言してから翔子は背中を向けて歩き出す。
そしてそのまま会場から離れていく。
そんな翔子を追い掛けようとする沙織が俺に背中を向けて動き出そうとするその前に。
ふわりとゆれる黒髪を見つめながら、
はっきりと聞こえるように話しかけることにした。




