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THE WORLD  作者: SEASONS
4月17日
821/4820

英雄?勇者?死神?悪魔?

《サイド:美袋翔子》


…やっと終わりね。


東門の手前。


アストリア軍の第二陣との戦いもようやく決着の時を迎えようとしていたわ。


「東門に狙いを定めるわよっ!!全軍!一斉攻撃っ!!!」


理事長の指示によって、あらゆる魔術が東門へと放たれる。


「「「「ぐあああああああっ!!!!」」」」


「「「「いやああああああああああああっ!!!!」」」」


「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」


次々と響き渡るアストリア軍の悲鳴。


共和国軍の一斉攻撃によってアストリア軍の前線部隊が壊滅したわ。


死体の積み重なる惨劇の地。


それでも絶望の中を恐れることなく駆け抜けるアストリア軍。


彼らの瞳は死を恐れずに全てを受け入れていて戦い続ける意志を保ち続けてる。


死を覚悟した特攻隊なのよ。


玉砕覚悟で突撃を試みるアストリア軍の勢いは激しくて、

どれ程の仲間を失っても、

どれ程の痛みを味わっても決して足を止めることはなかったわ。


「なんで諦めないの…?」


呟いてみるけれど答えは誰も教えてくれない。


だから私はまだ何も知らないでいるわ。


アストリア軍が命をかけて戦う理由を知らないのよ。


ただの一般人が戦争に参加して魔術師と戦う決断をした本当の意味を私は知らずにいるの。


「…なんで?」


次々と倒れていくアストリア軍を眺めながら疑問を持ち続ける。


どうして戦えるの?


どうして死を恐れないの?


どうして逃げないの?


どうして諦めないの?


…そして…。


どうして戦争が起きたの?


何も分からない。


だけど疑問を抱える私に理事長が一言だけ教えてくれたわ。


「それはね。魔術が存在するからよ」


「えっ…?」


理事長の言葉に戸惑ってしまったわ。


なのに理事長はその意味に関して何も教えてくれなかったのよ。


「悩んでも、迷っても、この戦いは終わらないわ。戦って勝つ以外に私達が生き残る道はないの。だから今は勝つことだけを考えなさい」


説明を避けて話を終えた理事長のせいで、

私は何も分からないまま戦場に視線を戻すことになったわ。


走り続けるアストリア軍と魔術による抵抗を試みる共和国軍。


刻一刻と増え続ける死体の山。


それでも果敢に突撃して共和国軍に攻め込むアストリア軍は止まらない。


悪化する戦況はどちらにとっても同じで、

どちらが有利でもなく、どちらも戦力が失われていくのよ。


ただただ絶望的な殺し合いとしか思えないわね。


そんな様子を眺める私に沙織が寄り添ってくれてる。


「きっと、きっとね。お互いに命をかける理由があって、私達はその理由の為に戦っているんだと思うの。向こうの理由はまだ分からないけれど、私達には守りたい人達がいるし、守りたい場所がある。そして守りたい未来がある。生きて大切な人達が待つ場所へ帰る為に、私達は戦っているのよ」


そこで一旦言葉を区切ってから、

沙織は戦場に視線を向けながら言葉を続けたわ。


「だからね。向こうも同じだと思うの。守りたい何かがあって、その為に戦っているんじゃないかしら?たぶん、私達とは違う理由で彼等は戦いを決断したんだと思うの。それがなにかまでは分からないけれど、負けられない理由が向こうにもあるのよ。きっと…ね。」


負けられない理由?


それはそうなのかもしれないけど。


それが何なのかが想像も出来ないのよね。


そもそも戦争さえ起こさなければ…


あるいは争うことさえしなければ、

失わずに済んだ命は沢山あるはずなのよ。


それなのに殺し合って争うことでしか解決出来ない理由って何なの?


それが私には理解出来ないわ。


理事長の言葉の意味はなに?


『魔術が存在するから』って教えてくれた理事長の言葉にどれ程の意味があるの?


私には何も分からない。


「死を覚悟してまで戦う理由って何なのよ?」


呟いてみるけれど、

その疑問に答えてくれる人はいないのよ。


だからかな?


思い悩む私に真哉が歩み寄ってきたわ。


「翔子」


「ん?」


呼び掛けてきた真哉を見つめ返す。


「ねえ、真哉。真哉は何で戦えるの?」


「はあ?今更な質問だな。戦わねえと守れねえモノがある。だから俺達が戦う理由は守る為だ。そうだろ?」


当然とばかりに答える真哉だけど、それはもう分かってるのよ。


「でも、向こうは?」


「さあな。敵の考えなんて興味はねえが、向こうにも戦うことでしか守れない何かがあるんじゃねえか?ただの『魔術師狩り』だけでは、叶えられない何かがあるんだろ?」


「だから、それが何なのかを知りたいのよ!」


「ああ?ったく、面倒なやつだな。一応聞くが、それを知ってどうする?仮に向こうの言い分が正しかったとして、お前は大人しく殺されてやるつもりなのか?」


そ、それは…。


ちょっと困るけど…。


死にたくはないけど。


知りたいとは思うのよ。


それでも言葉に詰まってしまった私に、真哉は現実を突きつけてきたわ。


「今の俺達に必要なことは生き残ることだけだ。争いの理由なんてあとで気の済むまで考えれば良い。そうだろ?違うか?」


考えることを丸投げにして、真哉はラングリッサーを構えてる。


「力でしか解決出来ない事こともある。そして、今がその時だ。守るべきモノの為に戦う。それが俺の役目だ」


ルーンを構える真哉は突撃を続けるアストリア軍に向けて全力で駆け出したわ。


「仲間に手出しはさせねえぜっ!!!」


振り回される『ラングリッサー』


その一振り毎に倒れていくアストリア軍。


戦場を駆け抜ける真哉の姿に迷いは一切見えないわね。


魔力の回復が追い付かないせいで戦えない私と沙織を守る為に

必死に戦場を駆け回ってくれているのよ。


その姿は決して恰好良いものじゃないと思うわ。


凄いとは思うし、強いとも思う。


だけど格好良さなんてどこにもない。


それは私の主観がどうとかそういうことじゃなくて、

人を殺し続ける姿に格好良さなんて感じちゃダメだと思うから。


だから真哉に限らず、

龍馬も他の人達も格好良いなんて思わないわ。


まあ、ここにいるのが総魔だったら感想は変わってくるのかもしれないけれど。


今の私はまだ殺人が格好良いとは思えないのよ。


だから、っていうわけじゃないけれど。


私達の代わりに戦ってくれている真哉を見て感じる思いは悲しみでしかないわ。


すでに真哉の両手は多くの血を浴びているし。


貰ったばかりのコートも返り血と砂埃と土砂でドロドロに汚れてる。


それでも止まらない戦争を生き抜くために

次々と人を殺し続ける真哉の周囲には沢山の血が流れているのよ。


数え切れない程の罪を重ねて仲間を守り続ける真哉の姿は

恰好良いなんてちっぽけな言葉では言い表せないわ。


その姿は英雄でもなければ勇者でもないの。


自分の中の理由の為だけに戦う真哉の姿はまさに死神そのものなのよ。


だけどね?


だからこそ私は思うの。


そうならなければ生き残れないんだってね。


残虐なほどの罪を重ねて必死に戦い続けることでしか解決出来ない問題もあるのよ。


戦場を駆け抜ける真哉は恐れるほど強くて、

その存在感は圧倒的で悲しいほどに冷酷だったわ。


だから今もまた一人、

真哉の攻撃がアストリア軍の兵士の命を刈り取っていくのよ。


「うぁぁぁ…っ!!」


一人、また一人と倒れていくアストリアの兵士達。


勢いを止めることなく振り回される槍の一撃を受けて、

真哉の周りには続々と死体が積み重なっていったわ。


「あ、悪魔だぁぁぁ!!!!!」


怯えるアストリアの兵に容赦無く駆け込む真哉はその手の槍で兵士の体を貫いてた。


「がっ…ああっ…!?」


力尽きて倒れ込む兵士が絶命する。


その間にも、次の敵に狙いを定めた真哉は走り出してく。


何回?


何十回?


何百回?


繰り返される斬撃音の度に、次々と倒れていく兵士の叫び声が周囲に響き渡る。


そんなふうに全力で暴れ続ける真哉の背後に一人の人物が接近したわ。


「遅れてごめん!加勢する!」


仲間の声を聞いた真哉の表情に笑顔が浮かんでた。


「待ってたぜ、相棒!」


笑顔で受け入れる真哉の背後を守るのは

ルーンが使える程度に魔力が回復した龍馬だったのよ。


「僕も戦うよっ!!」


シャイニングソードを片手に戦場を走り出す龍馬もその手の大剣を振り回して、

勇猛果敢にアストリア軍へと攻め込んでいく。


容赦なく振り回す大振りの一撃。


たった一振りの攻撃で、周囲にいた数名のアストリア軍がその体を分断されてしまったわ。


「「「………っ!!」」」


声さえ出せずに崩れ落ちる兵士達。


龍馬の参戦によって再び気合いを込める真哉も次々と兵士を切り倒していく。


「ぐああああああっ!!!!」


「うわああああああっ!?」


まさしく蹂躙よね。


真哉と龍馬の活躍によって徐々に崩れていくアストリア軍は成す術もないまま倒れていくのよ。


それでも止まらない龍馬達は

多くの魔術師達の援護を受けながら敵軍の指揮官の側にまで接近したわ。


「くっ!バケモノどもめ…っ!!」


苦々しく呟きながら、指揮官が両手に剣を構える。


だけど…。


たぶん2刀流っていうわけじゃないと思う。


単純に2人同時に相手をする為に剣を両手に構えて、対峙した感じかな?


「一矢報いてみせるっ!!!」


倒れていった仲間達の為に死を覚悟で突撃する指揮官だけど、

龍馬と真哉の二人を同時に相手にするには実力が及ばないでしょうね。


「これで終わりだっ!!」


龍馬の大剣が指揮官の体を斬り…


「さっさと死になっ!!!」


真哉の振り回す槍が指揮官の体を貫いたわ。


切断からの刺突。


龍馬と真哉のそれぞれの一撃を受けた指揮官は口から血を吐きながら大地に崩れ落ちたのよ。


「…くそ…っ!一太刀さえ届かぬとは…」


悔しさをその表情に表しながらも指揮官は死を迎えてしまう。


「退却だーーーー!!!」


「全軍!後退しろーーー!!!」


指揮官が倒れたことで、続座に撤退を始めるアストリア軍。


僅かな生き残りが砦の内部へと逃げ込むのを無理に追撃せずに、

龍馬達は逃亡を見送ってる。


敵はまだ全滅してないから深追いは危険と判断したようね。


理事長の指示の下で、

共和国軍もアストリア軍の撤退を見届けていたわ。


「何とか第二陣も防ぎきったわね」


ほっと息を吐く理事長に優奈ちゃんが歩み寄っていく。


「これで終わったんでしょうか?」


…だといいんだけど。


「う~ん。どうかしらね?」


首をかしげる理事長もそうだと思うけど、

私もまだ敵は全滅してないと思うわ。


それでも相当な犠牲が出てるとは思うけどね。


10万の大軍団だったけれど。


それはもう崩れてるはずよ。


こちらの被害も大きいけどね。


敵の死者の数はそれ以上。


目測では計り知れないほどなのよ。


他の部隊の様子を知る為にも早々に行動するべきかもしれないわね。


「とにかく軍を進めるわよ。これ以上の休憩は他の部隊に影響を与えかねないし。敵に猶予を与える余裕もないわ」


私と同じ判断をした理事長は生き残った部隊を再編成して東門へと進軍を開始したわ。


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